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交差
中毒
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「最近はシモン様もお早いお帰りが多くて、アンドレ様も宜しかったですね。」
そうバトラに声を掛けられて、僕はピクリと肩を強張らせた。夜になればこちらの部屋の棟には近寄らない彼らに、兄上との睦み合いがバレているとは思わない。
けれども明らかに豹変ぶりを発揮している兄上の態度で、穿った見方をする向きも有るのではないだろうか。そんな事を考えていた僕は、一瞬遅れてバトラに答えた。
「…僕にはよくわからないけれど、忙しい時期じゃないだけなんじゃないかな。…ああ、勿論僕も嬉しいよ。辺境ではお忙しい兄上が帰省しても、僕とはほとんど話する暇もなかったからね?」
実際は兄上が僕への気持ちを直視しないために避けられていただけだけど、バトラは実際僕らの雰囲気を見ていたからそう言っておくしかないだろう。
「…アンドレ様は最近明るい表情を見せる事が多くなって、私も嬉しく思っておるのです。小さな頃からどちらかと言えば考え込む方でしたからね。明るい表情が多くなっただけ、大人になって物事がはっきり見えるようになったということかも知れませんね。
普通は逆の様な気がしますが、それだけアンドレ様は必要以上に大人びていたという事なのでしょう。…私はアンドレ様のお幸せだけを第一に今後もお仕えさせて頂きます。」
どこか含みのある言い方に思えたのは、多分気のせいなんだろう。僕はバトラの気遣いを有り難く思って微笑むと、夕食まで部屋で休むことにした。
実際この時間に仮眠を取らないと身体が持たないのは確かだった。夜になれば兄上と終わりのない睦み合いをしてしまうのだから。
幸いバトラに湯浴みのお世話をして貰うような年齢でないだけマシだった。この赤い印の散らばった身体を見れば流石に詮索されかねない。どこの馬の骨の餌食になっているかと心配するのは、従者の仕事のうちでもあるのだから。
扉のノックで目が覚めると、部屋に入ってきたのは兄上だった。
「…眠っていたのか?食事の時間だ。流石にアンドレに無理をさせ過ぎているのかもしれない。…今夜はゆっくり休めるようにやめておこう。」
気遣う表情で僕を見下ろした兄上は、僕の髪を指先で顔から退かしながらそう言った。僕はその指を掴んで自分の唇に触れさせて言った。
「…でもお休みの口づけくらいはしてくれるのでしょう?」
途端に兄上の指先が僕の唇を割って、内側の粘膜をゆっくり撫でて僕の舌に触れた。ああ、これ以上は妙な気持ちになってしまう。
「…そんな顔をしたアンドレに口づけだけで済むように、ちょうど良いから今夜試してみよう。アンドレは元々丈夫なタチではないのだから、私が我慢すべきなんだ。どんなに誘惑されてもね?」
まるでいつも誘惑するのは僕のような言い草だけれど、実際そうなのだから僕は言い訳せずに起き上がった。
「ふふ、食事をしっかり取ったら身体の疲れも取れるよね?僕はいつだって兄上と触れ合っていたいんだ。それに僕をこんな風にしたのは兄上のせいかも知れないよ?」
これは僕の中では事実だ。兄上の与えてくれる快楽は僕をすっかり夢中にさせている。それを受け取っている限り、僕は後ろ向きな事を考える必要もない。まるで中毒のように僕は兄上に依存しつつあった。
とは言えそればかりでは無く、夕食の間僕らは色々な話をするようになった。兄上の学園時代の話はいつ聞いても面白かったけれど、同時に兄上が一目置かれていた事をそこから読み取っていた。
「アンドレの話も聞かせてくれ。同級生で親しい友人は出来たのか?」
僕が話しかけても、多くのクラスメイトは顔を赤くしてモゴモゴする事が多くて、僕は一瞬口篭った。それにいつまでも先輩であるローレンスの庇護下でいる訳にもいかない事にも気づいていた。
それでもここ最近は話をするメンバーが固定しつつあったから、それなら報告できるかも知れない。僕が数人の名前をあげると、兄上は少し考え込むような表情をした後、頷いた。
「ああ、そのメンバーなら特段問題なさそうだ。所謂羽目を外す家の出では無いからな。」
僕はふと兄上に尋ねてみたくなった。
「じゃあローレンスの親友のジェラルド様はどうなのかな。ローレンス曰くは兄上の様にカリスマ性があって、確かに見かける度に違う顔の取り巻きに囲まれてるよ。
それに以前ジェラルド様が、兄上の真似をする様になってから、取り巻きがいても気にならなくなったって言ってたんだ。兄上も取り巻きが多かったって事でしょう?」
すると兄上はじっと僕を見つめて呟いた。
「私のことはともかく、ジェラルドに限らずジャンバリ侯爵家の者は家位の割にざっくばらんだ。それが周囲の人間を惹きつけるんだろう。アンドレともすっかり打ち解けている所を見ると、中々表面的なものでは侮れない人物の様だ。
…私としては、彼に限らずアンドレがあまり気を許すのは心配だがね。」
兄上が僕の交友関係に嫉妬しているの?僕はその事にワクワクする様な気持ちになって立ち上がると、兄上の腰に両手を回して胸に顔をつけて抱きついた。
「気を許したら心配?こんなに兄上が好きなのに?」
頭の上でクスッと息を抜く様な忍び笑いが聞こえて、甘い呟きが落ちてきた。
「そうなのか?私は鈍感だから、もっと分かりやすくアンドレの愛を見せてくれないと心配が拭え無いんだ。」
兄上が鈍感だとかまるで当てはまらないことを言うから、僕は思わず笑いながら顔を上げた。僕を見下ろす兄上はゾクゾクする様な熱い眼差しを浮かべていて、僕は反射的に身体の奥がキュっと疼いた。
ああ、兄上が欲しい。僕はいつの間にこんなに欲張りになったんだろう。与えてくれるものより、奪う様にもっと欲しがって。…兄上がもっと僕の虜になってくれたら良いのに。
そうバトラに声を掛けられて、僕はピクリと肩を強張らせた。夜になればこちらの部屋の棟には近寄らない彼らに、兄上との睦み合いがバレているとは思わない。
けれども明らかに豹変ぶりを発揮している兄上の態度で、穿った見方をする向きも有るのではないだろうか。そんな事を考えていた僕は、一瞬遅れてバトラに答えた。
「…僕にはよくわからないけれど、忙しい時期じゃないだけなんじゃないかな。…ああ、勿論僕も嬉しいよ。辺境ではお忙しい兄上が帰省しても、僕とはほとんど話する暇もなかったからね?」
実際は兄上が僕への気持ちを直視しないために避けられていただけだけど、バトラは実際僕らの雰囲気を見ていたからそう言っておくしかないだろう。
「…アンドレ様は最近明るい表情を見せる事が多くなって、私も嬉しく思っておるのです。小さな頃からどちらかと言えば考え込む方でしたからね。明るい表情が多くなっただけ、大人になって物事がはっきり見えるようになったということかも知れませんね。
普通は逆の様な気がしますが、それだけアンドレ様は必要以上に大人びていたという事なのでしょう。…私はアンドレ様のお幸せだけを第一に今後もお仕えさせて頂きます。」
どこか含みのある言い方に思えたのは、多分気のせいなんだろう。僕はバトラの気遣いを有り難く思って微笑むと、夕食まで部屋で休むことにした。
実際この時間に仮眠を取らないと身体が持たないのは確かだった。夜になれば兄上と終わりのない睦み合いをしてしまうのだから。
幸いバトラに湯浴みのお世話をして貰うような年齢でないだけマシだった。この赤い印の散らばった身体を見れば流石に詮索されかねない。どこの馬の骨の餌食になっているかと心配するのは、従者の仕事のうちでもあるのだから。
扉のノックで目が覚めると、部屋に入ってきたのは兄上だった。
「…眠っていたのか?食事の時間だ。流石にアンドレに無理をさせ過ぎているのかもしれない。…今夜はゆっくり休めるようにやめておこう。」
気遣う表情で僕を見下ろした兄上は、僕の髪を指先で顔から退かしながらそう言った。僕はその指を掴んで自分の唇に触れさせて言った。
「…でもお休みの口づけくらいはしてくれるのでしょう?」
途端に兄上の指先が僕の唇を割って、内側の粘膜をゆっくり撫でて僕の舌に触れた。ああ、これ以上は妙な気持ちになってしまう。
「…そんな顔をしたアンドレに口づけだけで済むように、ちょうど良いから今夜試してみよう。アンドレは元々丈夫なタチではないのだから、私が我慢すべきなんだ。どんなに誘惑されてもね?」
まるでいつも誘惑するのは僕のような言い草だけれど、実際そうなのだから僕は言い訳せずに起き上がった。
「ふふ、食事をしっかり取ったら身体の疲れも取れるよね?僕はいつだって兄上と触れ合っていたいんだ。それに僕をこんな風にしたのは兄上のせいかも知れないよ?」
これは僕の中では事実だ。兄上の与えてくれる快楽は僕をすっかり夢中にさせている。それを受け取っている限り、僕は後ろ向きな事を考える必要もない。まるで中毒のように僕は兄上に依存しつつあった。
とは言えそればかりでは無く、夕食の間僕らは色々な話をするようになった。兄上の学園時代の話はいつ聞いても面白かったけれど、同時に兄上が一目置かれていた事をそこから読み取っていた。
「アンドレの話も聞かせてくれ。同級生で親しい友人は出来たのか?」
僕が話しかけても、多くのクラスメイトは顔を赤くしてモゴモゴする事が多くて、僕は一瞬口篭った。それにいつまでも先輩であるローレンスの庇護下でいる訳にもいかない事にも気づいていた。
それでもここ最近は話をするメンバーが固定しつつあったから、それなら報告できるかも知れない。僕が数人の名前をあげると、兄上は少し考え込むような表情をした後、頷いた。
「ああ、そのメンバーなら特段問題なさそうだ。所謂羽目を外す家の出では無いからな。」
僕はふと兄上に尋ねてみたくなった。
「じゃあローレンスの親友のジェラルド様はどうなのかな。ローレンス曰くは兄上の様にカリスマ性があって、確かに見かける度に違う顔の取り巻きに囲まれてるよ。
それに以前ジェラルド様が、兄上の真似をする様になってから、取り巻きがいても気にならなくなったって言ってたんだ。兄上も取り巻きが多かったって事でしょう?」
すると兄上はじっと僕を見つめて呟いた。
「私のことはともかく、ジェラルドに限らずジャンバリ侯爵家の者は家位の割にざっくばらんだ。それが周囲の人間を惹きつけるんだろう。アンドレともすっかり打ち解けている所を見ると、中々表面的なものでは侮れない人物の様だ。
…私としては、彼に限らずアンドレがあまり気を許すのは心配だがね。」
兄上が僕の交友関係に嫉妬しているの?僕はその事にワクワクする様な気持ちになって立ち上がると、兄上の腰に両手を回して胸に顔をつけて抱きついた。
「気を許したら心配?こんなに兄上が好きなのに?」
頭の上でクスッと息を抜く様な忍び笑いが聞こえて、甘い呟きが落ちてきた。
「そうなのか?私は鈍感だから、もっと分かりやすくアンドレの愛を見せてくれないと心配が拭え無いんだ。」
兄上が鈍感だとかまるで当てはまらないことを言うから、僕は思わず笑いながら顔を上げた。僕を見下ろす兄上はゾクゾクする様な熱い眼差しを浮かべていて、僕は反射的に身体の奥がキュっと疼いた。
ああ、兄上が欲しい。僕はいつの間にこんなに欲張りになったんだろう。与えてくれるものより、奪う様にもっと欲しがって。…兄上がもっと僕の虜になってくれたら良いのに。
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