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昔の話⑽
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「えっ……ここ……?」
そこは、有名なファストフード店だった。ホテルじゃないことに少しの安堵と疑問が湧く。
「なんかあったんだろ。話聞いてからでもホテルは遅くないしな」
オレは、ここ最近ずっとモヤモヤしていた事を佑輔さんに話した。話していくうちに、オレは誰かと踏み込んだ関係になるのが怖いんだとわかった。もう、裏切られたくないんだ。
「ふーん。振られて、自暴自棄になってるわけだ」
「べつに……そんなことは……オレには恋愛は向いてないのかなぁって。それなら、1回くらい経験しておくのも悪くはないかなぁ~って……」
そう言うとヘラッと笑ってみせる。
「それ、春人の悪い癖だよな」
「え?」
「何でもないように、ヘラヘラ笑うの。それがお前の処世術なんだろうけど、そうやって自分の感情に蓋をするとあとで自分に跳ね返ってくるぞ」
中学で変な噂がたってから、周りから嫌われないように言動や行動を気をつけていた。今はもう殆ど無自覚だったから、自分としてはそんなにヘラヘラしていたつもりはないけど、こんな自分は自分でも嫌いだった。何も返せないでいると、佑輔さんはさらに言葉を重ねる。
「お前は、自分に自信がないから必要以上に周りに合わせたり、深く踏み込まずに引いちゃうんじゃないのか?」
「へへっ……そうなんです……かね……」
「ほら、また……お前が自分を出したとしても、今周りにいる奴らはいなくなったりしないだろ。大学の奴はよくわからんけど、少なくとも泰輔は違うだろ」
「……っ」
しばらく、何も言えずに俯いてしまう。自分の嫌な部分を言い当てられたような、なんとも言えない不快感が身体を覆う。必死に堪えてないと涙が溢れそうだった。
「んーでもまあ、経験することで少し自信がつくことはあるかもなぁ。俺ももういなくなるし、最後の世話を焼いてもいいよ」
「え……」
「お前に、ちゃんと覚悟があるなら1回、経験させてやるよ」
そうして、佑輔さんと1回だけ関係を持ったんだった。あまり認めたくはないけど、それからは恋愛に対して少し余裕を持てたような気がする。実際に真野と付き合うまでにも、何人か恋人はいた。ただ、佑輔さんとの1回は一生忘れられないものだったことは間違いない。
「センセ……奥田先生っ」
昔の思い出にやや浸りながら帰る道すがら、聞き覚えのある声と肩を叩かれて、振り向くとそこには、少し息を切らした真野の姿があった。
「真野……」
「先生が見えたから、走ってきちゃいました。今日はごめんなさい」
「いや。残業お疲れ様」
真野と並んで家路まで向かい、無性に触れたくなって、真野の手を捕まえた。
「あの……いいの?」
驚き顔の真野に見つめられて、ややぶっきらぼうに返してしまうが、屈託なく笑う真野の顔を見て、誰かを好きになることを諦めなくて良かったなと、あらためて思った。
そこは、有名なファストフード店だった。ホテルじゃないことに少しの安堵と疑問が湧く。
「なんかあったんだろ。話聞いてからでもホテルは遅くないしな」
オレは、ここ最近ずっとモヤモヤしていた事を佑輔さんに話した。話していくうちに、オレは誰かと踏み込んだ関係になるのが怖いんだとわかった。もう、裏切られたくないんだ。
「ふーん。振られて、自暴自棄になってるわけだ」
「べつに……そんなことは……オレには恋愛は向いてないのかなぁって。それなら、1回くらい経験しておくのも悪くはないかなぁ~って……」
そう言うとヘラッと笑ってみせる。
「それ、春人の悪い癖だよな」
「え?」
「何でもないように、ヘラヘラ笑うの。それがお前の処世術なんだろうけど、そうやって自分の感情に蓋をするとあとで自分に跳ね返ってくるぞ」
中学で変な噂がたってから、周りから嫌われないように言動や行動を気をつけていた。今はもう殆ど無自覚だったから、自分としてはそんなにヘラヘラしていたつもりはないけど、こんな自分は自分でも嫌いだった。何も返せないでいると、佑輔さんはさらに言葉を重ねる。
「お前は、自分に自信がないから必要以上に周りに合わせたり、深く踏み込まずに引いちゃうんじゃないのか?」
「へへっ……そうなんです……かね……」
「ほら、また……お前が自分を出したとしても、今周りにいる奴らはいなくなったりしないだろ。大学の奴はよくわからんけど、少なくとも泰輔は違うだろ」
「……っ」
しばらく、何も言えずに俯いてしまう。自分の嫌な部分を言い当てられたような、なんとも言えない不快感が身体を覆う。必死に堪えてないと涙が溢れそうだった。
「んーでもまあ、経験することで少し自信がつくことはあるかもなぁ。俺ももういなくなるし、最後の世話を焼いてもいいよ」
「え……」
「お前に、ちゃんと覚悟があるなら1回、経験させてやるよ」
そうして、佑輔さんと1回だけ関係を持ったんだった。あまり認めたくはないけど、それからは恋愛に対して少し余裕を持てたような気がする。実際に真野と付き合うまでにも、何人か恋人はいた。ただ、佑輔さんとの1回は一生忘れられないものだったことは間違いない。
「センセ……奥田先生っ」
昔の思い出にやや浸りながら帰る道すがら、聞き覚えのある声と肩を叩かれて、振り向くとそこには、少し息を切らした真野の姿があった。
「真野……」
「先生が見えたから、走ってきちゃいました。今日はごめんなさい」
「いや。残業お疲れ様」
真野と並んで家路まで向かい、無性に触れたくなって、真野の手を捕まえた。
「あの……いいの?」
驚き顔の真野に見つめられて、ややぶっきらぼうに返してしまうが、屈託なく笑う真野の顔を見て、誰かを好きになることを諦めなくて良かったなと、あらためて思った。
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