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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌【短編集】
地球外生命体特集、とは。
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ランチの時間帯は満席になった時点で一度クローズにしてしまうので、昼食に訪れた客が居なくなってからおやつの時間帯になるまでがスタッフの休憩時間となる。食器の片付けが早めに終わったので、今日は比較的長く休みをもらえた。
スタッフルームでまかないのサンドウィッチを食べてから空の皿を持って出てくると、雑誌を読んでいた店長と目が合った。
「獅子野(ししの)くんのお茶、冷ましてあるよ。今日はラベンダーティーだ」
「ども」
温かいほうが香りがいいのはわかっているのだが、あいにく俺は極度の猫舌なので飲むことができない。店長はそんな俺のために適度に冷ましたお茶を淹れてくれる。
俺はカウンター席に用意されたカップの前に腰を下ろす。カップを片手で持って香りを吸い込み、ひと口飲んだ。ホッとする。
「口にあったようだね」
「味よりも香りが好みだ」
「なら、今度はお茶ではなくクッキーを手配しようかな」
作るわけじゃないらしい。俺は店長を見つめる。
「ツテがあるのか?」
店長は驚いたような顔をした。
「ハーブや薬草に詳しい知人がいてね。薬湯も扱わないかと口説かれたんだが遠慮してしまった手前、なにか他のもので応じたいんだ」
友人ではなく知人だと彼は告げた。距離を感じる。向こうが思っているほど店長は親密には感じていないようだ。
「へえ。店長とコミュニケーションが取れるやつがいたのか」
「ふむ、興味深い指摘だね」
「…………」
それは素なのか?
俺は言葉に詰まってしまった。ごまかすようにほどよくぬるくなったラベンダーティーを口に含んで、店長が手に持ったままにしている雑誌を見た。
地球外生命体特集、と書いてある。オカルト系雑誌なのか科学系雑誌なのかよくわからない。
「店長、それは?」
「情報収集だよ。ネットを見るのもいいけれど、数人の目に触れてから出てくる情報というものも見ておいたほうがいいからね」
穏やかに微笑んできたあとに彼のまるい眼鏡が光るとどこか不穏な気配が宿る。
なるほど店長の趣味らしい。そもそもこの店は奇妙な事象や噂を聞きかじるために店長が始めたものだというから、彼はその手の情報に飢えている。
「そうはいうが、地球外生命体じゃ店長が求めているようなものからズレるだろ?」
「どうかな。僕たちも彼らのいう地球産の生物の定義から外れているのだし、彼らが地球外生命体と呼ぶ物たちがどういったものを想定しているのかを知ることは有意義だと思うよ」
「ああ、そういう方向か」
俺たちは人間の姿を模しているだけの怪異だ。人間たちの社会に紛れて生活するためにこの姿をとっているだけなので、彼らの思考範囲がどのようになっているのかを把握しておくのは擬態するのに役に立つ。
「それに、この店に地球外生命体とやらが立ち寄ることもあるだろう。きちんともてなして話を聞きたいからねえ」
「そういう方向性か……」
好奇心に任せて掻っ捌くことがなさそうで安堵した部分はあるが、店長がウキウキしているのを見ると胸がザワザワしなくもない。こうしていつもよりも落ち着いて返事ができるのはラベンダーティーの効き目だろう。
俺がため息をつくと、店長は雑誌を棚にしまった。
「そろそろ客が訪ねて来る時間だ」
「へいへい。仕事に戻りますよー。ご馳走様」
最後の一滴まで味わうと、俺はカップを持って立ち上がる。シンクにカップを置いたところでドアが開いた。
「いらっしゃいませー。お好きな席、どこでもどうぞ」
店長の読みはいつも正確だ。俺はお客の元に早足で向かった。
《終わり》
スタッフルームでまかないのサンドウィッチを食べてから空の皿を持って出てくると、雑誌を読んでいた店長と目が合った。
「獅子野(ししの)くんのお茶、冷ましてあるよ。今日はラベンダーティーだ」
「ども」
温かいほうが香りがいいのはわかっているのだが、あいにく俺は極度の猫舌なので飲むことができない。店長はそんな俺のために適度に冷ましたお茶を淹れてくれる。
俺はカウンター席に用意されたカップの前に腰を下ろす。カップを片手で持って香りを吸い込み、ひと口飲んだ。ホッとする。
「口にあったようだね」
「味よりも香りが好みだ」
「なら、今度はお茶ではなくクッキーを手配しようかな」
作るわけじゃないらしい。俺は店長を見つめる。
「ツテがあるのか?」
店長は驚いたような顔をした。
「ハーブや薬草に詳しい知人がいてね。薬湯も扱わないかと口説かれたんだが遠慮してしまった手前、なにか他のもので応じたいんだ」
友人ではなく知人だと彼は告げた。距離を感じる。向こうが思っているほど店長は親密には感じていないようだ。
「へえ。店長とコミュニケーションが取れるやつがいたのか」
「ふむ、興味深い指摘だね」
「…………」
それは素なのか?
俺は言葉に詰まってしまった。ごまかすようにほどよくぬるくなったラベンダーティーを口に含んで、店長が手に持ったままにしている雑誌を見た。
地球外生命体特集、と書いてある。オカルト系雑誌なのか科学系雑誌なのかよくわからない。
「店長、それは?」
「情報収集だよ。ネットを見るのもいいけれど、数人の目に触れてから出てくる情報というものも見ておいたほうがいいからね」
穏やかに微笑んできたあとに彼のまるい眼鏡が光るとどこか不穏な気配が宿る。
なるほど店長の趣味らしい。そもそもこの店は奇妙な事象や噂を聞きかじるために店長が始めたものだというから、彼はその手の情報に飢えている。
「そうはいうが、地球外生命体じゃ店長が求めているようなものからズレるだろ?」
「どうかな。僕たちも彼らのいう地球産の生物の定義から外れているのだし、彼らが地球外生命体と呼ぶ物たちがどういったものを想定しているのかを知ることは有意義だと思うよ」
「ああ、そういう方向か」
俺たちは人間の姿を模しているだけの怪異だ。人間たちの社会に紛れて生活するためにこの姿をとっているだけなので、彼らの思考範囲がどのようになっているのかを把握しておくのは擬態するのに役に立つ。
「それに、この店に地球外生命体とやらが立ち寄ることもあるだろう。きちんともてなして話を聞きたいからねえ」
「そういう方向性か……」
好奇心に任せて掻っ捌くことがなさそうで安堵した部分はあるが、店長がウキウキしているのを見ると胸がザワザワしなくもない。こうしていつもよりも落ち着いて返事ができるのはラベンダーティーの効き目だろう。
俺がため息をつくと、店長は雑誌を棚にしまった。
「そろそろ客が訪ねて来る時間だ」
「へいへい。仕事に戻りますよー。ご馳走様」
最後の一滴まで味わうと、俺はカップを持って立ち上がる。シンクにカップを置いたところでドアが開いた。
「いらっしゃいませー。お好きな席、どこでもどうぞ」
店長の読みはいつも正確だ。俺はお客の元に早足で向かった。
《終わり》
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