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不可思議カフェ百鬼夜行の業務日誌・2【短編集】
雨空と納豆
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七月十日は納豆の日だと聞いていたので、今日の賄いに納豆が出るかと構えていたが出なかった。そういう日もあるのだな。
ツナサラダのサンドイッチは美味しい。今日も暑いのでカウンターで昼食をとっている。
「――外は暑そうだな」
「線状降水帯が発達する見込みだから、夕方から大雨だそうだ」
「入道雲じゃないあたり、あの夏はずいぶんと遠くなっちまった」
レモンスカッシュをストローで啜る。炭酸が強めでとても美味しい。
店長は窓の外に目を向けて頷く。
「そうだね。もう少し生活がしやすかったように記憶しているが、スコールのような雨が降る生活にもすぐに慣れてしまうのだろう」
「慣れたくねえな」
「獅子野くんは暑さに弱い個体のようだからね」
「もう少し猫成分が強かったら、暑さも耐えられたかもしれねえけど」
「どうだろう。今の暑さは異常だよ」
遠く、雷の音がする。俺の耳がピクリと反応した。
「そろそろ降るかも」
「ああ。暗くなってきたね」
「店、開けとくか?」
今は昼休み。午後の営業時間まではクローズドの看板をかけている。
俺が尋ねると、店長はゆるりと首を横に振った。
「休憩はしっかり取るべきだ。君が食べ終わるまではこのままでいい」
「ん、了解」
添えてあったミニトマトが甘くて美味しい。
「なあ、忙しくなる予定なのか?」
「どうかな」
店長のまるい眼鏡が外の光を反射させる。
「賄い、食べやすいメニューだった」
「納豆が出なくて不満かな?」
店長が不敵に笑う。俺はサンドイッチの最後のひと口を喉の奥に押し込んだ。
「納豆って食うのも片付けるのもちょっと手間だからさ。予期したものなのかなって」
応えて、俺はレモンスカッシュを飲む。
「さあ、なんとも返答に困るねえ」
「ま、別に、なるようにしかならねえけど」
空になった皿を持ち上げると、店長が持ち去った。自分で片付けられるのに。
仕方なく、氷だけになったグラスをあおって氷を齧る。ほんのりと酸っぱかった。
「遅くなるようなら、僕が夕食をご馳走しよう」
「納豆?」
「ネバネバ丼かな」
「ふぅん。それを楽しみに仕事に励めって?」
空のグラスをシンクに置く。店長が微苦笑を浮かべた。
「君の好きなものをリクエストしてくれて構わないよ」
「じゃあ、店長のお任せ丼ってことで」
「承知した」
「おもて、切り替えてくる」
「よろしく頼む」
俺は出入り口に向かう。ドアを開けると冷たい風が吹いた。空を見上げると黒い雲。
これは長くなりそうだ。
ぽつりぽつりと大きな雨粒が落ちてくる。まもなくザアザアと強く降り出した。
看板をオープンに掛け替えると、俺は店内に戻るのだった。
《終わり》
ツナサラダのサンドイッチは美味しい。今日も暑いのでカウンターで昼食をとっている。
「――外は暑そうだな」
「線状降水帯が発達する見込みだから、夕方から大雨だそうだ」
「入道雲じゃないあたり、あの夏はずいぶんと遠くなっちまった」
レモンスカッシュをストローで啜る。炭酸が強めでとても美味しい。
店長は窓の外に目を向けて頷く。
「そうだね。もう少し生活がしやすかったように記憶しているが、スコールのような雨が降る生活にもすぐに慣れてしまうのだろう」
「慣れたくねえな」
「獅子野くんは暑さに弱い個体のようだからね」
「もう少し猫成分が強かったら、暑さも耐えられたかもしれねえけど」
「どうだろう。今の暑さは異常だよ」
遠く、雷の音がする。俺の耳がピクリと反応した。
「そろそろ降るかも」
「ああ。暗くなってきたね」
「店、開けとくか?」
今は昼休み。午後の営業時間まではクローズドの看板をかけている。
俺が尋ねると、店長はゆるりと首を横に振った。
「休憩はしっかり取るべきだ。君が食べ終わるまではこのままでいい」
「ん、了解」
添えてあったミニトマトが甘くて美味しい。
「なあ、忙しくなる予定なのか?」
「どうかな」
店長のまるい眼鏡が外の光を反射させる。
「賄い、食べやすいメニューだった」
「納豆が出なくて不満かな?」
店長が不敵に笑う。俺はサンドイッチの最後のひと口を喉の奥に押し込んだ。
「納豆って食うのも片付けるのもちょっと手間だからさ。予期したものなのかなって」
応えて、俺はレモンスカッシュを飲む。
「さあ、なんとも返答に困るねえ」
「ま、別に、なるようにしかならねえけど」
空になった皿を持ち上げると、店長が持ち去った。自分で片付けられるのに。
仕方なく、氷だけになったグラスをあおって氷を齧る。ほんのりと酸っぱかった。
「遅くなるようなら、僕が夕食をご馳走しよう」
「納豆?」
「ネバネバ丼かな」
「ふぅん。それを楽しみに仕事に励めって?」
空のグラスをシンクに置く。店長が微苦笑を浮かべた。
「君の好きなものをリクエストしてくれて構わないよ」
「じゃあ、店長のお任せ丼ってことで」
「承知した」
「おもて、切り替えてくる」
「よろしく頼む」
俺は出入り口に向かう。ドアを開けると冷たい風が吹いた。空を見上げると黒い雲。
これは長くなりそうだ。
ぽつりぽつりと大きな雨粒が落ちてくる。まもなくザアザアと強く降り出した。
看板をオープンに掛け替えると、俺は店内に戻るのだった。
《終わり》
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