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アフターストーリー【不定期更新】
コウヨウとモミジはすぐそばに
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目覚まし時計のアラームが鳴って、上半身を起こす。部屋の空気が思ったより冷たい。
ベッドの上に腰掛けたまま遮光カーテンを半分だけ開ける。窓の外の街路樹が赤く色づきはじめていた。これから先はしばらく暑さと縁が切れてほしいと願う。朝晩の冷え込みもキツくなり、外の様子もようやく秋めいてきたのが色合いから察せられた。
今年の夏はとんでもなく暑かった。四月から始まった長すぎる夏が九月でやっと終わったという感じだ。あんまりにも熱い日々が続きすぎるから、夏日という言葉を改めるべきじゃないかと提言したい。夏よりももっと暑い、いや、熱い日々が多すぎる。
マンションの最上階じゃなくてよかったとしみじみ考える程度には陽射しが辛かったことを思い出した。冬場の光熱費を抑えるには日当たりは大事ではあれど、夏場の光熱費を節約するには陽射しをいかに抑えるかも大事だろう。
「……寒い」
遮光カーテンをグレードの高いものに買い替えたおかげか、朝もほぼ真っ暗で寒く感じる。カーテンを少し開けて寝るには結露が心配になるので悩みどころだ。
もう少しだけ寝ていようかな……
目覚まし時計のアラームは鳴った後ではあるけれど、まだ余裕があるはずだ。ぐっすりと寝直さなければ遅刻はしない。
ベッドの中でモゾモゾと動く。夏用の掛け布団に大きな毛布を併用して使っている。毛布がダブルサイズなので、掛け布団の上に毛布を載せる形で使っているが、これが程よく暖かいのだ。
「そろそろ羽毛布団を出すときかねえ……」
体温で暖を取るのも限界はある。秋は一瞬で終わって冬を迎えそうな気配に小さく身体を震わせた。
「まだ大丈夫だと思うよ」
足元のほうがゴソゴソと動いて、半裸の青年が顔を出した。同居人の美麗すぎる顔が迫ってくる。
「ちょっ!」
勢いでキスされそうになって、うっかり手が出てしまった。
ばちんとひときわ大きな破裂音が部屋に響き渡るのだった。
*****
きめ細かな白い肌に映える赤い手形。さながら紅葉(もみじ)である。
「過剰防衛だと思うよ」
彼はむすっと膨れている。
「許可なくパーソナルスペースに入り込むからじゃないですか」
出勤に備えてメイクをしながら、私は応える。あまりのんびりはしていられない。
「今夜は冷えるから一緒に寝ていいって言ったのはそっちなのに」
「すぐに寝ちゃったことについては詫びますけど、だからって朝がオッケーってことにはならないんですよ」
そういうつもりであれば準備くらいする。仕事がある日にそんなアクティブなことはさすがにできない。若さにも体力にも自信はあるけど。
私が返せば、彼は納得できない顔をした。
「寂しかったんだけどな。放置されたから」
「今夜は前向きに検討しますよ」
「飲み会だって言ってたじゃん」
ちゃんとスケジュールを把握していて偉いな。
私はメイク道具を片付ける。
「でも、明日はお休みだから。駅までお迎えに来てくれたら、付き合いますよ」
「ふふふ……じゃあ、それで」
彼はニコッと笑う。
寂しく思っていたのは本当なのだろう。ここのところ、仕事が忙しすぎて付き合い等で夕食を外で済ませることが多かった。帰って寝るだけの生活では、同居していても会話らしい会話はない。
「疲れているから、ほどほどで、ね?」
「マッサージ多めにサービスするよ」
下心多めの発言だが、マッサージはありがたい。彼は上手だ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、弓弦ちゃん」
手をひらひらと振られる。この光景がすっかり当たり前になっていることに、私は複雑な心持ちになりながら家を出たのだった。
《終わり》
ベッドの上に腰掛けたまま遮光カーテンを半分だけ開ける。窓の外の街路樹が赤く色づきはじめていた。これから先はしばらく暑さと縁が切れてほしいと願う。朝晩の冷え込みもキツくなり、外の様子もようやく秋めいてきたのが色合いから察せられた。
今年の夏はとんでもなく暑かった。四月から始まった長すぎる夏が九月でやっと終わったという感じだ。あんまりにも熱い日々が続きすぎるから、夏日という言葉を改めるべきじゃないかと提言したい。夏よりももっと暑い、いや、熱い日々が多すぎる。
マンションの最上階じゃなくてよかったとしみじみ考える程度には陽射しが辛かったことを思い出した。冬場の光熱費を抑えるには日当たりは大事ではあれど、夏場の光熱費を節約するには陽射しをいかに抑えるかも大事だろう。
「……寒い」
遮光カーテンをグレードの高いものに買い替えたおかげか、朝もほぼ真っ暗で寒く感じる。カーテンを少し開けて寝るには結露が心配になるので悩みどころだ。
もう少しだけ寝ていようかな……
目覚まし時計のアラームは鳴った後ではあるけれど、まだ余裕があるはずだ。ぐっすりと寝直さなければ遅刻はしない。
ベッドの中でモゾモゾと動く。夏用の掛け布団に大きな毛布を併用して使っている。毛布がダブルサイズなので、掛け布団の上に毛布を載せる形で使っているが、これが程よく暖かいのだ。
「そろそろ羽毛布団を出すときかねえ……」
体温で暖を取るのも限界はある。秋は一瞬で終わって冬を迎えそうな気配に小さく身体を震わせた。
「まだ大丈夫だと思うよ」
足元のほうがゴソゴソと動いて、半裸の青年が顔を出した。同居人の美麗すぎる顔が迫ってくる。
「ちょっ!」
勢いでキスされそうになって、うっかり手が出てしまった。
ばちんとひときわ大きな破裂音が部屋に響き渡るのだった。
*****
きめ細かな白い肌に映える赤い手形。さながら紅葉(もみじ)である。
「過剰防衛だと思うよ」
彼はむすっと膨れている。
「許可なくパーソナルスペースに入り込むからじゃないですか」
出勤に備えてメイクをしながら、私は応える。あまりのんびりはしていられない。
「今夜は冷えるから一緒に寝ていいって言ったのはそっちなのに」
「すぐに寝ちゃったことについては詫びますけど、だからって朝がオッケーってことにはならないんですよ」
そういうつもりであれば準備くらいする。仕事がある日にそんなアクティブなことはさすがにできない。若さにも体力にも自信はあるけど。
私が返せば、彼は納得できない顔をした。
「寂しかったんだけどな。放置されたから」
「今夜は前向きに検討しますよ」
「飲み会だって言ってたじゃん」
ちゃんとスケジュールを把握していて偉いな。
私はメイク道具を片付ける。
「でも、明日はお休みだから。駅までお迎えに来てくれたら、付き合いますよ」
「ふふふ……じゃあ、それで」
彼はニコッと笑う。
寂しく思っていたのは本当なのだろう。ここのところ、仕事が忙しすぎて付き合い等で夕食を外で済ませることが多かった。帰って寝るだけの生活では、同居していても会話らしい会話はない。
「疲れているから、ほどほどで、ね?」
「マッサージ多めにサービスするよ」
下心多めの発言だが、マッサージはありがたい。彼は上手だ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、弓弦ちゃん」
手をひらひらと振られる。この光景がすっかり当たり前になっていることに、私は複雑な心持ちになりながら家を出たのだった。
《終わり》
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