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交差
シモンside苦しみ※
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王都の屋敷にやって来た義弟のアンドレが、記憶以上にしなやかな青年になって目の前に現れた時、私は息を呑んだ。それと同時にもう何の誤魔化しなど出来ない、己のアンドレへの歪んだ愛情を突きつけられてしまった。
小さな頃から何よりも大事な可愛い弟だった。美しい金色の巻毛と、春の空のような淡い瞳で私を真っ直ぐに見つめて明るく笑うアンドレは、辺境の愛されし末っ子だった。
時々寂しそうに瞳を潤ませて私の腰に抱きつくアンドレは、堪らなく可愛かった。だから私は血が繋がって居なくても、本当にアンドレを愛した。
けれど、成長に従ってアンドレへの邪な視線を大人や若者から感じると、私は胸の奥から怒りが湧いて来た。実際子供の拉致は男女関係なく時々起きていたので、父上も周辺に聞こえたアンドレの美しさに心配になったのだろう。
アンドレを囲う様に厳重に守らせ始めたのは覚えている。後継の私でさえされなかったその包囲網を、私もそれが当然だと受け止めていたのは今考えればおかしな話だ。けれど、あの純真無垢なアンドレを汚すような者は誰だろうと、視線ひとつとして私も許す気はなかった。
そんな日が続いた頃、いつもの様にアンドレは私のベッドに潜り込んで来た。14歳になっていた私は、指南も終えて大人への階段を登り始めていた。
だから丁度熱くなった身体を発散する前にアンドレが側で寝息を立てたのを、諦めと共に聞いていた。昔から甘い匂いのするアンドレを誘われる様に何ともなしに覗き込むと、赤い唇が少し開いていた。
その時に感じたのは何だった?
胸がドクリと大きく鳴って、私はドキドキと脈打つ身体で、感じてはいけない感情を手にしてしまった。あの可愛らしい、けれども誘う様な唇に吸い付きたいと思う自分に、驚きと恐怖を感じた。
あんなに毛嫌いしていた、アンドレに物欲しそうな視線を投げかける奴らと同じ目をして、私はアンドレの体温を感じていた。駄目だと思うのに、私は操られる様に身体を支えてその赤い唇に自分のそれを押し付けた。
ああ、その甘美な感覚は経験がないものだった。
指南でいくらでも習った口づけとはまるで感じ方の違う触れ合いは、いきり勃った自分の身体に引っ張られて、更に先へと進む事をせっついて来た。
昔からアンドレは眠ってしまえばほとんど起きない事を知っていた私は、冷静さなどぶん投げて、アンドレの開いた唇の内側を舌でそっとなぞった。
そのぬるりとした感触と味を自覚した瞬間、私は思わず飛び起きてベッドから転げ落ちた。私は一体何をした?最悪だ。可愛いアンドレが眠っているのを良いことに、考えるのもおぞましい事をしてしまった。
けれど、私の張り詰めた身体は痛いほどで、私はふらふらと湯浴み場へと向かってガウンを剥ぎ取ると、自分のそれを握って追われるように夢中で扱いた。
舌先に残るアンドレの唇の感触と味が、私をあっという間に弾けさせた。身体中が痺れるような鼓動と興奮で震えながら、私は手の中の白濁をゾッとする思いで見つめた。
…アンドレを汚してしまった。一番側に居て守ってやらなければいけない私が、一番醜悪な男に成り果てた。その日以来、私はアンドレと少しづつ距離を置いた。
体温や匂いを感じると、バカみたいに邪な気持ちが湧き上がってくる。それは自分を嫌いにさせたし、そうさせるアンドレを憎み始めていた。14歳の私はアンドレのせいにして己の醜悪さから目を逸らしたかったのだ。
自分からは甘えて来ないアンドレは、次第に私を悲しげな瞳で見つめるようになったけれど、アンドレの安全のために私は逃げるように王都へ進学した。
王立学園で、私は馬鹿みたいに遊び回った。あのアンドレとのひと時は一過性の過ちだったのだと自分を納得させたかったのかもしれない。学年が上がるたびに、周囲には私の権力や見栄えに引き寄せられる軽薄な者達が集まって来た。
それこそ怪しい夜会にも誘われて、私は良い機会だと羽目を外した。
そんな時に、遊び仲間の秘密の夜会に居た金髪の少年に私は目が惹きつけられた。アンドレよりは長いその巻毛は後ろ姿だけ見ればどこかしらアンドレに似ている。
アンドレと同じ年頃の彼と密かに交わる仲間もいたものの、私はアンドレと年が近いからこそ距離をとっていた。けれど、彼デミオは誘惑の眼差しで私を誘った。
私はある意味試して見たかったのかもしれない。それまで羽目を外したのは同世代か年上の相手ばかりで、年下の、ましてアンドレと同じ年頃を相手にするのは避けていたのだから。
どこかモヤモヤする気持ちのまま、私はデミオと交わった。14歳のデミオは年下と言っても子供でも無かったので、変な罪悪感も無い。遊び慣れたデミオは積極的で、こちらの方が苦笑してしまうほどだ。
だけど、甘い声を出して背中を見せて私に突かれるデミオが、まるでアンドレを犯しているかのように思えた時、私はいつになく興奮して昂った。細身の身体を両手で掴んで揺さぶると、金髪の巻毛が揺れた。
ああ、アンドレ…!私は一向にアンドレの呪縛から抜け出ることが出来ていなかった。アンドレに見立てたデミオを貪った私は、終わった後妙な罪悪感でデミオに優しくしていた。
元々私を誘惑して来たデミオとは、それから夜会のある度に睦み合った。けれどもデミオとは後ろからしか逝く事ができなくて、私は何度目かの交わり以降、彼と寝るのは止めた。
その一方的な私の所業のせいで、不満気なデミオが寄りにもよって、辺境のアンドレに私との事を言うなんてその時考えもしなかったのは私の自業自得だろう。
それから私は憑き物が落ちたように、秘密の夜会からは足を洗った。来年はアンドレも王都へ来る。その時にせめて尊敬される兄でいたいと思ったせいもあったかもしれない。
そう、私はアンドレとまともな義兄弟でいようと決心していたのに、ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。
小さな頃から何よりも大事な可愛い弟だった。美しい金色の巻毛と、春の空のような淡い瞳で私を真っ直ぐに見つめて明るく笑うアンドレは、辺境の愛されし末っ子だった。
時々寂しそうに瞳を潤ませて私の腰に抱きつくアンドレは、堪らなく可愛かった。だから私は血が繋がって居なくても、本当にアンドレを愛した。
けれど、成長に従ってアンドレへの邪な視線を大人や若者から感じると、私は胸の奥から怒りが湧いて来た。実際子供の拉致は男女関係なく時々起きていたので、父上も周辺に聞こえたアンドレの美しさに心配になったのだろう。
アンドレを囲う様に厳重に守らせ始めたのは覚えている。後継の私でさえされなかったその包囲網を、私もそれが当然だと受け止めていたのは今考えればおかしな話だ。けれど、あの純真無垢なアンドレを汚すような者は誰だろうと、視線ひとつとして私も許す気はなかった。
そんな日が続いた頃、いつもの様にアンドレは私のベッドに潜り込んで来た。14歳になっていた私は、指南も終えて大人への階段を登り始めていた。
だから丁度熱くなった身体を発散する前にアンドレが側で寝息を立てたのを、諦めと共に聞いていた。昔から甘い匂いのするアンドレを誘われる様に何ともなしに覗き込むと、赤い唇が少し開いていた。
その時に感じたのは何だった?
胸がドクリと大きく鳴って、私はドキドキと脈打つ身体で、感じてはいけない感情を手にしてしまった。あの可愛らしい、けれども誘う様な唇に吸い付きたいと思う自分に、驚きと恐怖を感じた。
あんなに毛嫌いしていた、アンドレに物欲しそうな視線を投げかける奴らと同じ目をして、私はアンドレの体温を感じていた。駄目だと思うのに、私は操られる様に身体を支えてその赤い唇に自分のそれを押し付けた。
ああ、その甘美な感覚は経験がないものだった。
指南でいくらでも習った口づけとはまるで感じ方の違う触れ合いは、いきり勃った自分の身体に引っ張られて、更に先へと進む事をせっついて来た。
昔からアンドレは眠ってしまえばほとんど起きない事を知っていた私は、冷静さなどぶん投げて、アンドレの開いた唇の内側を舌でそっとなぞった。
そのぬるりとした感触と味を自覚した瞬間、私は思わず飛び起きてベッドから転げ落ちた。私は一体何をした?最悪だ。可愛いアンドレが眠っているのを良いことに、考えるのもおぞましい事をしてしまった。
けれど、私の張り詰めた身体は痛いほどで、私はふらふらと湯浴み場へと向かってガウンを剥ぎ取ると、自分のそれを握って追われるように夢中で扱いた。
舌先に残るアンドレの唇の感触と味が、私をあっという間に弾けさせた。身体中が痺れるような鼓動と興奮で震えながら、私は手の中の白濁をゾッとする思いで見つめた。
…アンドレを汚してしまった。一番側に居て守ってやらなければいけない私が、一番醜悪な男に成り果てた。その日以来、私はアンドレと少しづつ距離を置いた。
体温や匂いを感じると、バカみたいに邪な気持ちが湧き上がってくる。それは自分を嫌いにさせたし、そうさせるアンドレを憎み始めていた。14歳の私はアンドレのせいにして己の醜悪さから目を逸らしたかったのだ。
自分からは甘えて来ないアンドレは、次第に私を悲しげな瞳で見つめるようになったけれど、アンドレの安全のために私は逃げるように王都へ進学した。
王立学園で、私は馬鹿みたいに遊び回った。あのアンドレとのひと時は一過性の過ちだったのだと自分を納得させたかったのかもしれない。学年が上がるたびに、周囲には私の権力や見栄えに引き寄せられる軽薄な者達が集まって来た。
それこそ怪しい夜会にも誘われて、私は良い機会だと羽目を外した。
そんな時に、遊び仲間の秘密の夜会に居た金髪の少年に私は目が惹きつけられた。アンドレよりは長いその巻毛は後ろ姿だけ見ればどこかしらアンドレに似ている。
アンドレと同じ年頃の彼と密かに交わる仲間もいたものの、私はアンドレと年が近いからこそ距離をとっていた。けれど、彼デミオは誘惑の眼差しで私を誘った。
私はある意味試して見たかったのかもしれない。それまで羽目を外したのは同世代か年上の相手ばかりで、年下の、ましてアンドレと同じ年頃を相手にするのは避けていたのだから。
どこかモヤモヤする気持ちのまま、私はデミオと交わった。14歳のデミオは年下と言っても子供でも無かったので、変な罪悪感も無い。遊び慣れたデミオは積極的で、こちらの方が苦笑してしまうほどだ。
だけど、甘い声を出して背中を見せて私に突かれるデミオが、まるでアンドレを犯しているかのように思えた時、私はいつになく興奮して昂った。細身の身体を両手で掴んで揺さぶると、金髪の巻毛が揺れた。
ああ、アンドレ…!私は一向にアンドレの呪縛から抜け出ることが出来ていなかった。アンドレに見立てたデミオを貪った私は、終わった後妙な罪悪感でデミオに優しくしていた。
元々私を誘惑して来たデミオとは、それから夜会のある度に睦み合った。けれどもデミオとは後ろからしか逝く事ができなくて、私は何度目かの交わり以降、彼と寝るのは止めた。
その一方的な私の所業のせいで、不満気なデミオが寄りにもよって、辺境のアンドレに私との事を言うなんてその時考えもしなかったのは私の自業自得だろう。
それから私は憑き物が落ちたように、秘密の夜会からは足を洗った。来年はアンドレも王都へ来る。その時にせめて尊敬される兄でいたいと思ったせいもあったかもしれない。
そう、私はアンドレとまともな義兄弟でいようと決心していたのに、ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。
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