不可思議カフェ百鬼夜行は満員御礼

一花カナウ

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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】

探偵の日

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 昼休憩の仮眠から戻ると、店長は読書中だった。この光景はいつものことなのだが、カウンター席の向こうで椅子に座って手にしている本は、珍しく文庫本だった。

「情報収集じゃないのか?」

 不意に声を掛ければ、店長は俺を見てにこりと笑った。

「今日は探偵の日だということを思い出してね。コナン・ドイルの作品に触れたくなったのだよ」
「シャーロック・ホームズか」

 作者と作品名は把握している。俺が告げると、まる眼鏡の奥の店長の目が輝いた。

「君も読んだことがあるのかな」
「いや、ドラマや映画を知っている程度だ」
「そうか。シャーロック・ホームズは様々なメディアミックスをされている、強度のある物語だ」
「そうだな」
「探偵と助手という組み合わせで想起されるのも多くが彼らだろう」
「……おい、店長。感動するところが世間とずれてねえか?」

 そういうところが店長らしいと言えばそうなのだが。
 俺があきれ口調で返すと、店長は長い人差し指を立てて自身の口元に当てる。

「読書は読み手に全てが委ねられたエンターテイメントだ。楽しめるならどんな読み方でも構わない。獅子野くんは獅子野くんで楽しみ方がある、違うかい?」
「ま、それはそうだ」

 俺は午後の仕事の準備に取り掛かる。

「――ところで、獅子野くんは探偵役と助手役ならどちらをやってみたいかね?」
「店長が探偵になるなら、俺は助手で構わねえよ」

 実際、店長は行動力も解決能力も俺より高いので、概ね主人公向きだろう。あと、見た目も華やかだからになる。地味な俺はサポートのほうがなにかと自由にできて都合がいい。
 すると、想定していたよりも真面目な低い声が響いた。

「ふむ……僕は語り手でありたいから、探偵役は遠慮したいのだが」
「んだよ。俺の物語を、店長は語るつもりなのか?」

 俺が笑い飛ばすと、店長は不思議そうな顔をして首を傾げた。癖のある黒髪が揺れる。

「獅子野くんは僕の物語にずいぶんと取り込まれてしまったからね。語り手として君の物語を明確に切り離しておいたほうがいいと思うんだ」
「……しれっと怖えことを言ってんじゃねえよ」

 怪異には固有の物語が必要である。それを侵蝕されているとあっては、この身がが危ういことと直結する。
 俺が手を止めて店長と向き合うと、彼はニコニコしていた。機嫌がよさそうだ。

「君に自覚がないなら、忠告になるかな?」
「へぇ……ってか、探偵役、助手役の選択、関係ねえだろ、それ」

 聞き流すつもりで、俺は作業に戻る。看板をオープンに切り替えないといけない。

「確かに、そうだね」

 店長は声を立てて笑って、文庫本を片付ける。
 カフェ百鬼夜行、午後業務の始まりだ。


《5月21日 終わり》
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