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アフターストーリー【不定期更新】
年末ライブがない代わりには
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師走。
この時期は何かと忙しい。なんとか走り切るためにご褒美が必要だと考えた私は、年末年始を自宅で過ごすのをいいことに、カウントダウンライブの配信を購入して乗り切ることに決めている――のだが。
「うう……こればかりは仕方がないよね……」
「どうかしたのかい?」
スマートフォンを握りしめて項垂れる私に、彼は優しく声を掛けてくれた。
「社会人になったときから推しているグループがあるんですけどね、今年はカウントダウンライブしないんですって」
「ああ、前に見せてくれたキラキラしている人たちの話かい?」
私はうんうんと力強く頷いた。
「私、彼らのライブ中継を年末に見届けるためにこの一年過ごしてきたのに……」
テレビが家にないので音楽番組に疎い自分であるが、彼らの配信は通勤の行き帰りや昼休みなどでチェックしてきた。並行してゲームもやっているからすべての時間を捧げているわけではないにしろ、自分も一緒に成長してきたようにも思えて彼らの活躍をどこか誇らしげに感じていたところもあったくらいだ。
なのに。
「いや、仕方がないんですよ。今年は単独ライブじゃなくて、年末恒例の生番組に呼ばれたから大出世なんです。でも、ファンとしてはなんというか、例年通りにならないのは、なんていうか、置いてけぼりにされたみたいで寂しいんですぅぅぅ……」
大御所であれば、年越しライブの途中に番組の中継を挟んで、それからカウントダウンをして盛り上がるのだろう。だが彼らは活動こそ五年以上になるがまだ若いグループである。事務所もそこまで推せなかったんだろうと想像できる。
想像はつくけど、毎年の楽しみだったんだよなあ……。
昨年末はカウントダウンもそこそこに彼とイチャイチャしていた気がするが、その影響でこうなったんだろうか。だとしたら、ちょっとツラい。
「ふふ。弓弦ちゃんはちゃんとわかっているじゃないか」
「でも、切ないものは切ないんですよぉ」
泣きそうになって突っ伏すと、彼は私の頭を優しく撫でた。
「その大仕事を断ってまで、彼らにらいぶをしてほしいわけじゃないんだよね?」
「当然じゃないですか」
「じゃあ、我慢だねえ」
ああ、本当に泣きそう。
私は鼻をぐずぐずさせた。
「わかってます。……それに、成長であれどうであれ、同じ日常を続けるのは難しいってことも、理解しているつもりなんですよ」
「うんうん。ある程度は割り切らないと」
「出世なのだから、背中を押したいの」
「そうだね」
「だからもう、泣き言はこれまでにします」
私は顔を上げた。
「とりあえず、これまで年末に見ていた配信はなくなったので、新年最初のライブの配信は購入します。グッズも多めに通販して、応援しないと」
「いいと思うよ」
「で、その時間はゲームをします。年末に大型アップデートと新規イベントが来るって話なので、それに備えて仕事は頑張ることにします!」
「そっちかぁ」
想定していた方向に話が転がらなかったことに、彼はガッカリしているらしかった。
申し訳ないが、私は彼のことはもちろん好きだけども、だからといって担降りをしたつもりはないし、二次元も三次元も推す相手はいるのである。別腹のようなものだ。
とはいえ、である。
私は慰めてくれた彼の顔を見た。
「それはそれとしてですね。今年の年末年始は待機を回避できそうなので、ゆっくりできますよ。今の仕事のリリースは年明けなので、そこから先は忙しいんですけどね」
入社して以来ずっと年末年始は緊急時に備えていつでも出勤あるいは自宅から作業ができるように待機を命じられていた。それが今年はまったくない。ハッピーである。
すると彼は首を傾げた。
「おや、実家には帰らなくていいのかい?」
「いいんですよ、別に。今年は顔を出せたので。また戻ったら厄介ごとに巻き込まれるに決まっています。リリースには戻ってきていないとかなりまずいので、不確定要素は減らすが吉です」
私が言い切ると、彼は愉快げに笑った。
「あはは。そうだねえ。今帰ったら祝言を挙げろと言われそうだし、仕事が落ち着いてからがいいんじゃないかな」
「む……その様子だと、向こうで何か動きでもあるんです?」
「さあねえ」
彼は笑って誤魔化した。嘘を意図的につくことはできないが、うやむやにすることはできる。明言を避けたあたり、これは実家周りで何かが起きているか起ころうとしているのだろう。兆候があるなら、近づかないほうがいい。
「あとでアニキに確認しておきますね」
「それがいい。足並みを揃えておいたほうが良さそうだ」
「助言、ありがとうございます」
しばらく平穏な時間が続いていたので、そろそろ一波乱あるのだろう。推しグループが別のフェーズに移行したように、私も次のフェーズに動くタイミングが来てもおかしくはないのだ。
「大丈夫さ。君が望むように、僕が守るよ」
「あんまり不穏なこと、言わないでくださいよ……」
「僕に気を向けてくれないから意趣返しさ」
「むむ……」
依存先は複数持っているのが健全なんですよ、と言い返してやりたいところをぐっと堪えて、私はスマートフォンをテーブルに置くのだった。
《終わり》
この時期は何かと忙しい。なんとか走り切るためにご褒美が必要だと考えた私は、年末年始を自宅で過ごすのをいいことに、カウントダウンライブの配信を購入して乗り切ることに決めている――のだが。
「うう……こればかりは仕方がないよね……」
「どうかしたのかい?」
スマートフォンを握りしめて項垂れる私に、彼は優しく声を掛けてくれた。
「社会人になったときから推しているグループがあるんですけどね、今年はカウントダウンライブしないんですって」
「ああ、前に見せてくれたキラキラしている人たちの話かい?」
私はうんうんと力強く頷いた。
「私、彼らのライブ中継を年末に見届けるためにこの一年過ごしてきたのに……」
テレビが家にないので音楽番組に疎い自分であるが、彼らの配信は通勤の行き帰りや昼休みなどでチェックしてきた。並行してゲームもやっているからすべての時間を捧げているわけではないにしろ、自分も一緒に成長してきたようにも思えて彼らの活躍をどこか誇らしげに感じていたところもあったくらいだ。
なのに。
「いや、仕方がないんですよ。今年は単独ライブじゃなくて、年末恒例の生番組に呼ばれたから大出世なんです。でも、ファンとしてはなんというか、例年通りにならないのは、なんていうか、置いてけぼりにされたみたいで寂しいんですぅぅぅ……」
大御所であれば、年越しライブの途中に番組の中継を挟んで、それからカウントダウンをして盛り上がるのだろう。だが彼らは活動こそ五年以上になるがまだ若いグループである。事務所もそこまで推せなかったんだろうと想像できる。
想像はつくけど、毎年の楽しみだったんだよなあ……。
昨年末はカウントダウンもそこそこに彼とイチャイチャしていた気がするが、その影響でこうなったんだろうか。だとしたら、ちょっとツラい。
「ふふ。弓弦ちゃんはちゃんとわかっているじゃないか」
「でも、切ないものは切ないんですよぉ」
泣きそうになって突っ伏すと、彼は私の頭を優しく撫でた。
「その大仕事を断ってまで、彼らにらいぶをしてほしいわけじゃないんだよね?」
「当然じゃないですか」
「じゃあ、我慢だねえ」
ああ、本当に泣きそう。
私は鼻をぐずぐずさせた。
「わかってます。……それに、成長であれどうであれ、同じ日常を続けるのは難しいってことも、理解しているつもりなんですよ」
「うんうん。ある程度は割り切らないと」
「出世なのだから、背中を押したいの」
「そうだね」
「だからもう、泣き言はこれまでにします」
私は顔を上げた。
「とりあえず、これまで年末に見ていた配信はなくなったので、新年最初のライブの配信は購入します。グッズも多めに通販して、応援しないと」
「いいと思うよ」
「で、その時間はゲームをします。年末に大型アップデートと新規イベントが来るって話なので、それに備えて仕事は頑張ることにします!」
「そっちかぁ」
想定していた方向に話が転がらなかったことに、彼はガッカリしているらしかった。
申し訳ないが、私は彼のことはもちろん好きだけども、だからといって担降りをしたつもりはないし、二次元も三次元も推す相手はいるのである。別腹のようなものだ。
とはいえ、である。
私は慰めてくれた彼の顔を見た。
「それはそれとしてですね。今年の年末年始は待機を回避できそうなので、ゆっくりできますよ。今の仕事のリリースは年明けなので、そこから先は忙しいんですけどね」
入社して以来ずっと年末年始は緊急時に備えていつでも出勤あるいは自宅から作業ができるように待機を命じられていた。それが今年はまったくない。ハッピーである。
すると彼は首を傾げた。
「おや、実家には帰らなくていいのかい?」
「いいんですよ、別に。今年は顔を出せたので。また戻ったら厄介ごとに巻き込まれるに決まっています。リリースには戻ってきていないとかなりまずいので、不確定要素は減らすが吉です」
私が言い切ると、彼は愉快げに笑った。
「あはは。そうだねえ。今帰ったら祝言を挙げろと言われそうだし、仕事が落ち着いてからがいいんじゃないかな」
「む……その様子だと、向こうで何か動きでもあるんです?」
「さあねえ」
彼は笑って誤魔化した。嘘を意図的につくことはできないが、うやむやにすることはできる。明言を避けたあたり、これは実家周りで何かが起きているか起ころうとしているのだろう。兆候があるなら、近づかないほうがいい。
「あとでアニキに確認しておきますね」
「それがいい。足並みを揃えておいたほうが良さそうだ」
「助言、ありがとうございます」
しばらく平穏な時間が続いていたので、そろそろ一波乱あるのだろう。推しグループが別のフェーズに移行したように、私も次のフェーズに動くタイミングが来てもおかしくはないのだ。
「大丈夫さ。君が望むように、僕が守るよ」
「あんまり不穏なこと、言わないでくださいよ……」
「僕に気を向けてくれないから意趣返しさ」
「むむ……」
依存先は複数持っているのが健全なんですよ、と言い返してやりたいところをぐっと堪えて、私はスマートフォンをテーブルに置くのだった。
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