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2章:同じことはしないけど
反撃は、しっかりと 2話
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「お、おい!?」
「ご安心ください。王妃陛下から許可は得ています」
この離宮のメイド長が、眼鏡をくいっと上げてアレクシス殿下に言い放つ。王妃陛下に許可を得ていると言われたら、ぐっと黙ることしかできないのよね、殿下って。
一時間くらいしたら、髪と肌、爪などがピカピカに磨かれたフローラたちが戻ってきた。全員うっとりとした恍惚の表情を浮かべていた。
マッサージを受けたのか、スッキリとした顔の人たちも多い。
「天国ぅ……」
ぽわーっとした表情のフローラに、アレクシス殿下はふっと表情を緩めた。
……天国なのは、ここまでよ。
「リディア嬢、入ってもいいかい?」
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
書斎の扉がノックされ、私は持っていた本を書斎の机の上に置いてから返事をした。
ギィ、と扉が開き、中に入ってきた人物を見て、アレクシス殿下は顔を青ざめさせ、絶句していた。ころころ表情が変わる人よね。
――中に入ってきたのは、フィリベルトさまとマダム・カステル。
彼にはマダムのエスコートを頼んでいたの。今朝お願いしたのだけど、『お任せあれ』とウインクされた。本当に頼もしいこと!
絶句しているアレクシス殿下を視界に入れたマダムの眉が、ピクリと跳ねた。
ああ、そういえば殿下はマダムが苦手なのよね。殿下ったら、そんなにわかりやすく反応すると――……
「お久しぶりですね、アレクシス殿下。顔色が優れないようですが、どうかされました?」
ほら。すぐに言葉が飛んできた。
アレクシス殿下はびくっと肩を震わせてから、こほんと咳払いをした。
「ひ、久しいな。マダム・カステル……いや、少々寝不足なだけだ」
「そうでしたか。それで、どちらの方が次期王妃候補で?」
全員を見渡して頬に手を添えるマダムに、フローラが勢いよく手を上げる。
「わ、私ですっ!」
あまりにも大きな声で、マダムが眉根を寄せた。
「そう、貴女が……躾ける必要がありそうですわね」
「え? あの……?」
キッと鋭い視線をフローラに向けて、ツカツカと近づき、扇子を取り出してダメ出しを始める。
「なんですか、そのさっき慌てて整えましたという髪も。普段、あまり肌の手入れもしていないようですね、論外です。そして先ほどの大声は上品さの欠片も感じられません。あんなに大きな声でなくとも、きちんと届きます。王妃というのは、いついかなるときもあのような声を上げてはいけません。さて、それでは八百五十七年、この国で内乱が起きました。その内乱はなんと名づけられましたか?」
「え? え? ええと……」
「答えられないのですか? 自国のことなのに?」
うわ、久しぶりに聞いたわ。マダムのマシンガントーク。
あのフローラがたじたじになっている。と、思ったら涙目でマダムを見上げた。
「いきなりそんなことを言われても、混乱しちゃいますよぉ!」
「……王妃がそれで、務まると思うのですか?」
ぴしり、と彼女たちのあいだに亀裂が走った気がする。
「ご安心ください。王妃陛下から許可は得ています」
この離宮のメイド長が、眼鏡をくいっと上げてアレクシス殿下に言い放つ。王妃陛下に許可を得ていると言われたら、ぐっと黙ることしかできないのよね、殿下って。
一時間くらいしたら、髪と肌、爪などがピカピカに磨かれたフローラたちが戻ってきた。全員うっとりとした恍惚の表情を浮かべていた。
マッサージを受けたのか、スッキリとした顔の人たちも多い。
「天国ぅ……」
ぽわーっとした表情のフローラに、アレクシス殿下はふっと表情を緩めた。
……天国なのは、ここまでよ。
「リディア嬢、入ってもいいかい?」
「お待ちしておりました。どうぞお入りください」
書斎の扉がノックされ、私は持っていた本を書斎の机の上に置いてから返事をした。
ギィ、と扉が開き、中に入ってきた人物を見て、アレクシス殿下は顔を青ざめさせ、絶句していた。ころころ表情が変わる人よね。
――中に入ってきたのは、フィリベルトさまとマダム・カステル。
彼にはマダムのエスコートを頼んでいたの。今朝お願いしたのだけど、『お任せあれ』とウインクされた。本当に頼もしいこと!
絶句しているアレクシス殿下を視界に入れたマダムの眉が、ピクリと跳ねた。
ああ、そういえば殿下はマダムが苦手なのよね。殿下ったら、そんなにわかりやすく反応すると――……
「お久しぶりですね、アレクシス殿下。顔色が優れないようですが、どうかされました?」
ほら。すぐに言葉が飛んできた。
アレクシス殿下はびくっと肩を震わせてから、こほんと咳払いをした。
「ひ、久しいな。マダム・カステル……いや、少々寝不足なだけだ」
「そうでしたか。それで、どちらの方が次期王妃候補で?」
全員を見渡して頬に手を添えるマダムに、フローラが勢いよく手を上げる。
「わ、私ですっ!」
あまりにも大きな声で、マダムが眉根を寄せた。
「そう、貴女が……躾ける必要がありそうですわね」
「え? あの……?」
キッと鋭い視線をフローラに向けて、ツカツカと近づき、扇子を取り出してダメ出しを始める。
「なんですか、そのさっき慌てて整えましたという髪も。普段、あまり肌の手入れもしていないようですね、論外です。そして先ほどの大声は上品さの欠片も感じられません。あんなに大きな声でなくとも、きちんと届きます。王妃というのは、いついかなるときもあのような声を上げてはいけません。さて、それでは八百五十七年、この国で内乱が起きました。その内乱はなんと名づけられましたか?」
「え? え? ええと……」
「答えられないのですか? 自国のことなのに?」
うわ、久しぶりに聞いたわ。マダムのマシンガントーク。
あのフローラがたじたじになっている。と、思ったら涙目でマダムを見上げた。
「いきなりそんなことを言われても、混乱しちゃいますよぉ!」
「……王妃がそれで、務まると思うのですか?」
ぴしり、と彼女たちのあいだに亀裂が走った気がする。
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