欲望の神さま拾いました【本編完結】

一花カナウ

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アフターストーリー【不定期更新】

跳ねた髪を直して

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 前回帰省したときに髪を整えてきたのだが、空気が乾燥しているからか癖がつきやすい上に広がるようになってきた。店主、腕が落ちているな?
 それはさておき、実家のそばの古くからある美容院でないと髪を切ってはいけないという決まりを律儀に守ること二十数年の私なのである。
 ほかの場所で切るわけにはいかない理由を彼から聞かされてなるほどそれは守るべしと納得したこともあり、この髪を今後のためにもどうにかしたいと思っても帰省一択であることを考えたらしばらく自分でどうにかする道を模索することを選ぶのだ。
 だが、どうにか打破せねばならないのに、最終手段を使わねばならない窮地に私は立たされていた。

「――ずいぶんとお困りなようだねえ」

 今日は客先にて大事な商談があるので髪をきっちりとしておきたかった。そのために少し早起きしたくらいなのだ。しかし運悪く面倒くさい寝癖がついていて早くも遅刻ギリギリになっている。ピンチだ。
 そんな事情で鏡の前で奮闘している私に、彼が声をかけてくれた。

「ヘアアイロンがうまくいかないんですよ……今日は寝癖がついているわけにはいかないのに!」

 結ぶには中途半端な髪なので、この寝癖を誤魔化しようがない。タイムリミットは刻々と迫っている。

「力を貸すよ?」
「誘惑にはのりませんよ」
「そう? でも、次の電車の時間も迫っているよね?」
「むむ……」

 背に腹はかえられない。私はヘアアイロンを置いて彼と向き直った。

「……時間がないので、後払いで」

 彼はその言葉を聞いてふふっと笑った。私の髪を優しく撫でる。

「このくらいなら――」

 後頭部に彼の大きな手が添えられたかと思えば、ぐっと引き寄せられる。唇が重なった。

「接吻で済ませられるよ」

 離れたところで、彼は私に画面の大きなスマートフォンを向けた。カメラが自撮りの向きになっているから私が画面に大きく映し出される。
 お、寝癖、直った?

「おおおおっ! ありがとうございますっ!」

 跳ねていた髪がおとなしくなっているのを確認するなり、私は慌てて荷物の場所に移動する。

「口紅、直しておいたほうがいいかも」

 自分の指でツンツンとつついて示す彼の唇はほんのり赤くツヤツヤしている。

「マスクつけて行くんで大丈夫です。着いたら化粧室で直しますんで」
「そう?」
「神様さんこそ、私のリップ、がっつりついているんでアニキに見つかる前に拭いてくださいね」

 今日もバイトとして私の兄の勤めるお店に向かうことだろう。口紅がついているのに気づいたらどんなお小言が飛んでくるかわからない。

「はいはい。弓弦ちゃんも、気をつけて。僕の加護を強めに掛けておいたけど、何があるかわからないからねえ」
「はぁい。行ってきます」

 めちゃめちゃ不安にさせる言葉をかけられた気がするが、いつも通りに注意するだけだ。私は見送りにきた神様さんに手を振って、仕事に向かうのだった。

《終わり》
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