【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

ご挨拶 2話

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「それで、リディア嬢は、うちのフィリベルと婚約してくれるのかい?」

 公爵にたずねられ、きゅっと拳を握る。ゆっくりと深呼吸を一つしてから、真摯しんしな表情を浮かべた。

「私がこんなことを口にするのはおかしいかもしれませんが、どうか最後まで聞いてください。フィリベルトさまは、『期間限定の恋人』になってくださいました。私が殿下から婚約破棄すると言い渡された翌日に、です」
「期間限定?」
「はい。私は今まで……自分を抑えて生きていました。次期王妃として、恥じないように、と。でもすが、それも婚約を破棄されて抑える必要がなくなりました。フィリベルトさまは、『自分を抑えない』私を見ようとしてくださったのです」

 一度言葉を切り、まっすぐに公爵に視線を向ける。

「……それで、ですね。私としては貴族……それも、公爵家の娘でありながらも、『恋愛』をしたいと思っていまして……あ、もちろんフィリベルトさまもご存知です。それでもよいと、おっしゃってくださったのです」

 説明するのに早口になってしまったのは仕方ない。だって、恥ずかしいのだもの。

 あの日のことを思い出して顔を赤らめる私、フィリベルトさまのご両親は、「そうだったのか」とどこか納得したようにうなずく。

 どうしてそんなに優しい表情を浮かべるのかしら? と首をかしげると、公爵夫人はくすくすと笑い出してしまった。

 なぜ笑っているのかわからなくて、フィリベルトさまを見上げると、彼は照れたようにふいと視線をそらす。

「ごめんなさいね。ちょっと、フィリベルトが留学するときの言葉を思い出しちゃって」
「フィリベルトさまの、お言葉、ですか……?」
「ええ、絶対にあの国から婚約者を見つけるんだって。小さい頃に出逢った少女を探すんだって意気込んでいたのよ」

 フィリベルトさまがあの国に留学を決めたのは、そのため? でも……

「あの、本当に私が婚約者になっても、よろしいのでしょうか……?」

 きっと、その少女を探すために留学したのでしょう。それなのに、私が婚約者の座についていいのかなと不安がよぎる。

 彼のご両親はくすくすと肩を震わせて笑っている。そして、フィリベルトさまに「ちゃんと説明しなかったのかい?」と問いかけた。

「そのうち、説明するつもりでした」

 はぁ、と小さく息を吐いて、フィリベルトさまは私を見つめた。ぱちっと視線が合うと、ちょっと言いづらそうに苦笑を浮かべて肩をすくめた。目を伏せて深呼吸をし、柔らかく微笑む。

「……入学式の日が、初めてではなかったのです」
「えっ? 初対面が……ですか?」
「はい。オレが……私を探していたのは、貴女あなただったんだ。だから、言い方は悪いけれど、アレクシス殿下が婚約破棄を宣言したときに、チャンスだと思った」

 そうだったの……!?

 じっとフィリベルトさまを凝視すると、ご両親が優しい表情を浮かべていて……なんだか一気にに落ちた。

 私に好意的だった理由が。
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