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不可思議カフェ百鬼夜行の怪異事件簿
第2話 カフェ百鬼夜行
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「ああ、君か。来てくれると思ったよ」
翌日の朝、モーニングを楽しんだ客が出ていくのと入れ替わりで訪ねると、店長が嬉しそうに俺を招いた。
「昨日の礼をしてなかっただろ」
俺はため息混じりにそう返す。
憑き物落としをしてもらったのに何の礼もしていなかったことを寝る前に思い出した。そのままにするのは居心地が悪く、俺は自然とこのカフェ百鬼夜行に足を運んでいたのだった。
同じ商店街にあったことには驚いたが……入ったことはなかったんだよな。夜は雰囲気が違うからすぐにわからなかったぞ。
夜逃げされて消滅した前の職場はこの通りの先にあったから、通勤でこの店の前を毎日通っていたことになる。
「じゃあ早速、手伝いをしてもらえるかな」
「現金は受け取らない主義なのか?」
失職したばかりなので出費は控えたいものの、こういうことはさっさと区切りをつけたほうがいい。ある程度のお金は出すつもりで持ってきていた。
店長は困った顔をする。
「そういうわけではないのだが、猫の手がほしい状況なのでね」
「ん?」
店内を見やれば、客の姿はなかったが片付けが終わっていない状態だった。次の客が座る場所がない。
「おい、いつもこうなのか?」
「夏まではもう一人店員がいたんだが、彼女にも事情があってね。今はほぼ一人でこの店をまわしている」
そう応えた店長は、テーブル席に移動して皿をまとめはじめる。
「ここを必要としている客に提供したいから、時間を短縮したり、人数を制限したりしたくはない。獅子野くんに手伝ってもらえたら助かるんだが、どうかな?」
「……仕方ねえな」
別に今日の予定はない。もう少し彼の話を聞きたくて、俺は了承した。
「なにをすればいいんだよ?」
俺がダウンジャケットを脱いで腕をまくると、店長は嬉しそうに微笑んだ。
「スタッフルームに上着を置くといい。エプロンは用意してある」
「……はあ」
俺が訪ねてくることを予知していたみたいな手際のよさだ。俺はそれを少し不気味に感じながらも、彼のいうスタッフルームに上着を持って入った。
狭い部屋だ。煙草の臭いが染みついている。L字型のソファにローテーブル。木製の大きなロッカーが左手の壁に置かれていて、正面は出窓。右手の壁にはホワイトボードとたくさんの付箋が貼りつけてある。ホワイトボードの隣にあるのは棚だろうか。鍵付きだがガラス張りで、中は書類や本のようだ。
変な部屋だな。
普通のスタッフルームといえなくはなさそうなのに、俺は何か引っ掛かっていた。だがいろいろ気にしている時間はなさそうなので、俺はソファの空いている場所にダウンジャケットを置かせてもらう。ローテーブルの上には真新しいエプロンが置いてあった。
「店長、このエプロンを使っていいのか?」
几帳面に畳まれた黒いエプロンを崩れないように慎重に持ってスタッフルームを出る。
店長に見せると、彼は頷いた。
「そう。それが君のだ」
「了解」
エプロンを身につけると、何かの術が発動したのに気がつく。肌がざわっとした。
「おい」
「君を悪いものから守るためのおまじないだ。心配しなくていい」
「そうじゃねえ」
「なにかな?」
俺は店長から皿が載せられたトレイを奪うように受け取る。
「別に、まじないとか要らねえだろ。短時間で何か起きるとも思えねえし」
「念のためだよ。君は昨日、どこかで憑けられてしまったようだったからね。どこでそれに魅入られてしまったのかを正確に答えられるなら、小細工はしないようにするが、どうかな?」
「む……」
昨夕のことを思い返しながら、俺はトレイをキッチンに運ぶ。あとから来た店長の手にもトレイがあって、空のコーヒーカップが並んでいた。
「即答する必要はないよ。閉店までに聞かせてくれたら充分だ」
「きっちり一日働かせる魂胆かよ」
「用事があるならそちらを優先して構わないさ」
シンクで予洗をして、店長は食洗機に皿をセットしていく。
「――で、台拭きは?」
「すぐに準備しよう」
俺は店長の問いの答えを避けるように仕事の話を振って、思案するのだった。
翌日の朝、モーニングを楽しんだ客が出ていくのと入れ替わりで訪ねると、店長が嬉しそうに俺を招いた。
「昨日の礼をしてなかっただろ」
俺はため息混じりにそう返す。
憑き物落としをしてもらったのに何の礼もしていなかったことを寝る前に思い出した。そのままにするのは居心地が悪く、俺は自然とこのカフェ百鬼夜行に足を運んでいたのだった。
同じ商店街にあったことには驚いたが……入ったことはなかったんだよな。夜は雰囲気が違うからすぐにわからなかったぞ。
夜逃げされて消滅した前の職場はこの通りの先にあったから、通勤でこの店の前を毎日通っていたことになる。
「じゃあ早速、手伝いをしてもらえるかな」
「現金は受け取らない主義なのか?」
失職したばかりなので出費は控えたいものの、こういうことはさっさと区切りをつけたほうがいい。ある程度のお金は出すつもりで持ってきていた。
店長は困った顔をする。
「そういうわけではないのだが、猫の手がほしい状況なのでね」
「ん?」
店内を見やれば、客の姿はなかったが片付けが終わっていない状態だった。次の客が座る場所がない。
「おい、いつもこうなのか?」
「夏まではもう一人店員がいたんだが、彼女にも事情があってね。今はほぼ一人でこの店をまわしている」
そう応えた店長は、テーブル席に移動して皿をまとめはじめる。
「ここを必要としている客に提供したいから、時間を短縮したり、人数を制限したりしたくはない。獅子野くんに手伝ってもらえたら助かるんだが、どうかな?」
「……仕方ねえな」
別に今日の予定はない。もう少し彼の話を聞きたくて、俺は了承した。
「なにをすればいいんだよ?」
俺がダウンジャケットを脱いで腕をまくると、店長は嬉しそうに微笑んだ。
「スタッフルームに上着を置くといい。エプロンは用意してある」
「……はあ」
俺が訪ねてくることを予知していたみたいな手際のよさだ。俺はそれを少し不気味に感じながらも、彼のいうスタッフルームに上着を持って入った。
狭い部屋だ。煙草の臭いが染みついている。L字型のソファにローテーブル。木製の大きなロッカーが左手の壁に置かれていて、正面は出窓。右手の壁にはホワイトボードとたくさんの付箋が貼りつけてある。ホワイトボードの隣にあるのは棚だろうか。鍵付きだがガラス張りで、中は書類や本のようだ。
変な部屋だな。
普通のスタッフルームといえなくはなさそうなのに、俺は何か引っ掛かっていた。だがいろいろ気にしている時間はなさそうなので、俺はソファの空いている場所にダウンジャケットを置かせてもらう。ローテーブルの上には真新しいエプロンが置いてあった。
「店長、このエプロンを使っていいのか?」
几帳面に畳まれた黒いエプロンを崩れないように慎重に持ってスタッフルームを出る。
店長に見せると、彼は頷いた。
「そう。それが君のだ」
「了解」
エプロンを身につけると、何かの術が発動したのに気がつく。肌がざわっとした。
「おい」
「君を悪いものから守るためのおまじないだ。心配しなくていい」
「そうじゃねえ」
「なにかな?」
俺は店長から皿が載せられたトレイを奪うように受け取る。
「別に、まじないとか要らねえだろ。短時間で何か起きるとも思えねえし」
「念のためだよ。君は昨日、どこかで憑けられてしまったようだったからね。どこでそれに魅入られてしまったのかを正確に答えられるなら、小細工はしないようにするが、どうかな?」
「む……」
昨夕のことを思い返しながら、俺はトレイをキッチンに運ぶ。あとから来た店長の手にもトレイがあって、空のコーヒーカップが並んでいた。
「即答する必要はないよ。閉店までに聞かせてくれたら充分だ」
「きっちり一日働かせる魂胆かよ」
「用事があるならそちらを優先して構わないさ」
シンクで予洗をして、店長は食洗機に皿をセットしていく。
「――で、台拭きは?」
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俺は店長の問いの答えを避けるように仕事の話を振って、思案するのだった。
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