【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

文字の大きさ
77 / 97
3章:竜の国 ユミルトゥス

行きたい場所 2話

しおりを挟む
 その探究心は大事なことだと思う。

 食欲は三大欲求の一つなのだし、お腹が満たされると気持ちも落ち着くしね。

「それじゃあ、いこうか」
「はい」

 すっと手を差し出すフィリベルトさま。

 その手を取って立ち上がると、周りからキャァ、と黄色い声が聞こえた。

 フィリベルトさまってやっぱり、目立つみたい。

「お幸せに、フィリベルトさまー、リディアさまー」

 後ろから祝福の言葉をかけられて、私の名前も呼ばれてびっくりしちゃった。

 いつの間に、私の名前、広がったんだろう。

「ありがとう、必ず幸せになるよ」

 フィリベルトさまがひらりと片手を振って、その声に応える。

 店内はいろんな歓声で震えるようだった。

「……なんというか、うちの領民が盛り上がっていて申し訳ない」
「それだけ慕われているということですわ」

 慕われているのはいいことだと思う。

 フィリベルトさまと領民たちがこんなふうに打ち解け合っているのを見ると、国の違いを感じるわね。

 公爵家という、高い身分のもとに生まれた私たち。

 貴族としての在り方はいろいろとあるだろうけど、こうして領民たちと気軽に接しているところをみると、スターリング家では、貴族と平民の差があまりないような気がする。

 ……ううん、もちろん、住んでいる場所は違う。

 ただ、平民のことを大事にしていることが、ひしひしと肌で感じられるの。

 領民と話すときも、立ち止まって彼らの目を見ながら真剣に聞いている。

 きっと、ずっとこんなふうに接してきたんだろうなと思い、私にもできるかしら? と考えちゃった。

 とはいえ、前世の私は庶民だったから、もしかしたらうまくできるかも?

「慕われている、か。そうだといいな」

 しみじみとつぶやくフィリベルトさまに、「絶対にそうですわ」と柔らかく寄り添うと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

「ところで、いきたい場所とは……?」
「ついてからのお楽しみ」

 ……まだ話すつもりはないみたい。

 ゆっくりとした歩調で目的地まで向かう途中、何度も声をかけられた。

 領民たちは本当にフィリベルトさまのことを慕っているのだと感じて、なぜか私まで嬉しくなる。

 フィリベルトさまは領民たちと話しているあいだ、たまに窺うようにこちらを見た。

 待たせてすまない、と視線で謝っているような気がして、繋いだ手をぎゅっと強く握る。

 私のことはいいので、領民たちと話してください、という気持ちを込めて。

 領民たちは私にも話題を振ってくれ、疎外感を感じることはなかった。

 むしろ、昔のフィリベルトさまの話を教えてくれて、もうちょっと聞きたいくらいだったのだけど……

「すまない、今度また、話をしよう」

 と、切り上げてしまった。

「デートのお邪魔をしてすみません。楽しんでくださいねー!」
「あ、ありがとうございます」

 領民たちに話しかけられるたびに立ち止まり、また歩き出す……を繰り返して、ようやく目的地についたときには、すっかり夕方になっていた。

「――ここは」
「きみに見せたかったんだ、この時計塔」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

処理中です...