不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌【短編集】

あこがれと招き猫

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 モーニングの時間は結構賑やかだ。カウンター席は常に満席、二つのテーブル席もグループ客ですぐに埋まる。
 モーニングメニューは日替わりセット一択に飲み物を自由に選べるくらいなので、俺がシフトに入るようになってすぐでも仕事を覚えやすかった。聞けば、店長一人でまわすのに注文を覚えるのが面倒だからそうしたとのこと。
 七時開店で半までには一度全ての席が埋まって、八時過ぎにまた何人かやって来る。九時には概ね食べ終わって客は出て行く。
 だから、今日はちょっと珍しい。
 空いたテーブル席の片付けをしながら、俺はカウンター席に座って店長と親しげにおしゃべりを楽しんでいる女性に目を向ける。
 大学生だろうか。物がぎゅうぎゅうに詰まっていそうなナップザックを荷物置きに入れているあたりと、カジュアルな春物の服をまとっているあたり、社会人ではないような気がする。ふわふわとした明るい色の髪は彼女の白い肌を血色よく見せている。可愛らしい女性だと思う。

「――って、久しぶりに来たってのに、店長は面白い話はないんですか?」
「そうだねえ……君のいう憧れみたいな想いは最近はとんとないから、聞いていてとても興味深かったよ」
「憧れというか、推し、ですけどね」

 盗み聞いていたみたいで居た堪れないのだが、彼女は最近ネット配信にハマっているらしく、いい歌声を聴かせてくれる男性シンガーに熱を上げているらしい。俺はその手の話は詳しくないのでよくわからんものの、その人物はそこそこ人気があるようだ。

「推し……ふむ。ここのところよく耳にする言葉だけど、ピンと来なくてね」

 店長は困ったように笑った。
 まあ、店長は興味が長く続くことはないみたいだからな。当然といえばそうか。

「そっか……あ!」

 店長の返事を聞いて何か思い出したらしい。大きな声を出すなり、彼女は俺に目を向け、再び店長に顔を向ける。

「新人が入ったって聞きましたよ。彼がそうですよね?」
「ああ。獅子野(ししの)くんだよ」

 新人といえば新人になるのだろうけれど、もう四ヶ月は働いているはずだ。俺は少しむすっとして、テーブルの片付けを進める。

「会いたかったんですよね。彼、人気があるんですよ。態度が素っ気なかったり無愛想だったりするけど真面目に働いているところが可愛いって」
「彼は招き猫も兼ねているからね」
「おい、誰が猫だ」

 聞き捨てならない。確かに周りの様子を聞いていると、俺が働くようになってから客の回転がよくなったらしいのではあるが。
 俺は猫じゃねえ!
 威嚇するように発すれば、店長はニコニコした。

「おや。君のおかげでこの店は繁盛している。獅子野くんが働き者だからかと思っていたが、君自身の人気もあったのだね」
「んなわけがあるか。――おだてても何も出ねえぞ」

 店長に向けてもどこ吹く風なのはいつものことなので、俺は彼女をちょっと睨む。話し込むならなにか追加注文をするべきだ。彼女の手元には空のカップが置かれている。

「あら、ご機嫌ななめね。店長もこんな可愛らしい少年を朝早くから働かせるなんて」
「こう見えても彼は成人済みなんだ。童顔で華奢なことを気にしているから、外見についての言及は控えるようにね」

 店長が長い人差し指を自身の口元に当てると、彼女は驚いた顔をして自分の口元に両手を当てた。
 事情があって少年のような外見の俺である。店長のような大人の男性の姿に憧れているが、どうしたらなれるのだろう。
 なお、人間のいう年月で数えれば二十はとうに過ぎているのだが、あいにく俺は純粋な人間ではないので百年以上は活動している。ちなみに店長は俺の倍以上はこの世界を漂っているはずだ。

「――そろそろお暇しますね」

 カップを一度持ち上げて中身が空になっているのに気づいたらしい彼女は、店長に告げて軽くお辞儀をした。

「そう。また面白い話を待っているよ」
「はい」

 重そうな荷物を背負って、彼女は元気に店を出て行った。
 店内が静まりかえる。

「――店長がああいう女の子と長話しているの、初めて見た」
「おや、やきもちかな?」
「ちげえよ!」

 なんでヤキモチになるんだ。わけがわからん。

「ははは。からかって悪かったね」

 からかうな。俺は小さく咳払いをする。

「前にも来たのか?」
「獅子野くんがここに来る少し前まで、よく話をしに来ていたんだよ」

 店長は会話をしながら昼メニューの準備に取り掛かる。

「身の上話を?」
「いや。今日みたいなのは稀だね。概ね、彼女は憑かれやすい体質なのだろう。厄介な怪異を引っ提げて訪ねて来ることが多かった」

 ああ、そういうタイプの人間なのか。
 説明されて納得し、店を訪ねてきたときのことを俺は思い返す。

「今日の彼女はそういうものは憑いてなかったぞ」
「ああ。おそらく、彼女が推している彼に秘密があるんだろう」
「へえ……」

 そういうものなのか。まさかそこに話が繋がるとは。
 俺が頷いていると、店長は言葉を続ける。

「そもそも、憧れるという感情はマガモノを遠ざける。妬み嫉みに変わった瞬間に牙を向けられることになるだろうが、それまでは問題ないよ」

 その話、彼女本人にしなくてよかったのかよ。
 俺はへえと答えて受け流す。

「このカフェ百鬼夜行にマガモノを連れて来る客が減ったのは、獅子野くんに惹かれてやって来た客も多かったからだね」
「それでよかったのか?」

 俺は手を止めて店長を見る。彼もこちらを見た。
 目が合う。

「うん?」
「マガモノ祓いや怪異の話を集めたくてここに拠点を置いているんだろ?」
「心配してくれるのかい?」
「茶化してねえで、答えろ」

 少しの間。
 俺が真面目に尋ねていると理解したのか、店長は観念したように肩をすくめた。

「まあ、少し辟易していたからね。この場も浄化した方がいいだろうし。君はうってつけだったという話さ」
「……そうかよ」

 俺は成り行きでここで働いている。店長を放っておけないと思ってしまったがために、ここで店員をすることにしたのだ。
 魅力という点なら、別に俺よりも店長の方があると思うけどな……。
 俺はテーブル拭きを終えると、カウンター席に残されたカップを取ってキッチンに向かったのだった。

《終わり》
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