欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
6 / 97
アフターストーリー【不定期更新】

お迎えの後に

しおりを挟む
 約束通りに迎えにきてくれるのだから、なかなかしっかりしたやつだと感心してしまう。スマホを持たせていないのに、概ね時間通りに駅にくるあたり、神様というものは想像以上に都合よく動けるものらしい。

「できることもたくさんあるけれど、できないこともたくさんあるよ。時間を遡って事象を変えることは僕にもできないし」

 部屋に着くなり、感謝を述べた私に神様さんは明るく答えた。

「それに、君の心ひとつ動かすこともできていないでしょう?」
「そこは神様さんが本気出していないからでは?」

 玄関に靴を並べて、私は彼を見上げた。出会った頃と同じような暖かそうなジャケットを脱ぐ神様さんはやっぱり格好がいい。
 顔もいいけど、スタイルもいいんだよな……
 つくづく見た目は好みである。アルコールをほどよく摂取しているから、余計に彼が魅力的に映るらしかった。欲求不満という状態なのだろうか。

「本気を出してしまったら、君が君じゃなくなってしまうからね。僕は弓弦ちゃんが大好きだから、そのままの君に愛されたいよ」
「見た目はこだわらないってことですか?」

 立ち上がってコートを脱ぐと、神様さんは私のコートを受け取っていつもの場所に掛けてくれた。こういう日常の動作に声掛けが必要ないくらい、私たちは仲良く共同生活をしている。

「うーん。どうだろう。僕は弓弦ちゃんの見た目も好きだけど、僕とは違って年齢に応じて見た目は変わるものでしょう? 時間の流れも違うから、僕からしたら変化はあっという間なんだよねえ。だから、弓弦ちゃんが弓弦ちゃんらしいことが僕にとってはとても大事なんだ」
「ううーん、難しいこと言ってる……」
「酔っ払いさんには難しかったかな」

 頭痛を覚えて頭を抱えた私に、神様さんは苦笑した。
 やっぱり彼は、人間じゃないのだな。
 何度か奇跡を見せてもらっているので、そういうものだと思ってはいるのだけれど、実感を伴うことがあまりないのだった。ちょっぴり距離を感じる。疎外感。
 いつか、この関係も終わるのだろうと覚悟しているし、彼の気まぐれでここに居着いているだけなのだからと自分に言い聞かせてはいる。いつまで愛を囁いてくれるのか、わかったものではないのだ。

「……シャワー浴びてくる」
「一緒に入るかい?」
「十分経っても出てこなかったら様子見に来てください。力尽きてるかもしれないので」

 ひらひらと手を振って浴室に足を向ける。

「着替えは?」
「バスタオルがあれば充分では?」

 どうせこのあとはベッドで寝るのだ。わざわざ着てから脱ぐのは面倒である。
 私がさらっと返せば、脱衣所に入る前に後ろから抱き締められた。

「ちょ……お風呂入れないってば……」
「寒くなってきているんだから、パジャマは着るべきだと思うよ」
「あなたが暖めてくれるんでしょ?」
「そういうこと言われたら、加減できなくなる」

 彼はそう返して、私のへそのあたりを優しく撫でてくる。その手はするりと下りて、股に手を差し入れた。

「ま、待って。シャワー浴びてからがいいですって。逃げませんから、ね?」
「ふふ……積極的だね。ここで一度挿れてからにしない?」

 指先が刺激を与えてきた。耳元で囁いて、耳たぶをはむっとされる。くすぐったい。

「やっ、ダメだってば」
「感じてるんでしょ?」
「ん……それは認めるけど、仕事帰りだからさっぱりしたいの!」

 なんとか一歩踏み出したが、指の刺激で足に力が入らなくなった。ふらついて、彼に体を預ける。

「観念しよう?」
「わかった、一緒にシャワーしましょう。体を清めてからに、ね?」

 私は懸命に説得を試みる。私の体を支えていた腕が持ち上がって、体勢が整えられた。

「うんうん。そうしよう。僕がシャワーしてる間にぐっすり熟睡されたらまたお預けになってしまうからねえ」

 確かに昨夜はそんな調子でサクッと先に寝てしまった私である。今朝はビンタをして彼を拒絶してしまったわけで、警戒されるのはごもっともだ。
 ゆっくりと見上げれば、ご機嫌に笑う神様さんの美麗な顔があった。

「……明日はお休みなんですから、そうなったら朝は付き合いますよ」
「じゃあ、夜も付き合ってもらうし、朝も堪能させてもらおうかな」
「そんなに体力ないですよ……」
「弓弦ちゃんは体力あると思うけどなあ。まあ君が動かなくても僕が奉仕するから、身を任せるだけでいいさ」
「それも疲れるんですよ……」

 やっと解放された。私は脱衣所に辿り着いて服を脱ぐ。オフィスカジュアルの服は洗濯がラクでいいけれど、スーツの方が服装に悩まなくていいのになどと思った。

「ふふふ。まずは全身のマッサージからだったよね。朝の約束、ちゃんと覚えているよ」

 確かにそんな約束を交わしたなと思い出した。私は彼の顔を見て目を瞬かせる。そしてにこりと笑った。

「そういう律儀なところは好きですよ」
「それ以上の奉仕がご希望であれば、命じてね」
「それは……まあ、そのときに?」

 色っぽい視線を受けて、私は慌てて彼に背を向けた。これからシャワーだというのにそれどころじゃなくなってしまう。

「遠慮しなくていいんだよ?」

 彼も服を脱ぐと浴室に一緒に入る。大人ふたりが入ると狭い。密着しないと動けないというわけではないけど、互いの体を意識せずにはいられない距離なのだ。

「遠慮はしますよ」
「ふふ。そうだね。そのくらいがいいかもしれないねえ」

 彼の手がボディソープを取って泡を出す。その手が迷わず私に触れた。

「ん……」
「ここは僕に任せておいてよ」

 そう促されてしまうと、私は抵抗できないのだった。

《終わり》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

処理中です...