【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

昔話 3話

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「――……?」

 ふと、なにかが脳裏をよぎった。

『だいじょうぶ、この竜はだいじょうぶだよ』

 そして、誰かの声が響く。

 ……これはいったい……?

 目を閉じて、フィリベルトさまに寄りかかると、「リディア?」と柔らかく名前を呼ばれる。

 なにかが崩れるような音がして――鮮明に、過去の記憶がよみがえった。

 そう、そうよ。

 幼い頃、私とフィリベルトさま、ムーンは出逢ったことがある。

 お母さまが亡くなって、塞ぎ込んだ私たちの気分転換をさせようと国境近くまでいって、そこで初めて見る竜に怯えて、泣いてしまって――……

 ムーンに乗っていたフィリベルトさまが、声をかけてくれたんだわ……

 ――どうして、こんなに強烈な記憶を忘れてしまっていたのだろう。

『わぁ、きみ、すごくきれいな人だね』
『あ、りがとう……?』
『こんなにきれいな女の子、はじめて見た!』

 黒曜石のような瞳をキラキラと輝かせて、私を褒めてくれた男の子――それがフィリベルトさまだった。

 男の子に『きれいな女の子』と褒められたのは初めてだったから、とても嬉しかったのよね。

 ムーンがにゅっと顔を近づけてきたので、怖くて後退りして転びそうになったところを、彼が支えてくれた。

 これが私たちの……最初の出逢い?

「フィリベルトさま……私、幼い頃、貴方あなたに支えてもらったことが、ありますよね?」
「ん? ああ。転びそうになったきみを支えたことがある……リディア、記憶が?」

 目を開けて、鏡越しにフィリベルトさまを見つめて問いかけると、彼は肯定のうなずきをしてから目を大きく見開いた。

「……そう、みたいです。ふふ、初対面の男の子に、『きれいな人』って褒められて嬉しかったのに、どうして忘れていたんだろう……」

 思い出した過去を堪能するように目を細めて、口元に手を添えてくすくすと笑う。

 鏡越しに、フィリベルトさまの顔が真っ赤に染まっていることが確認できて、なぜか愛らしく思えた。

 格好いいところも、可愛らしいところも愛らしく思えるということは……それだけ私が、彼のことを好きになった……ということよね。

「いや、その、本当にそう思ったんだ。きみの周りがキラキラしているようにも見えて、きれいだなって。――それからだよ、きみが誰なのか探し始めたのは」

 真っ赤に染まった顔を隠すように、手でおおうフィリベルトさま。

 ぽつぽつと、出逢ったあとのことを教えてくれた。

「両親に話して、絶対に見つけだすから、婚約者の話はしないでほしいとお願いして、国中を探したのだけど……この国にはいなくて。なんせ、金髪とエメラルドグリーンの瞳という特徴だけで探していたからね」

 それは……探し出すのは困難だったろう。私のような容姿の人は、貴族には多いもの。

 フィリベルトさまが人を探していることを、スターリング領の人たちは知っていたし、国中に伝わっているという話も、この耳でしっかりと聞いた。

「その後、公務で国境を渡った父上が、金髪でエメラルドグリーンの瞳の少女がいたと教えてくれて、留学を決めたんだ」
「……私を、探すために……?」

 こくり、と首を縦に動かすのを見て、目を丸くする。

 ……すごい行動力だわ、と感嘆かんたんの息を吐いた。
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