不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

文字の大きさ
2 / 58
不可思議カフェ百鬼夜行の怪異事件簿

第2話 カフェ百鬼夜行

しおりを挟む
「ああ、君か。来てくれると思ったよ」

 翌日の朝、モーニングを楽しんだ客が出ていくのと入れ替わりで訪ねると、店長が嬉しそうに俺を招いた。

「昨日の礼をしてなかっただろ」

 俺はため息混じりにそう返す。
 憑き物落としをしてもらったのに何の礼もしていなかったことを寝る前に思い出した。そのままにするのは居心地が悪く、俺は自然とこのカフェ百鬼夜行に足を運んでいたのだった。
 同じ商店街にあったことには驚いたが……入ったことはなかったんだよな。夜は雰囲気が違うからすぐにわからなかったぞ。
 夜逃げされて消滅した前の職場はこの通りの先にあったから、通勤でこの店の前を毎日通っていたことになる。

「じゃあ早速、手伝いをしてもらえるかな」
「現金は受け取らない主義なのか?」

 失職したばかりなので出費は控えたいものの、こういうことはさっさと区切りをつけたほうがいい。ある程度のお金は出すつもりで持ってきていた。
 店長は困った顔をする。

「そういうわけではないのだが、猫の手がほしい状況なのでね」
「ん?」

 店内を見やれば、客の姿はなかったが片付けが終わっていない状態だった。次の客が座る場所がない。

「おい、いつもこうなのか?」
「夏まではもう一人店員がいたんだが、彼女にも事情があってね。今はほぼ一人でこの店をまわしている」

 そう応えた店長は、テーブル席に移動して皿をまとめはじめる。

「ここを必要としている客に提供したいから、時間を短縮したり、人数を制限したりしたくはない。獅子野くんに手伝ってもらえたら助かるんだが、どうかな?」
「……仕方ねえな」

 別に今日の予定はない。もう少し彼の話を聞きたくて、俺は了承した。

「なにをすればいいんだよ?」

 俺がダウンジャケットを脱いで腕をまくると、店長は嬉しそうに微笑んだ。

「スタッフルームに上着を置くといい。エプロンは用意してある」
「……はあ」

 俺が訪ねてくることを予知していたみたいな手際のよさだ。俺はそれを少し不気味に感じながらも、彼のいうスタッフルームに上着を持って入った。
 狭い部屋だ。煙草の臭いが染みついている。L字型のソファにローテーブル。木製の大きなロッカーが左手の壁に置かれていて、正面は出窓。右手の壁にはホワイトボードとたくさんの付箋が貼りつけてある。ホワイトボードの隣にあるのは棚だろうか。鍵付きだがガラス張りで、中は書類や本のようだ。
 変な部屋だな。
 普通のスタッフルームといえなくはなさそうなのに、俺は何か引っ掛かっていた。だがいろいろ気にしている時間はなさそうなので、俺はソファの空いている場所にダウンジャケットを置かせてもらう。ローテーブルの上には真新しいエプロンが置いてあった。

「店長、このエプロンを使っていいのか?」

 几帳面に畳まれた黒いエプロンを崩れないように慎重に持ってスタッフルームを出る。
 店長に見せると、彼は頷いた。

「そう。それが君のだ」
「了解」

 エプロンを身につけると、何かの術が発動したのに気がつく。肌がざわっとした。

「おい」
「君を悪いものから守るためのおまじないだ。心配しなくていい」
「そうじゃねえ」
「なにかな?」

 俺は店長から皿が載せられたトレイを奪うように受け取る。

「別に、まじないとか要らねえだろ。短時間で何か起きるとも思えねえし」
「念のためだよ。君は昨日、どこかで憑けられてしまったようだったからね。どこでそれに魅入られてしまったのかを正確に答えられるなら、小細工はしないようにするが、どうかな?」
「む……」

 昨夕のことを思い返しながら、俺はトレイをキッチンに運ぶ。あとから来た店長の手にもトレイがあって、空のコーヒーカップが並んでいた。

「即答する必要はないよ。閉店までに聞かせてくれたら充分だ」
「きっちり一日働かせる魂胆かよ」
「用事があるならそちらを優先して構わないさ」

 シンクで予洗をして、店長は食洗機に皿をセットしていく。

「――で、台拭きは?」
「すぐに準備しよう」

 俺は店長の問いの答えを避けるように仕事の話を振って、思案するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

今さらやり直しは出来ません

mock
恋愛
3年付き合った斉藤翔平からプロポーズを受けれるかもと心弾ませた小泉彩だったが、当日仕事でどうしても行けないと断りのメールが入り意気消沈してしまう。 落胆しつつ帰る道中、送り主である彼が見知らぬ女性と歩く姿を目撃し、いてもたってもいられず後を追うと二人はさっきまで自身が待っていたホテルへと入っていく。 そんなある日、夢に出てきた高木健人との再会を果たした彩の運命は少しずつ変わっていき……

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

香死妃(かしひ)は香りに埋もれて謎を解く 

液体猫(299)
キャラ文芸
第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞受賞しました(^_^)/  香を操り、死者の想いを知る一族がいる。そう囁かれたのは、ずっと昔の話だった。今ではその一族の生き残りすら見ず、誰もが彼ら、彼女たちの存在を忘れてしまっていた。  ある日のこと、一人の侍女が急死した。原因は不明で、解決されないまま月日が流れていき……  その事件を解決するために一人の青年が動き出す。その過程で出会った少女──香 麗然《コウ レイラン》──は、忘れ去られた一族の者だったと知った。  香 麗然《コウ レイラン》が後宮に現れた瞬間、事態は動いていく。  彼女は香りに秘められた事件を解決。ついでに、ぶっきらぼうな青年兵、幼い妃など。数多の人々を無自覚に誑かしていった。  テンパると田舎娘丸出しになる香 麗然《コウ レイラン》と謎だらけの青年兵がダッグを組み、数々の事件に挑んでいく。  後宮の闇、そして人々の想いを描く、後宮恋愛ミステリーです。  シリアス成分が少し多めとなっています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...