24 / 122
1章:踊り子 アナベル
踊り子 アナベル 12-1
しおりを挟む「ん~……それはまた、なんとも言えないわねぇ……」
頬に手を添えて首をこてんと傾げる女性――アナベルと仲の良い、少し年上のアドリーヌが呟いた。
「え?」
「だぁって、それはアナベルが決めることだもの。恋なのか、そうじゃないのか……。でも、そうね。アナベルが初めて『素敵』って思える人に出逢えたことには感謝しなきゃね?」
くすり、と妖艶に微笑むアドリーヌに、アナベルは唇を尖らせてわかりやすく拗ねた。
そんなアナベルの様子に、アドリーヌが「それじゃあ、一言だけ助言」と言葉を続ける。アナベルがパッと表情を明るくすると、アドリーヌは彼女の耳元でこう囁いた。
「自分の直感を信じること」
アドリーヌの言葉に、アナベルは目をパチパチと瞬かせて、それからそっと自分の胸に手を当てた。
(……自分の、直感……)
アドリーヌはそんなアナベルを見て微笑む。ぽんぽんと優しく彼女の背中を叩いて、それからぎゅっと抱きしめた。
「アナベルが考えて、信じたことを、あたしたちは応援するわ」
「……ありがとう、アドリーヌさん」
自分には、旅芸人一座と言う味方がいる。そのことが、アナベルにはとても嬉しかった。血の繋がった『家族』はもう居ないけれど、こうして新たな『家族』が出来た。その家族が、こうして時には背中を押してくれる。アナベルはアドリーヌの背に手を回した。
「あたしたちのことなら、心配しなくても平気だよ。むしろ――……」
時期が来たってことだからねぇ。
ぽつりと囁かれた言葉の意味を、アナベルは知らなかった。
☆☆☆
「どうです、陛下。うちの一座は」
「良いな。クレマンを中心に、良く纏まっている。……その中に、ミシェルが居ないことが残念だが……」
「ミシェルも、陛下のことを気にしていましたよ」
誰にも聞かれない程度の小声で、ぽつぽつと言葉を交わすクレマンとエルヴィス。
ミシェルの素性を知る者も、クレマンの素性を知る者も最初は居なかった。ただ逃げるために必死で生きてきた。ふたりだけで旅を続けるのは難しく、数多くの困難をクレマンとミシェルは乗り越えて来た。そして、クレマンとミシェルはとある人たちに声を掛けられた。恐らく、彼らにとっての転機はそこだった。
「俺もミシェルも幸運だったんだ。まさか、あそこで同期に会えるとは思わなかった」
「騎士団のやり方に納得がいかずにやめて行った者たち、だったか。まぁ、現状の騎士団はどこぞの傭兵よりも腐っているからな」
むしろ、金を積めば仕事をこなすだけ、傭兵のほうがマシというものだ、と続けるエルヴィスにクレマンは苦笑を浮かべた。
「しかしなぜ旅芸人を?」
「……少しでも、国民に笑顔を浮かべて欲しかったから? それに、うちの女性たちはいろいろ上手いから、情報を集めるのにも旅芸人のほうが都合良かったってところかね」
「なるほどな……」
エルヴィスが感心するように呟く。クレマンとの付き合いはそこそこに長いが、なぜクレマンが旅芸人を選んだのかを聞いたことがなかった。その理由を聞いて、エルヴィスは眉を下げて彼の肩にポンと手を置いた。
「……国民のことを考えてくれてありがとう」
「……いえいえ。正直に言えば、ミシェルの美しさを見せつけたかったってところもあるので」
さらりと付け足された言葉に、エルヴィスは強めに彼の肩を叩いた。いってぇ、と叩かれた肩を擦るクレマンをエルヴィスは呆れたような視線を向けた。
「――それで? アナベルをどうするつもりだ?」
「……そうだな……」
6
あなたにおすすめの小説
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない
ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。
公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。
旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。
そんな私は旦那様に感謝しています。
無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。
そんな二人の日常を書いてみました。
お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m
無事完結しました!
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
婚約破棄されました(効率の悪い労働でした) ― 働いてない? 舞踏会は、充分重労働ですわ! ―
ふわふわ
恋愛
「働いていない?――いいえ、舞踏会も社交も重労働ですわ!」
前世で“働きすぎて壊れた”記憶を持ったまま、
異世界の公爵令嬢ルナ・ルクスとして転生したヒロイン。
生まれながらにして働く必要のない身分。
理想のスローライフが始まる――はずだった。
しかし現実は、
舞踏会、社交、芸術鑑賞、気配り、微笑み、評価、期待。
貴族社会は、想像以上の超・ブラック企業だった。
「ノブレス・オブリージュ?
それ、長時間無償労働の言い換えですわよね?」
働かないために、あえて“何もしない”を選ぶルナ。
倹約を拒み、金を回し、
孤児院さえも「未来への投資」と割り切って運営する。
やがて王都は混乱し、
なぜか彼女の領地だけが安定していく――。
称賛され、基準にされ、
善意を押し付けられ、
正義を振りかざされ、
人格まで語られる。
それでもルナは、動かない。
「期待されなくなった瞬間が、いちばん自由ですわ」
誰とも戦わず、誰も論破せず、
ただ“巻き込まれない”ことを貫いた先に待つのは、
何も起きない、静かで満たされた日常。
これは――
世界を救わない。
誰かに尽くさない。
それでも確かに幸せな、
働かない公爵令嬢の勝利の物語。
「何も起きない毎日こそ、私が選び取った結末ですわ」
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる