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王都へ
デミオの登場
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「やあ、アンドレ。そうか、入学したんだね?上級生と一緒にお昼だなんて、君もなかなかだね。シモン様はお元気?僕は最近会えてないから、君から宜しく言っておいてよ。ふふ、とは言え僕も忙しいけどね。
…アンドレの特別なご友人ですか?僕は一年のデミオ ミッシーニです。ジェラルド様、ローレンス様、どうぞお見知りおきを。良かったら僕とも遊んで下さい。」
そう言って、妖艶に微笑むと待っていた数人の上級生と一緒に意気揚々と立ち去った。
「何だ、一方的に。」
ジェラルドが顔を顰めてデミオ達の後ろ姿を見つめている。僕はデミオが妙な仄めかしをした気がして、居た堪れなかった。するとローレンスが心配そうな表情を浮かべて僕に尋ねた。
「なんかあいつ妙にアンドレに敵対心を燃やしてたね。確かに彼もそこそこ見れる方だとは思うけど、アンドレとはまるで別物だ。あれはどっちかと言うと…。」
はっきり言わないローレンスに、ジェラルドがニヤリと笑って身を乗り出すと、琥珀色の瞳を煌めかせて僕らに聞こえるだけの小声で言った。
「ああ。ペットちゃんだろうな。本人は勘違いしてるのか、割り切って楽しんでるのかは分からないけど。しかし入学早々でそれって相当だぞ?」
僕は二人の言わんとすることをぼんやりと察したものの、信じられなかった。デミオが沢山の相手と楽しんでそうしてると言うことだろうか。兄上とも一時の遊びだった?もしデミオの言うことが本当なら。
「上級生と一緒にテーブルについてたら、僕もそんな風に誤解されるんでしょうか…。もしかしてローレンスや、ジェラルド様もそう勘違いされるとしたら申し訳ないです。」
ローレンス達にあらぬ誤解を生じさせるのかと心配した僕がそう言うと、ローレンスはニッコリ微笑んで言った。
「普通はそうは思わないよ。デミオは自分から仄めかしただろう?あまつさえ私たちまで直接誘ったし。アンドレこそデミオとはいつ知り合ったんだい?ミッシーニ伯爵家は派手好きで有名だから、ほとんど王都を離れないって話だし、そもそも領地も別方向だ。
アンドレと知り合う機会などない気がするな。」
ローレンスの問いかけに、僕はデミオと知り合った機会について説明した。勿論兄上との事を仄めかされて傷ついた事は言わなかったけれど。
「俺も取り巻きがいるから、あまり批判する様な事は言えないが、デミオは調子に乗ってるな。新入生は上級生にモテるのは確かだけど、チヤホヤされるのと、実際に大事にされるのとでは天と地ほどの違いがあるからな。
しかしそうなるとあの噂も本当かもしれないな。ミッシーニ家のサロンはヤバいって話。俺も去年誘われたことがあったが、都合が悪くて行けなかったんだ。不埒な夜会が行われてるのかもしれないな。」
僕はまるで想像もつかない世界の話を聞いた気がして、思わず黙り込んでしまった。そんな僕を見たローレンスがジェラルドを睨むと慌てて僕に言った。
「アンドレがそんな奴らの餌食にされない様に、私達が守ってあげるよ。ジェラルド、変な話するからアンドレが怖がるだろう?まったく気遣いが無いんだから。」
ローレンスに叱られてジェラルドが大袈裟に肩をすくめて呟いた。
「そうは言っても、いつまでも箱入りにしておく事なんて出来ないんだぞ?まったくローレンスはアンドレに過保護過ぎないか?お前だってそこそこ色々な…。」
ローレンスとジェラルドが言い合い始めたのをぼんやり見つめながら、僕は一人心の中で呟いていた。
ジェラルドやローレンスが思うほど、僕は純粋な人間じゃないんだ。あんな風に兄上から軽んじられて酷い言われようでも、きっと兄上に別邸に誘われたら断る勇気はないだろう。
兄上に触れられたら、僕は自尊心など投げ捨てて身を投げ出してしまうのが分かってるから。
そんな昼間のやり取りがあったせいか、僕は屋敷の家令から渡された兄上からのカードを何処か諦めた気持ちで持ち上げた。カードナイフで蝋を剥がすと、中からは美しい模様のカードが一枚出て来た。
日付と時間、そして別邸の住所が記された下に、兄上らしい隙のない筆跡でひと言書かれていた。
『家令には泊まりで遊びに来る様に伝えてある。』
あの時の話は冗談でも何でもなかったんだ。ふしだらな僕のせいで、辺境伯家の醜聞を防ぐために兄上が責任を取ると言うシナリオが目の前に広がっていた。
これは多分僕の望み通りだ。この機会を逃せば、きっと兄上とそうなるチャンスはもう訪れないだろう。兄上がどう考えているのかはもう関係ない。僕の初恋はこれで成就されて無惨にも散る。そうしなければ僕は前に進めない。
僕はカードをそっと封筒にしまうと、カレンダーを眺めてペンで日付に丸をした。
あと2日。僕はこの2日をギリギリまで迷いながら過ごす事になるだろう。決心したとは言え、義兄弟である兄上とそう言う関係を結ぶのは許されるものでもない。
ふと、兄上はどうして自身で僕に罰を与えようと思ったのだろうと気になった。僕らがしようとしている事は僕がふしだらになるよりもっと醜聞だ。
…世間にバレなければ、発覚さえしなければ、世の中にはそんな秘密めいた事など多いのかもしれない。僕は昼間のジェラルドのミッシーニ家の夜会の話を思い出して苦笑した。
ああ、僕はデミオよりもよっぽどの爛れ具合だ。そうは思っても、結局僕は別邸へ出掛けてしまうのが自分でも明らかだった。
…アンドレの特別なご友人ですか?僕は一年のデミオ ミッシーニです。ジェラルド様、ローレンス様、どうぞお見知りおきを。良かったら僕とも遊んで下さい。」
そう言って、妖艶に微笑むと待っていた数人の上級生と一緒に意気揚々と立ち去った。
「何だ、一方的に。」
ジェラルドが顔を顰めてデミオ達の後ろ姿を見つめている。僕はデミオが妙な仄めかしをした気がして、居た堪れなかった。するとローレンスが心配そうな表情を浮かべて僕に尋ねた。
「なんかあいつ妙にアンドレに敵対心を燃やしてたね。確かに彼もそこそこ見れる方だとは思うけど、アンドレとはまるで別物だ。あれはどっちかと言うと…。」
はっきり言わないローレンスに、ジェラルドがニヤリと笑って身を乗り出すと、琥珀色の瞳を煌めかせて僕らに聞こえるだけの小声で言った。
「ああ。ペットちゃんだろうな。本人は勘違いしてるのか、割り切って楽しんでるのかは分からないけど。しかし入学早々でそれって相当だぞ?」
僕は二人の言わんとすることをぼんやりと察したものの、信じられなかった。デミオが沢山の相手と楽しんでそうしてると言うことだろうか。兄上とも一時の遊びだった?もしデミオの言うことが本当なら。
「上級生と一緒にテーブルについてたら、僕もそんな風に誤解されるんでしょうか…。もしかしてローレンスや、ジェラルド様もそう勘違いされるとしたら申し訳ないです。」
ローレンス達にあらぬ誤解を生じさせるのかと心配した僕がそう言うと、ローレンスはニッコリ微笑んで言った。
「普通はそうは思わないよ。デミオは自分から仄めかしただろう?あまつさえ私たちまで直接誘ったし。アンドレこそデミオとはいつ知り合ったんだい?ミッシーニ伯爵家は派手好きで有名だから、ほとんど王都を離れないって話だし、そもそも領地も別方向だ。
アンドレと知り合う機会などない気がするな。」
ローレンスの問いかけに、僕はデミオと知り合った機会について説明した。勿論兄上との事を仄めかされて傷ついた事は言わなかったけれど。
「俺も取り巻きがいるから、あまり批判する様な事は言えないが、デミオは調子に乗ってるな。新入生は上級生にモテるのは確かだけど、チヤホヤされるのと、実際に大事にされるのとでは天と地ほどの違いがあるからな。
しかしそうなるとあの噂も本当かもしれないな。ミッシーニ家のサロンはヤバいって話。俺も去年誘われたことがあったが、都合が悪くて行けなかったんだ。不埒な夜会が行われてるのかもしれないな。」
僕はまるで想像もつかない世界の話を聞いた気がして、思わず黙り込んでしまった。そんな僕を見たローレンスがジェラルドを睨むと慌てて僕に言った。
「アンドレがそんな奴らの餌食にされない様に、私達が守ってあげるよ。ジェラルド、変な話するからアンドレが怖がるだろう?まったく気遣いが無いんだから。」
ローレンスに叱られてジェラルドが大袈裟に肩をすくめて呟いた。
「そうは言っても、いつまでも箱入りにしておく事なんて出来ないんだぞ?まったくローレンスはアンドレに過保護過ぎないか?お前だってそこそこ色々な…。」
ローレンスとジェラルドが言い合い始めたのをぼんやり見つめながら、僕は一人心の中で呟いていた。
ジェラルドやローレンスが思うほど、僕は純粋な人間じゃないんだ。あんな風に兄上から軽んじられて酷い言われようでも、きっと兄上に別邸に誘われたら断る勇気はないだろう。
兄上に触れられたら、僕は自尊心など投げ捨てて身を投げ出してしまうのが分かってるから。
そんな昼間のやり取りがあったせいか、僕は屋敷の家令から渡された兄上からのカードを何処か諦めた気持ちで持ち上げた。カードナイフで蝋を剥がすと、中からは美しい模様のカードが一枚出て来た。
日付と時間、そして別邸の住所が記された下に、兄上らしい隙のない筆跡でひと言書かれていた。
『家令には泊まりで遊びに来る様に伝えてある。』
あの時の話は冗談でも何でもなかったんだ。ふしだらな僕のせいで、辺境伯家の醜聞を防ぐために兄上が責任を取ると言うシナリオが目の前に広がっていた。
これは多分僕の望み通りだ。この機会を逃せば、きっと兄上とそうなるチャンスはもう訪れないだろう。兄上がどう考えているのかはもう関係ない。僕の初恋はこれで成就されて無惨にも散る。そうしなければ僕は前に進めない。
僕はカードをそっと封筒にしまうと、カレンダーを眺めてペンで日付に丸をした。
あと2日。僕はこの2日をギリギリまで迷いながら過ごす事になるだろう。決心したとは言え、義兄弟である兄上とそう言う関係を結ぶのは許されるものでもない。
ふと、兄上はどうして自身で僕に罰を与えようと思ったのだろうと気になった。僕らがしようとしている事は僕がふしだらになるよりもっと醜聞だ。
…世間にバレなければ、発覚さえしなければ、世の中にはそんな秘密めいた事など多いのかもしれない。僕は昼間のジェラルドのミッシーニ家の夜会の話を思い出して苦笑した。
ああ、僕はデミオよりもよっぽどの爛れ具合だ。そうは思っても、結局僕は別邸へ出掛けてしまうのが自分でも明らかだった。
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