欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

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アフターストーリー【不定期更新】

指先にあかぎれ

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 いつまでも暑い日が続くわけではないはずだけども、こうも二十度を超える日々が続くと小春日和なんて言葉が泣いてしまうんじゃないかと思う。十一月ごろの暖かな気候を小春日和と呼ぶのではなかったのか。
 さておき、昼間は汗ばむくらいの暖かさではあるが、朝晩の冷え込みはガッツリときつく、夏と違って乾燥しているのが厄介なところである。
 私が帰宅して念入りに手を洗っていると、指先に痛みが走った。

「むっ……もうそんな季節かあ……」

 あかぎれである。指先が少し裂けていて、水がしみたらしかった。
 今年は外を出歩く時間が長かったもんなあ。
 週末にジョギングをするようになったせいもあるが、仕事で協力会社に出向くことが多いのでどうしても外にいる時間が長いのである。
 私が指先を見ながらため息をつくと、彼が私の後ろから覗き込んだ。

「ありゃ、怪我かい?」
「怪我というか……まあ、そうですね」
「痛そうだ」

 私の手を取ってじっと見つめる。こんなふうに心配されるとは思わなかった。

「じ、神通力で治さなくて大丈夫ですよ。今はあなたのおかげで三食バランスよく美味しい食事にありつけていますし、早寝早起きで健康的な生活を送れているのですぐに治りますよ」

 彼は自称神様な怪異である。神通力でこのくらいの傷は治せるはずだ。
 引っ込めようとした手は握られたままで、彼は私を見つめて首を傾げた。

「でも、痛むよね?」

 意地でもうんと言わせたいらしい。だが私だって彼を頼りたくないのである。
 よし、条件をつけて譲歩しよう。

「……これ以上酷くなるようなら、頼みますよ」
「遠慮しないでおくれよ」
「毎年のことなので、今はこれでいいんですよ。酷くなったら、ちゃんとお願いしますから」
「そう?」

 やっと手を離してもらえた。指先を見やると、一番ひどかったところの傷が塞がっている。

「……ん?」
「血が出るのはよくないから塞いでおいたよ」
「……はぁ」

 私はため息をついて、それから彼を見て苦笑した。

「どうせすぐできるのに」
「そういうところは面倒くさがっちゃダメだよ。それに、君の血は怪異を引き寄せる香りが出てしまうからね、塞いでおくに越したことはないさ」

 初耳である。
 え、なんだって?

「ふふ。今日は野菜たっぷりの味噌汁があるよ。あと、鰤の照り焼き。湯豆腐もある。たくさんお食べ」

 そう言葉を続けて、彼は何事もなかったようにキッチンに戻っていく。

「むむ……」

 確かに私は怪異を引き寄せる体質の持ち主だが、今は神様さん特製の御守りを持ち歩いているし、そのお陰かめっきりほかの怪異に遭遇することが減っている。少しは体質にも変化があったんじゃないかと期待していたのだが、そうでもないらしい。
 まあ、今は神様さんもバイトに出ているわけだし、四六時中私の危機に付き合えるわけではないもんな……。
 彼の力に頼るのはあまり得策ではないと自分に言い聞かせつつも、厄介ごとを遠ざけるための方策は練っておかねばと肝に銘じる私なのだった。

《終わり》

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