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王都へ
学園生活の始まり
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「…アンドレ!」
そう後ろから声を掛けられて、僕はその懐かしい声に振り返った。目の前には以前より更に背が伸びて、明るい茶色の髪を撫で付けたローレンスが微笑んで立っていた。
「入学おめでとう。アンドレが入学するのを楽しみに待っていたんだよ。ああ、勿論変な意味じゃないよ。同郷の者が側に居るのは嬉しい事だからね。」
少し慌てた様にそう言うローレンスに、僕は返事を出し損ねている手紙を思い出して言った。
「ローレンス、手紙をありがとう。丁度王都に到着した時に読んだから、君が学園の詳細を綴ってくれて有り難かったよ。」
あの手紙は感情を訴えかけるものではなかった。学園生活に必要なあれこれを親切にも教えてくれているものだったんだ。思えばローレンスと秘密のボードゲームをしていたのは、もう随分前の事だ。
今更ローレンスもそれを持ち出す様な気配は感じなくて、僕は自意識過剰だったかと申し訳なく思った。
ローレンスは明るく笑って僕の肩に手を回した。
「ああ、結構役に立ったろう?私も去年親戚にアドバイスを貰って随分助かったからね。アンドレは兄上がいらっしゃるけれど、シモン様はほら、殆ど帰省されてなかったからお忙しいと思ってね。
こう言う時は去年あれこれ苦労したばかりの私の方が助けになると思ったんだよ。」
ローレンスの細やかな気遣いに、確かに僕らはあの事があっても無くても気が合っていたのだと思い出して、僕は顔を上げて自然笑みを浮かべていた。
一瞬僕の肩に置いたローレンスの手の力が強くなった気がしたけれど、直ぐにその手は離されたので僕の勘違いだったみたいだ。
「…今度王都巡りをしないか?アンドレの好きそうな場所なら思いつくんだ。王都には素晴らしい本屋もあるよ。」
ローレンスの誘いに思わず目を見開いた僕は、少し興奮して言った。
「ああ!王都での楽しみのひとつはそれだったんだよ?地元じゃ殆ど見るべきものは無くて。」
するとローレンスは特徴的な緑がかった瞳を緩ませて、クスクス機嫌良く笑った。
「そうだろうね。辺境伯が王都へ行く度に本屋を呼ぶのは一部には有名な話だったみたいだよ。アンドレの読書虫のせいだと僕はそれを聞いた時に納得したんだけど、本当だったみたいだ。」
僕らがそんな話をしていると、近づいてくる者がいた。
「ローレンス、この美人な新入生と知り合いか?是非紹介してくれよ。」
一瞬、ローレンスの表情がこわばった様に思えたけれど、一歩前に出たローレンスは赤髪の体格の良い令息に呆れた様に言った。
「…ジェラルド。彼は入学したばかりなんだ。知り合いでもない上級生からそんな風に詰められたら怖いだろ?アンドレ、彼はジャンバリ侯爵家のジェラルドだ。私と同じ学年だよ。
ガサツな奴だから別に仲良くする必要は無いからね。」
普段から物腰の柔らかいローレンスのそんな物言いは初めて聞いたので、僕はクスクス笑ってジェラルドを見つめた。令息然とした兄上ともローレンスとも違う、どちらかと言うと辺境の騎士達の様な荒っぽさを感じるジェラルドは、侯爵家出身の割に思った事が顔に出るタイプみたいだった。
今も僕をまじまじと見て感嘆した表情を浮かべて、目を逸らそうともしない。
「…見れば見るほど美人だな。ああ、俺はジェラルド。君の情報はローレンスが漏らしてくれないんだ。こっそり教えてくれないか?」
僕は開けっぴろげなジェラルドに思わず心許して自己紹介した。ローレンスが隣で顰めっ面なのも少し面白い。
「そうか、君が噂のロレンソ辺境伯家の秘蔵っ子なんだな。だが噂以上だ。ローレンス、これは色々上級生からも茶々が入りそうだが、何か対策を考えているのか?
辺境伯の後継のシモン様は生憎卒業してしまったろう?」
僕は何が問題なのか分からなくてチラッとローレンスを見上げた。ローレンスはそんな僕に微笑み返すと、ジェラルドに嫌々言った。
「…確かにそうだ。あまり気が進まないけど、ジェラルドにもアンドレの壁になってもらった方が良いかもしれないね。私一人じゃ力不足かもしれない。」
僕には二人が何を言っているのかよく分からなかったけれど、丁度その時大時計の鐘が響いて、僕は挨拶もそこそこに教室へと急いだ。
教室に入ると周囲の視線は相変わらず何処にいても感じるものだと思ったけれど、ジェラルド様の言葉を思い出せば、僕の事は変な尾鰭がついて噂になっているのかもしれない。
シモン兄上が優秀過ぎるせいで、僕にも注目が集まるのは正直不本意だった。一方で、シモン兄上の名前を汚す事がない様にと身が引き締まる気がした。
同郷の令息達と情報交換をしながら歩いていると、前方からジェラルド様が数人引き連れて歩いて来た。
「よお、秘蔵っ子。朝以来だな。何か困った事があったら俺に言うんだぜ?」
そう言って笑うと、僕の頭をひと撫でして行ってしまった。ジェラルド様の同行者達が僕を無遠慮に見ていたのは気になったけれど、何か言われた訳でもなかった。
「アンドレ、ジェラルド様と知り合いなんだね?ジャンバリ侯爵家と言えば、武芸に秀でた名家だよね。特に後継のジェラルド様はまだ16歳だと言うのに、相当の腕前だと噂になってるよ。
侯爵家なのに、あんな風に気さくで信奉者も多いって聞いたよ。良いな、私も知り合いになりたいよ。」
仲間のそんな言葉を聞きながら、僕は確かにシモン兄上とは違ったカリスマ性が彼にはあると感じた。ローレンスに影響力のあるジェラルド様を紹介してもらったのは、有難い話だったのかな。
僕は呑気にそんな事を考えていたけど、有名人と知り合いになると言う事は、トラブルに巻き込まれると言う事と一緒だなんてその時は考えもしなかったんだ。
そう後ろから声を掛けられて、僕はその懐かしい声に振り返った。目の前には以前より更に背が伸びて、明るい茶色の髪を撫で付けたローレンスが微笑んで立っていた。
「入学おめでとう。アンドレが入学するのを楽しみに待っていたんだよ。ああ、勿論変な意味じゃないよ。同郷の者が側に居るのは嬉しい事だからね。」
少し慌てた様にそう言うローレンスに、僕は返事を出し損ねている手紙を思い出して言った。
「ローレンス、手紙をありがとう。丁度王都に到着した時に読んだから、君が学園の詳細を綴ってくれて有り難かったよ。」
あの手紙は感情を訴えかけるものではなかった。学園生活に必要なあれこれを親切にも教えてくれているものだったんだ。思えばローレンスと秘密のボードゲームをしていたのは、もう随分前の事だ。
今更ローレンスもそれを持ち出す様な気配は感じなくて、僕は自意識過剰だったかと申し訳なく思った。
ローレンスは明るく笑って僕の肩に手を回した。
「ああ、結構役に立ったろう?私も去年親戚にアドバイスを貰って随分助かったからね。アンドレは兄上がいらっしゃるけれど、シモン様はほら、殆ど帰省されてなかったからお忙しいと思ってね。
こう言う時は去年あれこれ苦労したばかりの私の方が助けになると思ったんだよ。」
ローレンスの細やかな気遣いに、確かに僕らはあの事があっても無くても気が合っていたのだと思い出して、僕は顔を上げて自然笑みを浮かべていた。
一瞬僕の肩に置いたローレンスの手の力が強くなった気がしたけれど、直ぐにその手は離されたので僕の勘違いだったみたいだ。
「…今度王都巡りをしないか?アンドレの好きそうな場所なら思いつくんだ。王都には素晴らしい本屋もあるよ。」
ローレンスの誘いに思わず目を見開いた僕は、少し興奮して言った。
「ああ!王都での楽しみのひとつはそれだったんだよ?地元じゃ殆ど見るべきものは無くて。」
するとローレンスは特徴的な緑がかった瞳を緩ませて、クスクス機嫌良く笑った。
「そうだろうね。辺境伯が王都へ行く度に本屋を呼ぶのは一部には有名な話だったみたいだよ。アンドレの読書虫のせいだと僕はそれを聞いた時に納得したんだけど、本当だったみたいだ。」
僕らがそんな話をしていると、近づいてくる者がいた。
「ローレンス、この美人な新入生と知り合いか?是非紹介してくれよ。」
一瞬、ローレンスの表情がこわばった様に思えたけれど、一歩前に出たローレンスは赤髪の体格の良い令息に呆れた様に言った。
「…ジェラルド。彼は入学したばかりなんだ。知り合いでもない上級生からそんな風に詰められたら怖いだろ?アンドレ、彼はジャンバリ侯爵家のジェラルドだ。私と同じ学年だよ。
ガサツな奴だから別に仲良くする必要は無いからね。」
普段から物腰の柔らかいローレンスのそんな物言いは初めて聞いたので、僕はクスクス笑ってジェラルドを見つめた。令息然とした兄上ともローレンスとも違う、どちらかと言うと辺境の騎士達の様な荒っぽさを感じるジェラルドは、侯爵家出身の割に思った事が顔に出るタイプみたいだった。
今も僕をまじまじと見て感嘆した表情を浮かべて、目を逸らそうともしない。
「…見れば見るほど美人だな。ああ、俺はジェラルド。君の情報はローレンスが漏らしてくれないんだ。こっそり教えてくれないか?」
僕は開けっぴろげなジェラルドに思わず心許して自己紹介した。ローレンスが隣で顰めっ面なのも少し面白い。
「そうか、君が噂のロレンソ辺境伯家の秘蔵っ子なんだな。だが噂以上だ。ローレンス、これは色々上級生からも茶々が入りそうだが、何か対策を考えているのか?
辺境伯の後継のシモン様は生憎卒業してしまったろう?」
僕は何が問題なのか分からなくてチラッとローレンスを見上げた。ローレンスはそんな僕に微笑み返すと、ジェラルドに嫌々言った。
「…確かにそうだ。あまり気が進まないけど、ジェラルドにもアンドレの壁になってもらった方が良いかもしれないね。私一人じゃ力不足かもしれない。」
僕には二人が何を言っているのかよく分からなかったけれど、丁度その時大時計の鐘が響いて、僕は挨拶もそこそこに教室へと急いだ。
教室に入ると周囲の視線は相変わらず何処にいても感じるものだと思ったけれど、ジェラルド様の言葉を思い出せば、僕の事は変な尾鰭がついて噂になっているのかもしれない。
シモン兄上が優秀過ぎるせいで、僕にも注目が集まるのは正直不本意だった。一方で、シモン兄上の名前を汚す事がない様にと身が引き締まる気がした。
同郷の令息達と情報交換をしながら歩いていると、前方からジェラルド様が数人引き連れて歩いて来た。
「よお、秘蔵っ子。朝以来だな。何か困った事があったら俺に言うんだぜ?」
そう言って笑うと、僕の頭をひと撫でして行ってしまった。ジェラルド様の同行者達が僕を無遠慮に見ていたのは気になったけれど、何か言われた訳でもなかった。
「アンドレ、ジェラルド様と知り合いなんだね?ジャンバリ侯爵家と言えば、武芸に秀でた名家だよね。特に後継のジェラルド様はまだ16歳だと言うのに、相当の腕前だと噂になってるよ。
侯爵家なのに、あんな風に気さくで信奉者も多いって聞いたよ。良いな、私も知り合いになりたいよ。」
仲間のそんな言葉を聞きながら、僕は確かにシモン兄上とは違ったカリスマ性が彼にはあると感じた。ローレンスに影響力のあるジェラルド様を紹介してもらったのは、有難い話だったのかな。
僕は呑気にそんな事を考えていたけど、有名人と知り合いになると言う事は、トラブルに巻き込まれると言う事と一緒だなんてその時は考えもしなかったんだ。
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