欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

文字の大きさ
46 / 97
アフターストーリー【不定期更新】

日本酒に銀杏を添えて

しおりを挟む
 客先の近くに銀杏並木があって、銀杏の特有の香りに気づいて秋の深まりを感じる。焼いた銀杏に日本酒を合わせたいなあ、でも家で食べるものでもないからなあ、などと考えながら帰宅したら、ダイニングテーブルに用意されていた。
 日本酒と銀杏。まさかの展開である。

「おかえり、弓弦ちゃん」

 私が晩酌の準備ができているテーブルを見て目を丸くしていると彼がニコニコしながら声をかけてくれた。

「ただいま……って、私の思考、読んだんですか?」

 彼、こと、神様さんは神様を自称する怪異であり、私の思考を読むことはできる。一応私個人を尊重して、いつでもどこでも干渉してくるわけではないみたいだが。
 彼はきょとんとして首を傾げた。

「僕は読んでないよ」
「ん?」

 引っかかる物言いに私が突っかかると、彼は続ける。

「梓くんが、お客様から差し入れで貰ったからってお裾分けしてくれたんだ」

 神様さんはアニキの職場でアルバイトをしている。小さな飲食店なのだが、そこそこ繁盛しているだけあって常連から頂き物をすることがあるのは知っていた。

「へえ……」
「一緒に食べよう」

 誘われたが、まだ帰宅したばかりで何も準備ができていない。洗面所に向かった私は彼に声をかける。

「お酒とセットだなんて、アニキが許可してるんですか?」
「うん。弓弦ちゃんは好きだろうからって教えてくれた」
「ええ……」

 私の酒癖もあって家飲みはするなと言い続けてきたというのに、この数ヶ月は風向きが変わったみたいに飲酒の許可が出ているのが不思議だ。
 私は手洗いとうがいを済ませてダイニングに戻る。

「どういう風の吹き回しなんですかね」
「それだけ信用されているんじゃないかな」
「信用……」

 銀杏を一つ摘んでから着替えに向かおうかと思ったが、ぐっと我慢して寝室に向かう。さっさと部屋着に着替えると席に着いた。

「焼き鳥も用意したよ。こっちも差し入れ」
「アニキの店は飲み屋でもはじめたんですか……」

 バケットサンドが主力商品の飲食店だったはずなのだが。パン屋ではなく、軽食店である。
 私があきれて告げると、彼は笑った。

「飲みに行きたいのは梓くんなんじゃないかな」
「ああ、そういう」

 そういうことなら納得である。副店長のような仕事をしているとのことなので、結構な時間を店舗で過ごしている。配達をする時間もあるのでいつでも店にいるわけではないのだが。
 仕事熱心だから、飲みに行かずに真っ直ぐ帰るんだろうな……。
 私が納得すると、彼はニコニコした。

「兄妹で飲みに行ってもいいんだよ?」
「あら、神様さんは欠席なんですか?」

 熱々の焼き鳥をテーブルに出しながら提案してくる神様さんに、私は尋ねた。

「僕がいたら作戦会議も捗らないでしょう?」
「作戦会議を開かなきゃいけないようなこと、しちゃったんですか?」

 私が問いを問いで返すと、彼は微苦笑を浮かべた。

「そういう話ではないさ」
「ならいいんですけど」

 神様さんはその性質上私に嘘をつけない。一方で、嘘をつけないかわりに断言を避ける傾向にある。
 誤魔化された気がするなあ。

「僕がいないほうが捗る話もあるんじゃないかなあ」

 キャベツに焼き海苔とごま油と塩をあえたものが小さめのボウルで出てきた。本格的に飲み屋のテーブルである。

「アニキがそのほうがいいって言ってきたら、兄妹で飲んできますよ。でも、兄妹飲みってしたことがないんですよね」
「そうなのかい?」

 意外そうに返しながら、彼は自分の席に腰を下ろした。

「外でもうちでも、多分ないはずですよ。二人っきりってのは」

 互いの仕事が忙しくて合わせにくいということもあるが、飲むときにはだいたい同郷の元カレが同席していた。だから、二人っきりはない。

「この家で飲んでるのだと思ってた」
「アニキの家は店挟んで反対側ですからね。わざわざこっちには寄らないんですよ」
「ああ、確かにそんな話をしていたねえ」

 アニキと神様さんってどんな日常会話をするんだろう。
 私はお猪口に日本酒を注いでもらう。お返しに、私は彼のお猪口にお酒を注いだ。

「――いただきます」

 日本酒をひと口いただいて、銀杏を一つ口に入れる。幼い頃は茶碗蒸しに入っていたそれを懸命に退けていたものだが、今は好きなもののひとつだ。ホクホクしていて美味しい。

「ふふ。美味しいねえ」
「食べ過ぎは厳禁なんですよね、銀杏って」
「うん。梓くんから注意されたよ。美味しいからって食べさせすぎには気をつけろって」
「わあ、過保護……」
「そういう面は信用されていないってことでしょ、弓弦ちゃん」
「ええ……」

 不満である。確かに、一人で食べていたら気にせず食べ過ぎていただろうけども。
 それにしても。
 私はテーブルに所狭しと並ぶ皿を見る。
 こうして家で食べることが増えたこともあって、食器をいくつか買い足した。そもそも私は家で食事をしなかったので、食器も調理器具もほとんど持っていなかったのだが、彼が料理をするようになって増やしたのだ。場所を取るのは嫌だからと、使い回しがしやすい白い皿を大中小で揃えたのだが、彼はいつもうまく盛り付けてくれる。
 これ、家で食べられるんだ……。
 焼き鳥を食べる。タレも塩も美味しい。ありがとう、差し入れ。

「ふふ。今日もお疲れ様。元気な君を特等席で見られて幸せだよ」
「いつも美味しい食事を準備してくれてありがとうございます」

 素直に伝えられたのはお酒のおかげだろうか。私がニコニコしながら告げれば、彼も嬉しそうに笑う。
 なんの変哲もない時間だけども、ゆっくりとこうして過ごす日常はかけがいのないものだと受け止めておきたいなと私はひっそりと願った。

《終わり》
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...