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第5話 許されるもの。許されない人。
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「もっと・・・あの子たちに教えてあげたかった・・・」
ぽつりとつぶやく。
今教えている子の一人は話すのは苦手だが、物事を深く考える子だ。
別な子は少し耳の聞こえが悪いが、頭の回転がすごく早い。
普通の子より丁寧に時間を取るので、ぱっと見は効率が悪く感じるかもしれないが、他の子ににはない可能性を秘めていると思う。
人はわかりやすい長所ばかりに目がいきがちだ。
けれど、劣っていることを補うように人一倍優れている点が必ずある。
オリスナのような人物には、それがわからない。
むしろ、その良さを理解されないまま、つぶされかねない。
そう思っても、解雇されたアリシアには何もできない。
気力がわかない。
最近では何かを考え、行動することがとても億劫に感じる。
体もひどく重い。
足取り重く、マリアの部屋へと向かう。
「お母さま、お父様に言われてきました」
「あなたは、またあの人と喧嘩をしたの?
ここまで、怒鳴り声が聞こえてきたわ」
顔を見るなり、マリアが眉間に皺を寄せる。
「もっと大人になりなさい。
何度も言うけど・・・あなたが引くことを覚えればいいことでしょう?」
(なぜ、私だけが大人になって、引くことを覚えなければいけないのだろう?
すでに大人であるお父様たちは、引くことは覚えなくていいの?)
アリシアの胸の内に、暗い笑いがこみ上げる。
こんなことを考えていると知ったら、また怒鳴られるに違いなかった。
「一週間後に相手の方とお会いした後、今後のことを話し合うようになるから。
このお見合いもあなたのためよ。
お父様はあなたに苦労をさせたくないのよ。ちゃんと、分かってあげてね。」
廊下に出ると、妹のエミリアとすれ違った。
10歳になったエミリアはパステルカラーの普段着使いのドレスに身を包み、可愛らしい髪留めをセンス良く身に着けている。
首周りに見えるのは男性用のループタイ。
男性ものをアクセントに身に着けるのが、最近の流行らしい。
使われてるグリーン石がドレスに良く似合っていた。
「お姉さま、聞きましたわ。
お見合いなさるのですってね」
アリシアが今聞かされた話を、エミリアはすでに知っているようだった。
(知らなかったのは、当事者である私だけなのね・・・)
「お父様がお姉さまに、お似合いの殿方だと言ってました。」
無邪気な笑顔に悪意はない。
「後でお姉さまのお部屋で、お話を聞いてもよいですか?」
絡んでくる腕になぜかぞわっと気持ち悪さを感じた。
「ごめんなさい。疲れているの。」
「そうですか・・・」
明らかに残念そうにうなだれるエミリアから、さりげなく腕を外す。
部屋に戻り、アリシアは自分が10歳だった時のことを思い出してみた。
家の経済もまだ安定していなくて、事業面でも躓きが多く、オリスナもピリピリしていた。
洋服も本家の従妹のおさがりをリメイクして着ていた。
父からは「お前は地味で、センスというものがない」とよく言われていた。
(余り布で、下手くそな飾り花を作り洋服に縫い付けたら、父に馬鹿にされたっけ・・・悔しくて泣いたら、泣いたことで怒られて・・・)
こんなことを思い出したのはなぜだろうとぼんやりと考えてみた。
(ああ、あのループタイだわ)
あのループタイは、かって父が好んで身に着けていたものだ。
アリシアが机に置いてあったそれを手に取って見ていたら、マリアにものすごい剣幕で怒られた。
「お父様のものに手を触れてはいけません!
叱られますよ!!」
それ以来、父の装飾品には触ることはしないように気を付けていた。
(あの子は触れるどころか、それを身に着けることも許されるのね)
それがこの家における自分の序列位置なのだと思うと、心がさらに抉られた。
母の中でも、アリシアの存在はその程度のものなのだと。
(もう・・・何も考えたくない・・・)
ベッドに横たわった。
(神さま・・・もし・・・私の願いがかなうなら・・・)
最後の言葉を胸の中で唱える前に深い眠りに落ちていった。
どうか、私の残りの命を他の人にあげてください・・・。
ぽつりとつぶやく。
今教えている子の一人は話すのは苦手だが、物事を深く考える子だ。
別な子は少し耳の聞こえが悪いが、頭の回転がすごく早い。
普通の子より丁寧に時間を取るので、ぱっと見は効率が悪く感じるかもしれないが、他の子ににはない可能性を秘めていると思う。
人はわかりやすい長所ばかりに目がいきがちだ。
けれど、劣っていることを補うように人一倍優れている点が必ずある。
オリスナのような人物には、それがわからない。
むしろ、その良さを理解されないまま、つぶされかねない。
そう思っても、解雇されたアリシアには何もできない。
気力がわかない。
最近では何かを考え、行動することがとても億劫に感じる。
体もひどく重い。
足取り重く、マリアの部屋へと向かう。
「お母さま、お父様に言われてきました」
「あなたは、またあの人と喧嘩をしたの?
ここまで、怒鳴り声が聞こえてきたわ」
顔を見るなり、マリアが眉間に皺を寄せる。
「もっと大人になりなさい。
何度も言うけど・・・あなたが引くことを覚えればいいことでしょう?」
(なぜ、私だけが大人になって、引くことを覚えなければいけないのだろう?
すでに大人であるお父様たちは、引くことは覚えなくていいの?)
アリシアの胸の内に、暗い笑いがこみ上げる。
こんなことを考えていると知ったら、また怒鳴られるに違いなかった。
「一週間後に相手の方とお会いした後、今後のことを話し合うようになるから。
このお見合いもあなたのためよ。
お父様はあなたに苦労をさせたくないのよ。ちゃんと、分かってあげてね。」
廊下に出ると、妹のエミリアとすれ違った。
10歳になったエミリアはパステルカラーの普段着使いのドレスに身を包み、可愛らしい髪留めをセンス良く身に着けている。
首周りに見えるのは男性用のループタイ。
男性ものをアクセントに身に着けるのが、最近の流行らしい。
使われてるグリーン石がドレスに良く似合っていた。
「お姉さま、聞きましたわ。
お見合いなさるのですってね」
アリシアが今聞かされた話を、エミリアはすでに知っているようだった。
(知らなかったのは、当事者である私だけなのね・・・)
「お父様がお姉さまに、お似合いの殿方だと言ってました。」
無邪気な笑顔に悪意はない。
「後でお姉さまのお部屋で、お話を聞いてもよいですか?」
絡んでくる腕になぜかぞわっと気持ち悪さを感じた。
「ごめんなさい。疲れているの。」
「そうですか・・・」
明らかに残念そうにうなだれるエミリアから、さりげなく腕を外す。
部屋に戻り、アリシアは自分が10歳だった時のことを思い出してみた。
家の経済もまだ安定していなくて、事業面でも躓きが多く、オリスナもピリピリしていた。
洋服も本家の従妹のおさがりをリメイクして着ていた。
父からは「お前は地味で、センスというものがない」とよく言われていた。
(余り布で、下手くそな飾り花を作り洋服に縫い付けたら、父に馬鹿にされたっけ・・・悔しくて泣いたら、泣いたことで怒られて・・・)
こんなことを思い出したのはなぜだろうとぼんやりと考えてみた。
(ああ、あのループタイだわ)
あのループタイは、かって父が好んで身に着けていたものだ。
アリシアが机に置いてあったそれを手に取って見ていたら、マリアにものすごい剣幕で怒られた。
「お父様のものに手を触れてはいけません!
叱られますよ!!」
それ以来、父の装飾品には触ることはしないように気を付けていた。
(あの子は触れるどころか、それを身に着けることも許されるのね)
それがこの家における自分の序列位置なのだと思うと、心がさらに抉られた。
母の中でも、アリシアの存在はその程度のものなのだと。
(もう・・・何も考えたくない・・・)
ベッドに横たわった。
(神さま・・・もし・・・私の願いがかなうなら・・・)
最後の言葉を胸の中で唱える前に深い眠りに落ちていった。
どうか、私の残りの命を他の人にあげてください・・・。
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