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交差
シモンside疑念※
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あの時、私の酒を横取りしたアンドレが口走ったデミオへの嫉妬めいた言葉に、私は確かに希望を感じた筈だった。けれどもアランの事を持ち出されては、胸の中に巣食うドロドロとした感情が湧き上がって、私はそれに簡単に支配されてしまった。
教育係としてアランが抜擢された話を聞いた時は、実直で優しい男だからアンドレにぴったりだと思った。けれども帰省する度にアンドレの影の様に付き添っている親身な様子に、何処か苛立ちを感じたのは確かだった。
人を選ぶアンドレが懐いているのもそうだったし、アンドレに向けるその眼差しが気になったのもそうだ。
実際同じ年頃の自分の事を棚に上げて、アンドレだけを箱にしまって置くわけにはいかない事はわかり切っていた。だから後からアンドレに女と男が指南したと父上に聞いて、よりにもよって男の相手がアランだと耳にしてから、私の心配は確信へと変わったのだった。
アンドレはローレンスだけでなく、アランともそう言う関係になったのだと。王都へ来てしまったローレンスと違って、アランは常にアンドレの側に居る。それはすなわち二人の関係が指南を越えてより親密になるのではないか?
だから王都へアランを伴っていないアンドレに何処か安堵した矢先に、あの言葉だ。アンドレに触れたアランの手と私の手を比べられて、私はアンドレに憎しみさえ感じた。アンドレのせいで、私は胸がざわついてばかりだ。
目の前で私を見上げるアンドレの不安気な表情を、アランの前では決して見せないのだろうと思うと苛立ちで自暴自棄になった。私は酷い事を言って無理やりアンドレに口づけた。
こんな乱暴にするくらいなら離れた方が良いと良心が囁いたけれど、アンドレの甘い唇を再び感じてしまえば止めることなど出来ない。唇からアンドレの緊張とショックを感じて怒りは直ぐに後悔に変わった。
優しくしたい気持ちそのままに、宥めるように愛撫すると、アンドレは自分からも積極的に私を欲しがって、自分の高まった身体を私に擦り付けもした。それは純粋な喜びの一方で、その慣れた仕草に焼ける様な嫉妬を生み出した。
だからアンドレに私はふしだらだと酷い言葉で切りつけて、ショックで青ざめつつも鎮まらない身体をこの手で犯したのだ。私の手の中でヒクつくアンドレを、私は興奮の一方何処か冷めた気持ちで傍観していた。
それは苦しさと諦めを連れてきて、アンドレの甘い喘ぎに興奮する自分をも嫌悪した。だから私は放り出す様にしてアンドレを嘲笑い、続きは別邸でと言い放ったのだ。
大きな淡い空色の瞳を潤ませて、さっきまで私に蕩けていた赤い唇を食いしばったアンドレを直視する事など出来なかった。もう私達は終わりだった。アンドレは別邸に自分から来る事などないだろうし、良き兄で居ようした決心も脆くも崩れ去ってしまったのだから。
ベッドに横になっても思い出されるのはアンドレの悲し気な瞳と熱い反応ばかりで、私は舌打ちして寝返りばかり打っていた。何処で間違ってしまったのかわからなかった。私の醜悪な嫉妬心でこれからの生活を壊した事だけは分かっていた。
念入りに選んだアンドレの護衛を紹介しようと中庭に佇むアンドレを見た時、やはり私は目の前の可愛い義弟を手放すのは無理だと悟ってしまった。
父上に頼んで青い鳥が好きな樹木を王都の屋敷に植えて貰ったのも、アンドレの喜びの為だったのを思い出して、この澱んだ欲望とは裏腹に慈しむ様な愛情も感じたのだから。
思わず美しい巻き毛に触れて美しさを崇めたものの、直ぐにこの金髪が学園で多くの学生を惑わすのかと勝手な苛立ちを感じた。そのままに口をついて出た言葉に、アンドレが苛立った様子で口答えした時、私は素直に謝る事も出来ずに大人げ無くやり合ってしまった。
別邸へ来る様に命じたも同然のあのカードを弁明する事も出来ず、私は怒りで顔を赤らめたアンドレを抱き寄せて懲らしめの口づけをしない様に拳を握り締めた。
実際ビクターが側に居なければ、そうしてしまっただろう。私はもう自分を制御する事を何処かで放棄してしまった。
だから別邸の前にアンドレの姿を見た時、私は喜びの一方で悲しみと恐れを感じた。自分を信じる事も出来なかったし、やはりアンドレはふしだらで私に慰められないと居られないのだと分かってしまったからだ。
だから後は流されるままに興奮だけを頼りに、飄々とアンドレとの交わりを目指した。だから指に伝わる使用感のない後ろの窄みの感触で、私は一気に我に返ったのだ。
ふしだらだと思っていたのは私の思い込みだったのか?今の呻き声は痛みからでは?
呆然と頭の中を巡らせていると、横を向いたアンドレが静かに涙を流しているのに気がついた。ああ、私のせいだ。私が無理強いしてアンドレを傷つけた。身も心も。
けれど私は胸に灯った希望に縋りついた。アンドレの口から真実が聞きたい。そしてここに来た理由も。私の声は掠れていて、喉が締め付けられた。
「…アンドレ、お前に恋人は居なかったのか?お前の身体は青いままで、ほとんど開かれていない。…なぜ私のところに来た?ふしだらでも何でもないお前が、ここに来る必要は無かっただろう?
ああ、そんな事が言いたいわけじゃない。…私は嫉妬心でお前を酷く傷つけたんだ。アンドレを愛するあまり、私は馬鹿な事ばかりしてしまって、…いるんだ。」
頬を濡らしながらも、驚いた表情で目を見開いたアンドレが私を見つめた時、その瞳に浮かんだものは何だった?ああ、私はもう何も間違えたくはない。お前からの愛しか欲しくない。
教育係としてアランが抜擢された話を聞いた時は、実直で優しい男だからアンドレにぴったりだと思った。けれども帰省する度にアンドレの影の様に付き添っている親身な様子に、何処か苛立ちを感じたのは確かだった。
人を選ぶアンドレが懐いているのもそうだったし、アンドレに向けるその眼差しが気になったのもそうだ。
実際同じ年頃の自分の事を棚に上げて、アンドレだけを箱にしまって置くわけにはいかない事はわかり切っていた。だから後からアンドレに女と男が指南したと父上に聞いて、よりにもよって男の相手がアランだと耳にしてから、私の心配は確信へと変わったのだった。
アンドレはローレンスだけでなく、アランともそう言う関係になったのだと。王都へ来てしまったローレンスと違って、アランは常にアンドレの側に居る。それはすなわち二人の関係が指南を越えてより親密になるのではないか?
だから王都へアランを伴っていないアンドレに何処か安堵した矢先に、あの言葉だ。アンドレに触れたアランの手と私の手を比べられて、私はアンドレに憎しみさえ感じた。アンドレのせいで、私は胸がざわついてばかりだ。
目の前で私を見上げるアンドレの不安気な表情を、アランの前では決して見せないのだろうと思うと苛立ちで自暴自棄になった。私は酷い事を言って無理やりアンドレに口づけた。
こんな乱暴にするくらいなら離れた方が良いと良心が囁いたけれど、アンドレの甘い唇を再び感じてしまえば止めることなど出来ない。唇からアンドレの緊張とショックを感じて怒りは直ぐに後悔に変わった。
優しくしたい気持ちそのままに、宥めるように愛撫すると、アンドレは自分からも積極的に私を欲しがって、自分の高まった身体を私に擦り付けもした。それは純粋な喜びの一方で、その慣れた仕草に焼ける様な嫉妬を生み出した。
だからアンドレに私はふしだらだと酷い言葉で切りつけて、ショックで青ざめつつも鎮まらない身体をこの手で犯したのだ。私の手の中でヒクつくアンドレを、私は興奮の一方何処か冷めた気持ちで傍観していた。
それは苦しさと諦めを連れてきて、アンドレの甘い喘ぎに興奮する自分をも嫌悪した。だから私は放り出す様にしてアンドレを嘲笑い、続きは別邸でと言い放ったのだ。
大きな淡い空色の瞳を潤ませて、さっきまで私に蕩けていた赤い唇を食いしばったアンドレを直視する事など出来なかった。もう私達は終わりだった。アンドレは別邸に自分から来る事などないだろうし、良き兄で居ようした決心も脆くも崩れ去ってしまったのだから。
ベッドに横になっても思い出されるのはアンドレの悲し気な瞳と熱い反応ばかりで、私は舌打ちして寝返りばかり打っていた。何処で間違ってしまったのかわからなかった。私の醜悪な嫉妬心でこれからの生活を壊した事だけは分かっていた。
念入りに選んだアンドレの護衛を紹介しようと中庭に佇むアンドレを見た時、やはり私は目の前の可愛い義弟を手放すのは無理だと悟ってしまった。
父上に頼んで青い鳥が好きな樹木を王都の屋敷に植えて貰ったのも、アンドレの喜びの為だったのを思い出して、この澱んだ欲望とは裏腹に慈しむ様な愛情も感じたのだから。
思わず美しい巻き毛に触れて美しさを崇めたものの、直ぐにこの金髪が学園で多くの学生を惑わすのかと勝手な苛立ちを感じた。そのままに口をついて出た言葉に、アンドレが苛立った様子で口答えした時、私は素直に謝る事も出来ずに大人げ無くやり合ってしまった。
別邸へ来る様に命じたも同然のあのカードを弁明する事も出来ず、私は怒りで顔を赤らめたアンドレを抱き寄せて懲らしめの口づけをしない様に拳を握り締めた。
実際ビクターが側に居なければ、そうしてしまっただろう。私はもう自分を制御する事を何処かで放棄してしまった。
だから別邸の前にアンドレの姿を見た時、私は喜びの一方で悲しみと恐れを感じた。自分を信じる事も出来なかったし、やはりアンドレはふしだらで私に慰められないと居られないのだと分かってしまったからだ。
だから後は流されるままに興奮だけを頼りに、飄々とアンドレとの交わりを目指した。だから指に伝わる使用感のない後ろの窄みの感触で、私は一気に我に返ったのだ。
ふしだらだと思っていたのは私の思い込みだったのか?今の呻き声は痛みからでは?
呆然と頭の中を巡らせていると、横を向いたアンドレが静かに涙を流しているのに気がついた。ああ、私のせいだ。私が無理強いしてアンドレを傷つけた。身も心も。
けれど私は胸に灯った希望に縋りついた。アンドレの口から真実が聞きたい。そしてここに来た理由も。私の声は掠れていて、喉が締め付けられた。
「…アンドレ、お前に恋人は居なかったのか?お前の身体は青いままで、ほとんど開かれていない。…なぜ私のところに来た?ふしだらでも何でもないお前が、ここに来る必要は無かっただろう?
ああ、そんな事が言いたいわけじゃない。…私は嫉妬心でお前を酷く傷つけたんだ。アンドレを愛するあまり、私は馬鹿な事ばかりしてしまって、…いるんだ。」
頬を濡らしながらも、驚いた表情で目を見開いたアンドレが私を見つめた時、その瞳に浮かんだものは何だった?ああ、私はもう何も間違えたくはない。お前からの愛しか欲しくない。
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