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交差
ローレンスsideアンドレの変化
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アンドレが恋をしている。それは隠し様のないレベルで滲み出る何かがある。一体相手は誰なのだろう。ジェラルドが私を憐れんだ眼差しで見るのが気に入らないが、私自身はもうとっくにアンドレとは友人でいようと決めていたんだ。
けれど、ただでさえ美貌の貴公子然としたアンドレが恋をしているせいで、今までの人見知りでとりつく島もない高貴さを手放してしまった。
お陰でその喜びに溢れた微笑みにぼんやり見惚れる奴らが多くて、アンドレは最近ますます注目されている。
「ローレンス、今日は同級生に誘われているから一緒に昼食は食べられないんだ。ごめんね。明日一緒に食べてくれる?」
そう、わざわざ私に伝えに来るアンドレに上級生の視線が集まるのは、本人には案外響いていないのは何だか面白い。アンドレは昔から注目される事が多かったせいで、上手に注目される感覚を遮断している気がする。
けれど自分の感情を出す事には免疫がないのか、最近のアンドレの分かりやすさは見ていて心配になる程だった。
「…ああ、分かった。明日はこちらから教室に迎えに行くから。」
思わず過保護になるくらいは構わないだろう。
遠ざかるアンドレの後ろ姿を見送りながら、私は隣に立ったジェラルドに話すともなく呟いた。
「…あんな無防備に笑顔を振りまいたら、拗らせたやつに拉致されかねない。」
すると笑いを堪えながらジェラルドは私に言った。
「くく、まさかそれローレンスじゃないよな?お前のアンドレに向ける眼差しは、そこまで拗らせた様には見えないけどな。」
私はジロリとジェラルドを睨んで、その硬い腹に拳を突き立てた。
「…まったく、私の手の方が痛いとかどうかしてる。勿論私では無いよ。アンドレは好きだけど、それは拗らせる様な愛情じゃない。前にジェラルドが言っただろう?アンドレは危険だって。今の様子を見てると、そんな事が理解できる気がするんだ。まぁ、負け犬の遠吠えだけどね。」
ジェラルドが開けっぴろげなせいで、私も言わなくて良いことまで開示してしまうのは良いのか悪いのか。私はジェラルドに肩を組まれながら、引き摺られる様に歩き出した。
「ああ、確かに言った。アンドレに魅了され過ぎると言う意味でも、アンドレ自身が危険という意味でも。
しかし俺様と違って、アンドレには邪な視線を振り払う筋肉が無いのは心配だ。幾ら辺境伯の令息だと言っても、あの誘惑はその壁を超えてしまうかもしれないだろう?
そう言えばアンドレには護衛が付いてたな。あの見るからに屈強な護衛は学校以外では効力を発揮するだろうが、学校内では流石に手が届かない。あの護衛を手配したのがシモン様だとすれば、ますます納得だがな。」
私はジェラルドの妙に含みのある言葉に考え込んだ。そう言えばこちらに来てからシモン様の事をアンドレが愚痴らなくなってる。辺境に居た頃は、シモン様に認められたい、目を向けて欲しいとアンドレの言葉の端々に滲み出ていた。
アンドレ曰くは義理の弟である自分に期待も関心も無くなってしまったのだと、酷く寂しげに呟いていたはずだ。それが本当なら、アンドレに分かりやすくあんな護衛をつけるだろうか。
それとも王都で共に生活する様になって、二人の距離感が近づいたのだろうか。アンドレのあの目を見張る様な美しさと頼りなげな様子を見たら、流石に放って置けなくなったのかもしれない。
「アンドレとシモン様はあまり関係が良く無かったっぽいんだ。その事をアンドレは酷く気に病んでたけど、あの様子だとそれは解消したのかもしれないな。」
私がそう言うと、ジェラルドは眉を顰めた。
「領地に居たお前は知らないかもしれないが、シモン様が学生の頃は相当羽目を外していたんだ。俺は入学前だったが、その手の誘いが少しあったからな。行く先々でいつも顔を合わせたんだから、常連だったのは間違いない。
ほら、あいつ覚えてるか?一度アンドレに絡んできた金髪のやつ。そうそう、上級生のペットちゃんだ。思い出したがあいつの家は結構な溜まり場だったからな、あいつも入学前から俺みたいに羽目を外してたはずだ。
一度行った秘密の夜会にあいつとシモン様が一緒に居るのを見かけた時がある。ひと目で関係があるってあからさまだったよ。」
私はジェラルドが何を言いたいのか分からなくて、釣られて眉を顰めた。ジェラルドは肩をすくめると私の肩を軽く叩いて手を離した。
「彼らを知ってる先入観があるローレンスにはピンとこないか。あいつ、ちょっとアンドレに似てないか?あいつがアンドレに絡んできた時、気になったのはそこだ。勿論顔とかじゃない。
骨格や髪。後ろ姿なんて結構似てるだろう?ここまで言えば分かるか?俺がアンドレを危ないって言ったのは、シモン様にとっても同じだって意味でも言ったんだ。側にいたらどんな間柄でも絡め取られるだろうって。」
私はジェラルドの考えに顔を顰めっぱなしだった。シモン様がアンドレを溺愛していると言う噂を王都に来てから知った時、噂というのは当てにならないと苦笑したんだ。
溺愛してるなら、あんなアンドレが愚痴るはずもないって。でも確かに絡んできたあいつとアンドレは何処かしら似ている。そもそもあいつがアンドレに絡むのもおかしな話だ。
普通はわざわざ遊び相手の関係者にアピールしに来たりしないだろう。何か意図が無ければ。
…シモン様があいつをアンドレの身代わりにしていたとしたら?嫌味の一つでも言いたくなるのではないだろうか。あり得ないが、ないとは言えない想像に私は息を呑んだ。
まさか、アンドレの恋の相手って…。
肩を引き寄せられて、ジェラルドの琥珀色の瞳がぼんやり顔を上げた私を覗き込んだ。
「余計な事言ったか?俺たちが考えてもしょうがない事だ。これは彼らの問題だからな。」
ああ、なんて事だ。もしそうならそんなの間違ってると思うのに、私にはジェラルドの言う通り彼らを止める権利は無かった。結局のところあの二人は義理の関係で一滴の血も繋がって居ないのだから。
★ いつも読んでいただきありがとうございます♪
5月末迄のライト文芸大賞に参加して居ます💕
『あの世はどこにある?』
読み切りの不思議な物語です。
投票が明日までなので、もし読んで面白いと思ってくださったら是非投票をよろしくお願いします😊
けれど、ただでさえ美貌の貴公子然としたアンドレが恋をしているせいで、今までの人見知りでとりつく島もない高貴さを手放してしまった。
お陰でその喜びに溢れた微笑みにぼんやり見惚れる奴らが多くて、アンドレは最近ますます注目されている。
「ローレンス、今日は同級生に誘われているから一緒に昼食は食べられないんだ。ごめんね。明日一緒に食べてくれる?」
そう、わざわざ私に伝えに来るアンドレに上級生の視線が集まるのは、本人には案外響いていないのは何だか面白い。アンドレは昔から注目される事が多かったせいで、上手に注目される感覚を遮断している気がする。
けれど自分の感情を出す事には免疫がないのか、最近のアンドレの分かりやすさは見ていて心配になる程だった。
「…ああ、分かった。明日はこちらから教室に迎えに行くから。」
思わず過保護になるくらいは構わないだろう。
遠ざかるアンドレの後ろ姿を見送りながら、私は隣に立ったジェラルドに話すともなく呟いた。
「…あんな無防備に笑顔を振りまいたら、拗らせたやつに拉致されかねない。」
すると笑いを堪えながらジェラルドは私に言った。
「くく、まさかそれローレンスじゃないよな?お前のアンドレに向ける眼差しは、そこまで拗らせた様には見えないけどな。」
私はジロリとジェラルドを睨んで、その硬い腹に拳を突き立てた。
「…まったく、私の手の方が痛いとかどうかしてる。勿論私では無いよ。アンドレは好きだけど、それは拗らせる様な愛情じゃない。前にジェラルドが言っただろう?アンドレは危険だって。今の様子を見てると、そんな事が理解できる気がするんだ。まぁ、負け犬の遠吠えだけどね。」
ジェラルドが開けっぴろげなせいで、私も言わなくて良いことまで開示してしまうのは良いのか悪いのか。私はジェラルドに肩を組まれながら、引き摺られる様に歩き出した。
「ああ、確かに言った。アンドレに魅了され過ぎると言う意味でも、アンドレ自身が危険という意味でも。
しかし俺様と違って、アンドレには邪な視線を振り払う筋肉が無いのは心配だ。幾ら辺境伯の令息だと言っても、あの誘惑はその壁を超えてしまうかもしれないだろう?
そう言えばアンドレには護衛が付いてたな。あの見るからに屈強な護衛は学校以外では効力を発揮するだろうが、学校内では流石に手が届かない。あの護衛を手配したのがシモン様だとすれば、ますます納得だがな。」
私はジェラルドの妙に含みのある言葉に考え込んだ。そう言えばこちらに来てからシモン様の事をアンドレが愚痴らなくなってる。辺境に居た頃は、シモン様に認められたい、目を向けて欲しいとアンドレの言葉の端々に滲み出ていた。
アンドレ曰くは義理の弟である自分に期待も関心も無くなってしまったのだと、酷く寂しげに呟いていたはずだ。それが本当なら、アンドレに分かりやすくあんな護衛をつけるだろうか。
それとも王都で共に生活する様になって、二人の距離感が近づいたのだろうか。アンドレのあの目を見張る様な美しさと頼りなげな様子を見たら、流石に放って置けなくなったのかもしれない。
「アンドレとシモン様はあまり関係が良く無かったっぽいんだ。その事をアンドレは酷く気に病んでたけど、あの様子だとそれは解消したのかもしれないな。」
私がそう言うと、ジェラルドは眉を顰めた。
「領地に居たお前は知らないかもしれないが、シモン様が学生の頃は相当羽目を外していたんだ。俺は入学前だったが、その手の誘いが少しあったからな。行く先々でいつも顔を合わせたんだから、常連だったのは間違いない。
ほら、あいつ覚えてるか?一度アンドレに絡んできた金髪のやつ。そうそう、上級生のペットちゃんだ。思い出したがあいつの家は結構な溜まり場だったからな、あいつも入学前から俺みたいに羽目を外してたはずだ。
一度行った秘密の夜会にあいつとシモン様が一緒に居るのを見かけた時がある。ひと目で関係があるってあからさまだったよ。」
私はジェラルドが何を言いたいのか分からなくて、釣られて眉を顰めた。ジェラルドは肩をすくめると私の肩を軽く叩いて手を離した。
「彼らを知ってる先入観があるローレンスにはピンとこないか。あいつ、ちょっとアンドレに似てないか?あいつがアンドレに絡んできた時、気になったのはそこだ。勿論顔とかじゃない。
骨格や髪。後ろ姿なんて結構似てるだろう?ここまで言えば分かるか?俺がアンドレを危ないって言ったのは、シモン様にとっても同じだって意味でも言ったんだ。側にいたらどんな間柄でも絡め取られるだろうって。」
私はジェラルドの考えに顔を顰めっぱなしだった。シモン様がアンドレを溺愛していると言う噂を王都に来てから知った時、噂というのは当てにならないと苦笑したんだ。
溺愛してるなら、あんなアンドレが愚痴るはずもないって。でも確かに絡んできたあいつとアンドレは何処かしら似ている。そもそもあいつがアンドレに絡むのもおかしな話だ。
普通はわざわざ遊び相手の関係者にアピールしに来たりしないだろう。何か意図が無ければ。
…シモン様があいつをアンドレの身代わりにしていたとしたら?嫌味の一つでも言いたくなるのではないだろうか。あり得ないが、ないとは言えない想像に私は息を呑んだ。
まさか、アンドレの恋の相手って…。
肩を引き寄せられて、ジェラルドの琥珀色の瞳がぼんやり顔を上げた私を覗き込んだ。
「余計な事言ったか?俺たちが考えてもしょうがない事だ。これは彼らの問題だからな。」
ああ、なんて事だ。もしそうならそんなの間違ってると思うのに、私にはジェラルドの言う通り彼らを止める権利は無かった。結局のところあの二人は義理の関係で一滴の血も繋がって居ないのだから。
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