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第10話 金に汚い人は、相手も金に汚いと考えるから話にならない。
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数か月後。
ある晩遅く、ローカスは飲んできたらしく、ご機嫌で帰宅した。
「話があるの。」
「なんだい?改まって」
椅子にこしかけると、ローカスは不思議そうにアリシアを見た。
「私に隠し事か、嘘をついてない?」
「そんなこと、あるわけないじゃないか。」
ローカスは心外だとばかりに腕を広げる。
アリシアには、どこか芝居がかっているように見えた。
「特別支給手当のことだけど」
ローカスが一瞬固まり、そっと視線をそらせた。
「そう・・・やはり、支給されていたことを、黙っているつもりだったのね。」
「違う、 今回だけ特別に支給されたんだが、付き合いがあってね・・・
君にはわからないだろうけど・・・男同士のさ。それに、本来僕が稼いだ金だ。
生活費は渡しているのだから、僕が使っても問題ないだろう?」
生活費は勝手に削るくせに、入ってきたお金は自分だけで使うのが当たり前。
本気で、稼いだ給料は自分だけのものだと思っているのだろう。
媚びるようなローカスを、アリシアは冷たく見据えた。
「はねうま亭のローズ。」
ローカスが再び、固まった。
「特別手当は、一回だけじゃありませんよね?
しかも・・・結婚してから4年で昇給。
ずいぶんとお給金も上がっていたんですね。
私には据え置きだとずっと言っていたのに。」
「調べたのか?」
「たまたま宮内の事務の方とお会いして、お話することがあっただけです。
あなたの仕事ぶりと内助の功を、ずいぶんとほめてくださりました。」
これは嘘だった。
しかし、嘘つきに全部を話す必要などないとアリシアは思っていた。
ローカスの顔色がだんだん蒼くなる。
「はねうま亭のローズさんのことは、有名らしいですね。
あなたと一緒に観劇をなさっていたとか。
私、あなたにそんな趣味があるなんて、ずっと知りませんでしたわ」
はねうま亭は町の飯屋兼宿場で、ローズはそこの一人娘だ。
看板娘で、なかなかの美人と評判。
男勝りで男性がメインでいく狩猟に一緒に参加しているのだという。
「彼女とはなにかあったわけじゃない。
ただ、観劇に興味あるけど一緒に行く人がいないというから、数回付き合っただけだ。
友人として節度ある付き合いをしていたんだ」
アリシアは冷ややかな笑みを浮かべて、ローカスの言い訳を聞いていた。
二人きりで狩りに出かけていたこと。
彼女の誕生日に狩り用の手袋や帽子、花を送っていたことも知っている。
「そう?私は一度も連れて行ってもらったことはないわ。」
「それは・・・君は・・そういうことに興味ないと思って・・・」
言葉を濁し、目を泳がせる。
「そのお金はどこから出てるのかしら?
私たちの生活費?それとも特別手当?」
「金、金、金って!君はそんなに金に汚い女だったのか!!」
ローカスが睨みつけ、突然、怒鳴りつけてきた。
「初めて会った時は、そんな女じゃなかったはずだ!!
結婚したら女は変わるというのは本当だな!!」
逆切れしてきたローカスを見て、アリシアは、なぜ彼が自分を選んだのか分かった気がした。
最初に出会った頃、彼の値踏みするような目。
アリシアが贅沢を好まず、質素で何にも執着しないように見えたからだ。
こいつならば好き勝手できる・・・と。
彼は不器用で優しい男じゃなく、計算高く、自己中なだけの男だった。
彼の結婚前の贈り物が、それを如実に表していたじゃないか。
相手が何をもらったら喜ぶかなんて、微塵も考えていないリスやウサギのはく製。
自分が贈りたいから贈る自己中な安上がりなものばかり。
(笑ってしまうわ・・・こんな男に私は真摯に尽くしていたなんて)
「もういいわ。離婚しましょう」
アリシアは言葉をかみしめながら、彼を見た。
ローカスは慌てはじめた。
「まて、冷静になろう。
離婚なんてしたって、君が後ろ指をさされるだけだ。
今までのことは謝る。ちゃんと話し合ったらわかるから」
アリシアは首を振った。
「怒っている理由は、金なんだろう?
今度から支給金のことはちゃんと言うし、なんだったら、これからの給金は、全部君に渡す。
だから離婚なんて言うなよ。な?」
アリシアは深くため息を吐いた。
この男は何もわかっていなかった。
アリシアは、お金のことで怒っているのではない。
けれど、この男には永遠にわからないんだろう。
「私、知っているの」
「な・・・何を?」
「あなたが私と離婚したくない理由。私を愛しているからじゃないわ」
「何いってるんだ・・・愛してるに決まっているじゃないか」
アリシアが口元に皮肉めいた笑いを浮かべる。
「あなた、私に内緒でずいぶん借金しているようね」
ローカスは完全に絶句した。
ある晩遅く、ローカスは飲んできたらしく、ご機嫌で帰宅した。
「話があるの。」
「なんだい?改まって」
椅子にこしかけると、ローカスは不思議そうにアリシアを見た。
「私に隠し事か、嘘をついてない?」
「そんなこと、あるわけないじゃないか。」
ローカスは心外だとばかりに腕を広げる。
アリシアには、どこか芝居がかっているように見えた。
「特別支給手当のことだけど」
ローカスが一瞬固まり、そっと視線をそらせた。
「そう・・・やはり、支給されていたことを、黙っているつもりだったのね。」
「違う、 今回だけ特別に支給されたんだが、付き合いがあってね・・・
君にはわからないだろうけど・・・男同士のさ。それに、本来僕が稼いだ金だ。
生活費は渡しているのだから、僕が使っても問題ないだろう?」
生活費は勝手に削るくせに、入ってきたお金は自分だけで使うのが当たり前。
本気で、稼いだ給料は自分だけのものだと思っているのだろう。
媚びるようなローカスを、アリシアは冷たく見据えた。
「はねうま亭のローズ。」
ローカスが再び、固まった。
「特別手当は、一回だけじゃありませんよね?
しかも・・・結婚してから4年で昇給。
ずいぶんとお給金も上がっていたんですね。
私には据え置きだとずっと言っていたのに。」
「調べたのか?」
「たまたま宮内の事務の方とお会いして、お話することがあっただけです。
あなたの仕事ぶりと内助の功を、ずいぶんとほめてくださりました。」
これは嘘だった。
しかし、嘘つきに全部を話す必要などないとアリシアは思っていた。
ローカスの顔色がだんだん蒼くなる。
「はねうま亭のローズさんのことは、有名らしいですね。
あなたと一緒に観劇をなさっていたとか。
私、あなたにそんな趣味があるなんて、ずっと知りませんでしたわ」
はねうま亭は町の飯屋兼宿場で、ローズはそこの一人娘だ。
看板娘で、なかなかの美人と評判。
男勝りで男性がメインでいく狩猟に一緒に参加しているのだという。
「彼女とはなにかあったわけじゃない。
ただ、観劇に興味あるけど一緒に行く人がいないというから、数回付き合っただけだ。
友人として節度ある付き合いをしていたんだ」
アリシアは冷ややかな笑みを浮かべて、ローカスの言い訳を聞いていた。
二人きりで狩りに出かけていたこと。
彼女の誕生日に狩り用の手袋や帽子、花を送っていたことも知っている。
「そう?私は一度も連れて行ってもらったことはないわ。」
「それは・・・君は・・そういうことに興味ないと思って・・・」
言葉を濁し、目を泳がせる。
「そのお金はどこから出てるのかしら?
私たちの生活費?それとも特別手当?」
「金、金、金って!君はそんなに金に汚い女だったのか!!」
ローカスが睨みつけ、突然、怒鳴りつけてきた。
「初めて会った時は、そんな女じゃなかったはずだ!!
結婚したら女は変わるというのは本当だな!!」
逆切れしてきたローカスを見て、アリシアは、なぜ彼が自分を選んだのか分かった気がした。
最初に出会った頃、彼の値踏みするような目。
アリシアが贅沢を好まず、質素で何にも執着しないように見えたからだ。
こいつならば好き勝手できる・・・と。
彼は不器用で優しい男じゃなく、計算高く、自己中なだけの男だった。
彼の結婚前の贈り物が、それを如実に表していたじゃないか。
相手が何をもらったら喜ぶかなんて、微塵も考えていないリスやウサギのはく製。
自分が贈りたいから贈る自己中な安上がりなものばかり。
(笑ってしまうわ・・・こんな男に私は真摯に尽くしていたなんて)
「もういいわ。離婚しましょう」
アリシアは言葉をかみしめながら、彼を見た。
ローカスは慌てはじめた。
「まて、冷静になろう。
離婚なんてしたって、君が後ろ指をさされるだけだ。
今までのことは謝る。ちゃんと話し合ったらわかるから」
アリシアは首を振った。
「怒っている理由は、金なんだろう?
今度から支給金のことはちゃんと言うし、なんだったら、これからの給金は、全部君に渡す。
だから離婚なんて言うなよ。な?」
アリシアは深くため息を吐いた。
この男は何もわかっていなかった。
アリシアは、お金のことで怒っているのではない。
けれど、この男には永遠にわからないんだろう。
「私、知っているの」
「な・・・何を?」
「あなたが私と離婚したくない理由。私を愛しているからじゃないわ」
「何いってるんだ・・・愛してるに決まっているじゃないか」
アリシアが口元に皮肉めいた笑いを浮かべる。
「あなた、私に内緒でずいぶん借金しているようね」
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