【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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2章:同じことはしないけど

放課後デート 4話

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 あたふたとしたように、フィリベルトさまはハンカチを取り出した。

 はらはらと大粒の涙をこぼす私に近づき、ハンカチを握らせる。

 そっと涙をぬぐい、彼を見つめて「すみません」と苦笑する。でも、フィリベルトさまは緩やかに首を振り、ただただ私の片手をぎゅっと握ってくれた。

「――私、がんばっていました。ずっと、がんばっていました。自分がどんなものを好きなのかもわからないくらいに」

 ぽつり、ぽつりと言葉がこぼれていく。

 こうして誰かに弱音を吐くことなんて、どのくらいぶりかしら。

「――その結果が、これです。今朝の二人をご覧になったでしょう? 何事もなかったかのように一緒に登校して、そばにいて……」

 そんな彼らを見ても、大丈夫だと思っていた。だって、前世の記憶を思い出したんだもの。

 ――でも、やっぱりまだ、気持ちの整理はついていなかったのかもしれない。

 アレクシス殿下のことを愛していた『リディア』の気持ちを、心の奥底に沈めるにはまだ早かったのかもしれない。

「きっと、貴方が傍にいなければ、彼らの前で醜態を晒していました」

 誰かが……味方になってくれる人が傍にいた。

 それだけで、どれだけ心強かったことか――……フィリベルトさまには、感謝してもしきれないくらいよ。

「昨日、来てくださって本当にありがとうございます」

 フィリベルトさまが昨日、フローレンス邸を訪れたことで、私が今日受けたダメージはとても軽いものになっている。

「……こんなことなら、もっと前に、貴女あなたに声をかけるべきだった」
「えっ? それは、どういう――……」
「過去のことを悔やんでも、仕方ないですね。貴女の心の傷が癒されるよう、努力します」

 固い決意を宿した瞳を向けられて、ドキリと鼓動が跳ねた。

「……どうして、そんなに私のことを……」

 気にかけてくれるの? という言葉は、紡げなかった。声が震えていて、これ以上言葉をこぼしたら、みっともなく泣きわめいてしまいそうになったから。

 ハンカチを目元に押し当てて、声を押し殺して泣いているあいだ、彼は黙ってずっと傍にいてくれた。

 目立たない席で良かった。誰もこちらを気にしていない。

 深呼吸を繰り返し、なんとか落ち着きを取り戻す。一昨日、あれだけ泣いたのに……まさか今日、こんなに涙が出てくるとは思わなかった。人体って不思議。

「泣いてしまって、すみませ――」

 最後まで言い切る前に、ふに、とフィリベルトさまの人差し指が唇に触れた。

「貴女が悪いことなんて、一つもありませんよ」

 ……本当に、どうして彼は……こんなにも、私の心に沁み込む言葉をくれるのだろう。
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