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2章:寵姫になるために

寵姫になるために 9-2

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 アナベルは目を瞬かせ、それから自分に優しくしてくれたミシェルのことを思い出し、ぐっと耐えるように目を閉じて何度か深呼吸を繰り返した。

「王妃はそんなに前から、そんなことをしていたの?」
「――彼女は、自分が一番ではないと気が済まないのです。国随一の美女がいると聞けば、呼び寄せてその顔を傷つけたり、自分よりも若い女性は全員的、とでも思っていたのでしょう」

 ロレーヌはアナベルを見つめた。

「――あなたのその美貌びぼうも、イレインは面白くないでしょうね」
「……ふうん、それって、あたしがこの美貌を保っていれば、イレインがちょっかいを出してくれることよねぇ?」

 アナベルは自分の頬に手を添えると、口元に弧を描く。
 その笑みは自信に満ちていた。
 ――彼女は自覚している。自身の美しさを。
 そして、その美しさは必ずイレインを動かすだろう、と。

「……本当に、肝が据わっている。頼もしい限りだ」
「だぁって、あたし、失うものはないもの。家族も、故郷もないのだから」

 そう言って笑うアナベルに、ロレーヌが目を瞬かせた。そして、「そういうことでしたか……」と呟く。

「ここに集っているのは、王妃イレインに復讐ふくしゅうしたい集まりですのね」
「……そうね、あたしの人生、彼女にぐちゃぐちゃにされたし。出来れば同じような絶望感を味合わせてあげたいわぁ」

 ――焼け落ちた実家、ひとり残さず消えた村人。
 ――自分を無理矢理連れて行った貴族。
 ――忘れるはずのない、忌々しい記憶。

「……ロレーヌさんは、ミシェルさんのために?」
「……私の子は、イレインの侍女になりました。そして、その一年後に謎の死を遂げています」
「えっ」
「……彼女は自分よりも若い女性が大嫌いのようです。王妃の侍女に抜擢ばってきされた時、娘はとても喜んでいました。それなのに……」

 見るも無残むざんな姿で発見された時に、イレインは『まだ若いのに可哀想に』と白々しく言った。
 ――そして、笑った。

わたくしのお気に入りに声を掛けられて、舞い上がるからよ』

 ――と。
 ロレーヌはその言葉を耳にした時、イレインを見上げた。イレインは冷たい目をロレーヌの娘に向けていた。
 ゾッとした。――彼女は危険だ、と本能で察した。
 自分の侍女がこんなにも無残な姿で発見されたというのに――……。

「……私は、彼女が怖い。……そして、彼女を野放しのままにするのも怖いのです。きっとまた――彼女の気分によって、痛めつけられる人が居ると思うと……」

 つらそうに眉間に皺を刻み、ロレーヌはゆっくりと息を吐く。

「ですから、陛下が魔物討伐の遠征に行く時に、王妃イレインに対抗できる人を探すと聞いて少し驚きました。こんなにも美しい女性を連れてくるとは思わなかったので……」
「うふふ、褒められるのは嬉しいわぁ。これからよろしくお願いしますね、ロレーヌさん」
「ええ、アナベル。あなたを立派な淑女レディにしてみせますわ」

 ロレーヌの目はアナベルを見つめている。アナベルもまた、彼女を見つめて不敵に笑う。
 こうして、彼女たちは手を取り合うことになり、それを見ていたエルヴィスは小さくうなずく。

「――では、これからのことを話そうか」

 そして、アナベルたちはこれからのことについて話し合う。紹介の儀までにやらなくてはいけないことを話し合った。
 それは夜遅くまで続いた――……。
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