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2章:寵姫になるために
番外 王妃 イレイン(1)
しおりを挟む――すべては自分の天下だった。
公爵家の令嬢として生まれ、エルヴィスに出会ったのは彼が五歳、イレインが十歳の頃。
その頃にはすでに、婚約者として彼を支えるようにと両親からも言われていた。
そのうちに、国王陛下と王妃殿下が亡くなり、エルヴィスが十歳という幼さで即位することになった。それに合わせて、エルヴィスとイレインは籍を入れた。
五歳年上のイレインは、彼よりも国内のことを熟知していた。そして、エルヴィスの側近を自分の味方で固めた。
当然、エルヴィスの発言力は弱く、このまま自分の好きなように国を動かせる――そう、思っていた。
しかし、エルヴィスが十五歳になる頃には、立場が逆転していた。
「――覚醒しましたの?」
「そのようです。氷の魔法が目覚めるの、早かったですね。これで王妃殿下も少しは楽でき――きゃぁアアアっ!」
イレインはバシン、とその報告をしてきたメイドを平手打ちした。それも、顔を狙って何度も。わけがわからず泣き叫ぶメイドを冷めた目で見て、イレインはくすりと笑う。
「――すべて、私のものだったのに。ああ、イライラが止まりませんわ。――そうだ、ねえ、あなた。確か私よりも若かったですわよね。うふふ……」
イレインはナイフを取り出すと、彼女の顔にピタピタとナイフをくっつける。つぅ、と彼女の頬から血が流れるのを見て、うっとりとしたように目元を細めた。
「ねえ、ご存知? 自分よりも若い女性の血を浴びると、若返るんですって。――うふふ、ねえ、私のために、その血を下さいな」
その時のイレインの瞳は狂気じみていた。
助けを求めるメイドの声が響く。
――だが、誰も動かなかった。動けなかった。
彼女を庇えば、次に犠牲になるのは自分なのだと悟っていたからだ。
イレインは彼女の血を指で掬い取り自分の肌に塗り付ける。
メイドは恐怖と絶望でカタカタと震えていた。
「ああ、かわいそうに。でも大丈夫ですわよ。――あなたはもう、私の糧になるのですから」
にっこりと笑い、パチンと指を鳴らす。彼女の部屋に護衛の騎士が現れ、メイドの腕を引っ張り立たせると、イレインの部屋から連れ去った。その後、メイドの姿を見た者はいない。
「ねえ、絨毯が血で汚れましたわ。この絨毯を捨てて、新しい絨毯を用意してくださる?」
くるり、と別のメイドたちへ顔を向ける。
メイドたちは震えながらも、それを誤魔化すように「はい、ただちに」と笑みを浮かべてイレインの部屋から逃げるように出ていった。
イレインは鏡の前に向かうと、血に濡れた肌と別の場所を見比べて、目元を細める。
「やはりもっと若い女性の血が良いのかしら……?」
――そう呟いて、鏡の中の自分を見つめていた。
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