【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

文字の大きさ
72 / 97
3章:竜の国 ユミルトゥス

昔話 2話

しおりを挟む
 私の言葉に、フィリベルトさまは目を丸くして、ふっと表情をやわらげた。

 彼はそっと手を伸ばして私の髪に触れ、そのまま唇を落とす。

「ふぃ、フィリベルトさま?」
「伝え続けていて良かった」

 え? と聞き返してしまった。

 でも、すぐに彼の言葉が理解できて、ふふっと笑い声をこぼす。

「ええ。貴方あなたの愛情が、私を素直にさせてくれたのです」

 自分の胸に手を置いて、目を伏せる。

 期間限定の恋人だったときから、彼は真摯しんしに向き合ってくれた。

 そのことがとても嬉しく、本当にありがたかった。

 婚約破棄をされた私に、プロポーズをしてきたときは、びっくりしちゃったけど……

 こんな私でも望んでくれる人がいると知って、ホッと安堵もできた。

 公爵家の令嬢とはいえ、婚約を破棄された令嬢はいろいろな目で見られるし……

 特に、『リディア』はフローラをいじめていたという捏造もされていたしね。

 だから、一日休んでから学園に投稿するとき、フィリベルトさまが一緒で心強かった。

「ところで、フィリベルトさまと幼い頃に会っている……のですよね? 私、そのときの記憶が思い出せなくて……」

 頬に手を添えて残念そうに苦笑を浮かべる私に、彼は「ああ……」と懐かしむように目を細めた。

「懐かしいな」
「竜を怖がっていたのですよね、私」

 肯定するように首を縦に動くフィリベルトさま。

 前世の記憶を取り戻した私は、竜のことは怖くない……

 いえ、怖くないといえば嘘になるかもしれないけれど、想像上の生き物だった竜をこの目に映して興奮してしまった。

 ムーンも、他の竜たちも、想像以上の生き物だった。人懐っこい竜にして会っていないから、怖さよりも好奇心のほうが勝ってしまった……と思うのよね。

「まぁ、実際子どもの頃、竜を見たら怖いと思うよ。オレも最初に会ったときは怖かったし」

 肩をすくめるフィリベルトさま。意外に感じて目を瞬かせてしまった。

 フィリベルトさまでも怖いと思うことがあったの? と。

 私の考えを読んだように、彼は私の髪から手を離し、寄りかかるようにこつんと側頭部をくっつけた。

「ムーンはずっとあの大きさだったからな。父上に紹介されたとき、母上の後ろから離れなかったと何度もからかわれた」
「まぁ、フィリベルトさまに、そんな時代が……」
「幻滅したかい?」
「いいえ。可愛らしい話だと思います」

 そう思ったのは、本当。

 私の知っているフィリベルトさまは、いつも格好良くてスマートな方だから……こういうエピソードをもっと知りたい、なんて……ワガママかしら?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

【完結】知らないですか、仏の顔も三度まででしてよ?

詩河とんぼ
恋愛
 侯爵令嬢のレイラ・ローニャは、筆頭公爵家子息のブラント・ガルシアと婚約を結んだ関係で仲も良好であった。しかし、二人が学園に入学して一年たったころ突如としてその関係は終わりを告げる。  ティアラ・ナルフィン男爵令嬢はブラントだけでなく沢山の生徒•教師を味方にし、まるで学園の女王様のようになっていた。  レイラはそれを第二王子のルシウス・ハインリッヒと一緒に解決しようと試みる。    沢山のお気に入り登録、ありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡  小説家になろう様でも投稿させていただいております。

処理中です...