【完結】婚約破棄された悪役令嬢は、一途な愛を注ぎこまれています。

秋月一花

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3章:竜の国 ユミルトゥス

時計塔でプロポーズ 2話

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「――ありがとうございます、フィリベルトさま」

 喉が震えて、ようやく、言葉にできた。

 フィリベルトさまが、私のことをこんなにも想ってくれる。

 それだけで、私の心は満たされるの。

「末永く、よろしくお願いいたします」

 目の前が、にじんだ。声も震えている。

 怖くて震えているわけではないけれど、感情が昂ってしまう。

 学園のパーティーで婚約破棄をされて、フィリベルトさまに求婚されて、フローラと決着をつけて……今までの、いろいろなことが浮かんでは消えていく。

 その記憶のすべてに、フィリベルトさまがいたことに気づいて、ずっと支えられていたのだと改めて実感した。

「こちらこそ」

 フィリベルトさまは私を見上げたまま、心底嬉しそうに微笑む。

 指輪を取り出し、そっと右手の薬指に通してくれた。

 ……きっと私、今、世界中の誰よりも幸せそうな顔をしているわ。

「抱きしめてもいいかい?」
「もちろんです」

 立ち上がり、ぎゅっと私を抱きしめるフィリベルトさま。

 ――愛しい気持ちが溢れてくる。こんな気持ちを、初めて知ったわ。

 少しだけ離れて、自然と顔が近づいていく。

 目を閉じると、すぐに唇が重なった。

 私、今日のことを絶対に忘れない。この記憶を胸に刻み込んで、大事にしよう。

 愛しい人の腕の中で、そう思った。

 少しのあいだそうしていたけれど、風が冷たくなってきたので、塔から降りることになった。

 フィリベルトさまはひょいと私を抱き上げ、そのまま軽快な足取りで階段を下りていく。

「お、重いでしょう?」
「全然。軽いよ」

 爽やかな笑顔を浮かべるフィリベルトさまに、心臓が高鳴った。

 時計塔から戻ると、ローレンとチェルシーが私たちに駆け寄ってくる。

 彼女たちの後ろには、ジェレミーとデリックの姿もあり、荷物を抱えていた。

「あら、お嬢さま、その指輪……!」

 右手の薬指にはめられた指輪に気づいたローレンが、目を大きく見開いて、私たちを交互に眺める。

「婚約指輪ですか?」

 チェルシーの嬉々とした顔に、こくんとうなずく。

 彼女たちは言葉をんで、すっとカーテシーをした。

「おめでとうございます。リディアお嬢さま、フィリベルトさま」
「お二人の幸せを、祈っております」

 二人の言葉に、胸の奥がじんと温かくなる。

 私の……私たちのことを、心から祝福してくれた彼女たちに、目頭が熱くなった。

「ありがとう。必ずリディアを幸せにするよ」
「その言葉、信じておりますわ」

 ローレンがまっすぐにフィリベルトさまを見つめて、にっこりと微笑む。

 私の幸せのことを願ってくれる。

 ――私のことを理解して、支えてくれている彼女たちに、感謝の気持ちを伝えるにはどうしたらいいのだろう?
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