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1章:踊り子 アナベル

踊り子 アナベル 11-2

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 アナベルはこれから先どうなるのかわからない選択肢を迫られていることを感じて、空を見上げた。空は天気が良く、晴天が広がっていた。

「陛下の瞳の色と同じね」
「そうか?」

 ぽつりと呟くと、その声を拾ったエルヴィスも空を見上げた。ふたりで空を見上げて、それからアナベルは彼へと視線を向ける。

「……ところで、王妃と寵姫ってどんなことをするの?」

 考えてみたら、王妃のことも寵姫のことも知らない。エルヴィスは、アナベルが寵姫のことを知りたいのだと思い、少しだけ表情を明るくさせて答えた。

「王妃は……そうだな、言うなればビジネスだ。どこどこと関係を良くしたいから、とかな。そして、王妃の一番の仕事は、王の子を産むこと」
「子どもを産むのが仕事?」
「そうだ。王家の血を絶やさないことが王妃の役割だからな」

 アナベルは「……へぇ……」と言葉をこぼす。アナベルは自分のお腹を擦ってみた。子を持つことがどんなことなのか、まだわからない。

「それに対し、寵姫は『恋人』だ」
「……うん?」
「王妃とはビジネスの関係だが、寵姫は私個人の恋人だ。まぁ、勝手に連れて来られた夫人たちにとっては、地獄だったろうがな」
「夫人?」

 エルヴィスがうなずく。

「寵姫になれるのは貴族の夫人だけなんだ。中々ややこしいだろう?」
「……本当にね」
「それでも、歴代の寵姫たちは王を癒し、子を宿して産んだら、子は教会へ、寵姫は多額の金を持って別の人生を歩ませる、と言うのを繰り返してきたんだ」
「……ええと、それじゃあ、あたしが寵姫になるには、結婚しないといけないってこと?」
「……それなんだが、少し相談がある」

 真剣な表情でアナベルを見つめるエルヴィスに、アナベルは首を傾げた。

「って、ちょっと待って。あたしまだ考えるって言ったよね?」
「ああ、だから寵姫になることを選んだら、こういうことになるということを覚えていて欲しい。……私は君を、結婚させてから寵姫にするつもりはないんだ」

 その言葉に、アナベルは目を丸くした。そして、困惑するように眉を寄せる。

「そんなことが出来るの?」
「出来るんじゃない、やるんだ」
「……えええ……」

 どうやらエルヴィスは、自分がこうと決めたことは頑として叶えるらしい。意志が強いのだろう。しかし、その意志の強さにアナベルは困惑していた。

「私が自分から迎える寵姫は、君が初めてだ」
「……そうなの?」
「ああ。だから、良い返事を待っている」
「……そう」

 アナベルはそれだけ口にすると、なにかを紛らわせるかのように足を進めた。そして、仲の良い女性の元に向かうと彼女の腕に抱き着いた。

「どうしたのさ、アナベル」
「……よくわからないの。この気持ちがなんなのか」
「うん? なんだい、恋でもした?」
「……恋……なのかなぁ……?」

 旅芸人の一座の中で最年少のアナベルは、とても可愛がられていた。アナベルが相談したいことがあると言えば、みんな真剣に話を聞いてくれたし、考えてくれた。だから、アナベルは自分の感情を整理するために軽く事情をかいつまんで話した。
 予想通り、真剣に聞いてくれたことに感謝しつつ、彼女の反応を待った。
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