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アフターストーリー【不定期更新】
悪夢にうなされて
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基本的に明晰夢であるからか、あまり悪夢らしい悪夢に遭遇することはない。だが、さすがに今回はヤバかった。
「――助けに来たよ、弓弦ちゃん」
差し伸べられたその手を掴んで、私は引っ張り上げられた。
夢が終わる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよう、弓弦ちゃん」
部屋はまだ薄暗い。声を掛けてくれた神様さんは私の左手を自身の両手で包み込んでくれていた。とても温かくて心地がいい。
「神様さん」
「うなされていたね」
「怖い夢でした」
「そう」
穏やかな声に安堵する。
よかった、ここは現実だ。
現実ではあるけれど、現実感は薄めな私の世界。自称神様な怪異と同居している現状が私の日常。向き合うことを避けてしまった結果がこれである。
「……詳細を聞かないんですね」
「聞いてしまったら、君の記憶に残ってしまう。放っておいたほうがいいんだよ、ああいうのは」
確かにそういうものかもしれない。
よくよく考えたら、両親も兄貴も私がうなされていてもなだめるだけで、詳細を聞こうとしなかった。だから自然と忘れられたのだろう。
私はゆっくりと体を起こす。
「神様さんが助けてくれました」
「僕は君の手を握っただけだよ。勝手に触れてしまったことは許してほしいな」
にこっと微笑まれるとより安心する。いつから彼は私の心を占有するようになったのだろう。
これはよくない兆候だ。また兄貴に怒られてしまう。
「今日は代休だよね。明日からの三連休も暦どおりにお休みかい?」
「ええ、呼び出しがなければ」
この調子だと呼び出しはないだろう。現状、私の体調が悪いので、もし指名されてもほかの人に代わってもらうつもりだ。
「しっかり休んで、風邪は治そうね。梓くんに報告しなくて良いの?」
「市販薬があるから大丈夫ですよ。月曜日までに回復しなかったら、そのときは、ね」
風邪薬の在庫があることは確認してある。慌てて買いに行かずとも足りるだろう。
「悪化させたら僕も怒られてしまうよ」
「流行り病じゃないと思いますよ」
「じゃあ、過労かねえ」
神様さんは苦笑を浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。疲れが強めに出ているだけで、熱もなく会話もできるから平気だろうと判断したに違いない。
もう悪夢の内容は朧げになっていた。
「何か体が温まるものを出そうか」
「自分でしますよ」
立ち上がろうとした私の肩に手を置く。神様さんは私をベッドに座らせた。
「手が滑ってやけどをしたら大変だよ。君は座っていて」
「過保護じゃないですかね……」
「僕がしたいんだよ」
そんなに具合が悪そうに見えるのだろうか。それとも――
ここでずっと押し問答をしていても仕方がないので、私は神様さんにお任せすることにした。
寝室を出ていく彼を見送って、私はスマホを見る。今のところ緊急性の高そうな連絡はなく、自分が関連するような大きなニュースもなさそうだ。
「弓弦ちゃん、朝食はどうする?」
「トーストが食べたいです」
「じゃあ、そっちも準備するね」
「ありがとうございます」
風邪をひいても心細いと感じることがないのは彼のおかげだろう。一人暮らしを始めてすぐに体調を崩してしまったとき、私は強がって誰にも連絡を取れずにいた。だいぶ悪化させてしまい、様子がおかしいことに気づいて駆けつけてくれた兄貴にしこたま叱られたのを思い出す。
うーん……黙ったままだと、また怒られるかな……
この程度で連絡を入れるのは大袈裟のようで気が引けるのだけども、何も言わずにいるのはそれはそれでよろしくないような気がする。神様さんが私の勘は当たるのだと言っていたこともあいまって、放置しておくのは悪手ではないかと不安になった。
「神様さん」
「うん?」
私の呼びかけに、彼はすぐにドアから顔を出した。
「やっぱり兄貴には連絡しておこうと思います。こっちに来るかもしれないですけど、相手をお願いできますか?」
「ふふ。それがいい。任せておいてよ」
神様さんが顔を引っ込めたタイミングで、私はスマホでメッセージを書く。
風邪で休んでいますが、居候のお世話になっているので大丈夫です――っと。こんな感じでいいか。送信。
ポチッと画面を押してメッセージを送る。兄貴は今日も店があるだろうからいきなり訪ねてくることはないはずだが、何らかのアクションは起こすだろう。問題ないと判断すれば、返信だけだろうし。
スマホを握ってリビングダイニングに向かう。トーストの香ばしい匂いがした。
「準備はできてるよ。そっちは終わったかい?」
「はい」
私が席に着くなりカップに注がれた野菜スープが配膳された。まもなくトーストも並べられる。自宅でこのサービスはすごい。
「さあ、召し上がれ」
「いただきます」
至れり尽くせりでありがたい限りだ。早く体調不良を治して通常業務に戻らねばと強く感じたのだった。
「――助けに来たよ、弓弦ちゃん」
差し伸べられたその手を掴んで、私は引っ張り上げられた。
夢が終わる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おはよう、弓弦ちゃん」
部屋はまだ薄暗い。声を掛けてくれた神様さんは私の左手を自身の両手で包み込んでくれていた。とても温かくて心地がいい。
「神様さん」
「うなされていたね」
「怖い夢でした」
「そう」
穏やかな声に安堵する。
よかった、ここは現実だ。
現実ではあるけれど、現実感は薄めな私の世界。自称神様な怪異と同居している現状が私の日常。向き合うことを避けてしまった結果がこれである。
「……詳細を聞かないんですね」
「聞いてしまったら、君の記憶に残ってしまう。放っておいたほうがいいんだよ、ああいうのは」
確かにそういうものかもしれない。
よくよく考えたら、両親も兄貴も私がうなされていてもなだめるだけで、詳細を聞こうとしなかった。だから自然と忘れられたのだろう。
私はゆっくりと体を起こす。
「神様さんが助けてくれました」
「僕は君の手を握っただけだよ。勝手に触れてしまったことは許してほしいな」
にこっと微笑まれるとより安心する。いつから彼は私の心を占有するようになったのだろう。
これはよくない兆候だ。また兄貴に怒られてしまう。
「今日は代休だよね。明日からの三連休も暦どおりにお休みかい?」
「ええ、呼び出しがなければ」
この調子だと呼び出しはないだろう。現状、私の体調が悪いので、もし指名されてもほかの人に代わってもらうつもりだ。
「しっかり休んで、風邪は治そうね。梓くんに報告しなくて良いの?」
「市販薬があるから大丈夫ですよ。月曜日までに回復しなかったら、そのときは、ね」
風邪薬の在庫があることは確認してある。慌てて買いに行かずとも足りるだろう。
「悪化させたら僕も怒られてしまうよ」
「流行り病じゃないと思いますよ」
「じゃあ、過労かねえ」
神様さんは苦笑を浮かべて、ゆっくりと立ち上がった。疲れが強めに出ているだけで、熱もなく会話もできるから平気だろうと判断したに違いない。
もう悪夢の内容は朧げになっていた。
「何か体が温まるものを出そうか」
「自分でしますよ」
立ち上がろうとした私の肩に手を置く。神様さんは私をベッドに座らせた。
「手が滑ってやけどをしたら大変だよ。君は座っていて」
「過保護じゃないですかね……」
「僕がしたいんだよ」
そんなに具合が悪そうに見えるのだろうか。それとも――
ここでずっと押し問答をしていても仕方がないので、私は神様さんにお任せすることにした。
寝室を出ていく彼を見送って、私はスマホを見る。今のところ緊急性の高そうな連絡はなく、自分が関連するような大きなニュースもなさそうだ。
「弓弦ちゃん、朝食はどうする?」
「トーストが食べたいです」
「じゃあ、そっちも準備するね」
「ありがとうございます」
風邪をひいても心細いと感じることがないのは彼のおかげだろう。一人暮らしを始めてすぐに体調を崩してしまったとき、私は強がって誰にも連絡を取れずにいた。だいぶ悪化させてしまい、様子がおかしいことに気づいて駆けつけてくれた兄貴にしこたま叱られたのを思い出す。
うーん……黙ったままだと、また怒られるかな……
この程度で連絡を入れるのは大袈裟のようで気が引けるのだけども、何も言わずにいるのはそれはそれでよろしくないような気がする。神様さんが私の勘は当たるのだと言っていたこともあいまって、放置しておくのは悪手ではないかと不安になった。
「神様さん」
「うん?」
私の呼びかけに、彼はすぐにドアから顔を出した。
「やっぱり兄貴には連絡しておこうと思います。こっちに来るかもしれないですけど、相手をお願いできますか?」
「ふふ。それがいい。任せておいてよ」
神様さんが顔を引っ込めたタイミングで、私はスマホでメッセージを書く。
風邪で休んでいますが、居候のお世話になっているので大丈夫です――っと。こんな感じでいいか。送信。
ポチッと画面を押してメッセージを送る。兄貴は今日も店があるだろうからいきなり訪ねてくることはないはずだが、何らかのアクションは起こすだろう。問題ないと判断すれば、返信だけだろうし。
スマホを握ってリビングダイニングに向かう。トーストの香ばしい匂いがした。
「準備はできてるよ。そっちは終わったかい?」
「はい」
私が席に着くなりカップに注がれた野菜スープが配膳された。まもなくトーストも並べられる。自宅でこのサービスはすごい。
「さあ、召し上がれ」
「いただきます」
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