【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

時計塔でプロポーズ 1話

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 フィリベルトさまが白い歯を見せた。

 時計塔には多くの人が集まっていて、観光スポットなのかも? と考える。

「中にも入れるんだ。ちょうどきれいに見渡せると思うよ」

 じっと時計塔を眺めていると、展望台があるようだ。外の景色を楽しんでいる人たちの姿が確認できた。

「見てみたいですわ」
「そうこなくっちゃ」

 パァッと表情を明るくするフィリベルトさま。

 とても嬉しそうで不思議に思っていると、手を引かれて時計塔の中に入り、階段前まで一度立ち止まる。

「この階段を上るけど、大丈夫?」
「なかなか長そうな階段ですわね……」

 らせん階段を見上げると、なかなか先が見えない。

 いったい何段くらいあるのだろう、と考えていると、フィリベルトさまが私の顔を覗き込んできた。

「オレが抱き上げていこうか?」
「い、いえっ! 体力には自信がありますわ!」

 それは、本当。

 王妃教育の一環としてダンスレッスンもあった。

 ダンスレッスンは体力勝負のところもあったから、いつの間にか体力がついたのよね。

「では、いこうか」

 くすっと軽く微笑みを浮かべて、フィリベルトさまが歩き出す。

 一歩一歩、着実に進んでいけば大丈夫……よね、きっと。

 一定のペースを崩さずに階段を上る。

 フィリベルトさまは私のペースに合わせてくれているみたい。

 おそらく、彼一人ならスタスタと階段を上りきるでしょう。

 何段あるかまでは数えていなかったけれど、相当長い階段だ。

 ようやく上りきった頃には、ちょっと息が上がってしまっていた。

「ここからの景色が、とても綺麗なんだ」

 扉を開き、外に出るようにうながすフィリベルトさま。

 扉の外に出ると――……ふわり、と優しい風が頬を撫でた。

 ――その日の光景を、きっと私は一生忘れない。

 夕映えの景色はあまりにも美しくて――……言葉が出てこない。

 日中と夜は、竜に乗ってその景色を眺めることができた。

 でも、この夕暮れ時の景色は初めて。

 空の色、雲の色、夕焼けに照らされる街並み。

 そのすべてが、とてもきれいなオレンジ色に染まっていた。

「気に入ってくれたかな?」
「はい……とても、とてもきれいですわ……」

 声が、震えた。

 こんなにきれいな光景を私に見せようとしてくれたんだ、と思うと、なぜか胸がきゅっとした。

 きれいな景色を共有してくれたことへの嬉しさと、彼がこの景色を見ていたとき、なにを思っていたのだろうという切なさが混ざり合う。

 この時計塔の上から、私のことを想ってくれていたのかな、なんて……

「絶対に、案内しようと思っていたんだ」

 すっとフィリベルトさまが、私に向かってひざまずく。

 そして、小さな箱を取り出した。

 ……これは、もしかして……?

 カーン、カーン、とお昼に耳にした重厚な音とは違う、高い鐘の音が鳴った。

「どうか、この指輪を受け取ってほしい」

 小箱を開けて、中身を見せる。

 きらりと輝くダイヤモンドの指輪。

 いつの間に、指輪を用意していたのだろう?

 今日、渡そうと持ち歩いていたのかな?

 ……本当に、私が受け取ってもいいのかな?

 いろいろな考えが、頭を巡った。

 でも――断る理由なんて、ないわ。

「リディアのことが好きだから、これから先の貴女あなたの人生をもらいたい。……ダメ、だろうか?」

 彼の瞳はとても真剣で、少し不安そうに揺れていた。
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