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3章:竜の国 ユミルトゥス
エステルさまの気持ち 2話
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心の底に沈んでいた、『お母さま』の記憶。
幼い頃に亡くなったけれど、最期まで私たちのことを気にかけてくれていた。
「……あ……」
ぽろり、と大粒の涙が流れる。それを皮切りに、どんどんと涙が溢れて、自分でもどうしてこんなに泣いているのかわからない。
エステルさまは、ぎゅっと私のことを抱きしめて、ぽんぽんと優しく背中を撫でてくれた。
「ずっとずっと、気を張って生きていたのよね。もう、肩の力を抜いて大丈夫よ」
あまりにも優しくて、甘やかな言葉に、きゅっと唇を噛み締める。
お母さまが亡くなってから、アレクシス殿下の婚約者になって、王妃教育が始まった。
お父さまやお兄さまと過ごす時間が減ったけれど、立派な淑女になるためにがんばっていた。
がんばることが、普通だと思っていたの。
ずっと、ずっと……がんばっていた結果が婚約破棄なんだもの。笑えちゃう。
今はもう、アレクシス殿下に未練はないけれど……ただ、私のがんばりが無になってしまったことは、ちくりと心に痛い。
「リディアちゃん。これからは、自分の好きなことをしてね。私も、アーノルドも、ちゃんと支えるから……この国で今までできなかったことをたくさんしましょうね」
王妃教育に明け暮れてばかりいた、サクリアナ王国。
留学することを決めた、ユミルトゥス王国。
夏季休暇中だから、まだ学園には行っていない。
どんな学園生活になるのか、正直に言えばまったく想像ができないのよね。
お友だちはできるかしら、きちんとこちらの文化に馴染めるかしら……不安に思うことは多いけれど、それ以上に、彼の……フィリベルトさまの傍にいたかった。
エステルさまに抱きしめられて、優しい言葉をいただいたことで、幼い頃の私が救われた気がする。
「そのネックレス素敵ね」
そっとエステルさまが私から離れて、ネックレスに視線を下げた。
――今日も、お母さまの形見のネックレスを身につけていた。お父さまから頼まれたことでもあるし、このネックレスを通してお母さまを感じられるような気がしたから。
そのことを話すと、エステルさまは目を大きく見開いて、すぐに笑顔を浮かべた。
「……リディアちゃんのことは、ちゃんとスターリング家が支えます。安心してくださいね」
まるで、そこにお母さまがいるかのように、エステルさまが自身の胸元に手を添えて頭を下げる。
――ああ、エステルさまは、私の家族を大事にしてくださる方なのね――……
「……ありがとう、ございます。エステルさま」
喉が、震えた。込み上がってきた嗚咽を堪えて、なんとか感謝の気持ちを伝えると、エステルさまはもう一度、私のことを抱きしめてくれた。
「今度、家族みんなでパーティーをしましょうね。リディアちゃんのご家族とも、ちゃんと挨拶したいもの」
優しい言葉が、心の中に沁み込んでいく。
――きっと、私たちは私たちらしい『家族』になれる。
そう、心の中の燈火が、灯った日だった。
幼い頃に亡くなったけれど、最期まで私たちのことを気にかけてくれていた。
「……あ……」
ぽろり、と大粒の涙が流れる。それを皮切りに、どんどんと涙が溢れて、自分でもどうしてこんなに泣いているのかわからない。
エステルさまは、ぎゅっと私のことを抱きしめて、ぽんぽんと優しく背中を撫でてくれた。
「ずっとずっと、気を張って生きていたのよね。もう、肩の力を抜いて大丈夫よ」
あまりにも優しくて、甘やかな言葉に、きゅっと唇を噛み締める。
お母さまが亡くなってから、アレクシス殿下の婚約者になって、王妃教育が始まった。
お父さまやお兄さまと過ごす時間が減ったけれど、立派な淑女になるためにがんばっていた。
がんばることが、普通だと思っていたの。
ずっと、ずっと……がんばっていた結果が婚約破棄なんだもの。笑えちゃう。
今はもう、アレクシス殿下に未練はないけれど……ただ、私のがんばりが無になってしまったことは、ちくりと心に痛い。
「リディアちゃん。これからは、自分の好きなことをしてね。私も、アーノルドも、ちゃんと支えるから……この国で今までできなかったことをたくさんしましょうね」
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夏季休暇中だから、まだ学園には行っていない。
どんな学園生活になるのか、正直に言えばまったく想像ができないのよね。
お友だちはできるかしら、きちんとこちらの文化に馴染めるかしら……不安に思うことは多いけれど、それ以上に、彼の……フィリベルトさまの傍にいたかった。
エステルさまに抱きしめられて、優しい言葉をいただいたことで、幼い頃の私が救われた気がする。
「そのネックレス素敵ね」
そっとエステルさまが私から離れて、ネックレスに視線を下げた。
――今日も、お母さまの形見のネックレスを身につけていた。お父さまから頼まれたことでもあるし、このネックレスを通してお母さまを感じられるような気がしたから。
そのことを話すと、エステルさまは目を大きく見開いて、すぐに笑顔を浮かべた。
「……リディアちゃんのことは、ちゃんとスターリング家が支えます。安心してくださいね」
まるで、そこにお母さまがいるかのように、エステルさまが自身の胸元に手を添えて頭を下げる。
――ああ、エステルさまは、私の家族を大事にしてくださる方なのね――……
「……ありがとう、ございます。エステルさま」
喉が、震えた。込み上がってきた嗚咽を堪えて、なんとか感謝の気持ちを伝えると、エステルさまはもう一度、私のことを抱きしめてくれた。
「今度、家族みんなでパーティーをしましょうね。リディアちゃんのご家族とも、ちゃんと挨拶したいもの」
優しい言葉が、心の中に沁み込んでいく。
――きっと、私たちは私たちらしい『家族』になれる。
そう、心の中の燈火が、灯った日だった。
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