9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

文字の大きさ
75 / 81
さいしゅうしょう!

しおりを挟む
 とまあ非常に乙女な展開になりかけたのだが、疲れていたのと泣きすぎたのでアリーは寝落ちしたらしい。朝になったらマクシミリアンはいなかった。「中央に行ってきます」という置手紙と、まぶたがパンパンに腫れあがった小汚い女だけが残された。大変悔しい。

『ほらほらアリー、腰が引けてますよ! ぼーっとしないで受け止めるっ!』

 前方から怒声が飛んできて、アリーは慌てて我に返った。朝っぱらから黒点アベルに『なんか出そう』と裏山に呼び出され、アリーは今スポーツ根性系絵物語も真っ青な特訓をしている。

「怖いよっ! ていうか早すぎるよ、もうちょっと手加減してよっ!!」

『そんな微調整まで期待しないでくださいよこっちだって必死なんだからっ! はいもう1回っ!!』

「いやあああああっ!」

 アベルが投げてきた黒い球を、瀕死の形相でアリーは受け止めた。つもりになったが、受け止めきれずに手の中からすっぽ抜けた。
 巻き込まれて球の直撃を受けた樹木がびりびりと震えて、なぜか木肌に目と口が浮かび上がる。人面樹から「フハハハハ」と謎の笑い声が上がり、しばらくののちしっとりと輝きだした。回復魔法ってこんなんだっけ、という疑問しか湧かない。

『もういっちょいきますよ、ほらアリーの魔力を投げて!』

「はいっ!」

『よーし出でよ闇治癒っ!』

 アリーが魔力を放つ。アベルがそれを秒速で打ち返す。魔王もまだコントロールが上手くいかないらしく、わけのわからない方向に飛んでいく黒い球にアリーは三角飛び蹴りの要領で追いつき、みぞおちの激痛に耐えながら今度こそ受け止めきった。
 とにかく顔色が悪いマディロールが『よしっ!』と力強くうなずく。

『いい感じだ、次はそれを聖女っぽく分け与えてみろっ!』

 無茶言うなと怒鳴り返したかったが、アリーは黙って手の中でぎゅるぎゅる回転している黒い球に意識を集中した。
 聖女ミアが心の疲労で回復魔法が使えない、と軽いジャブを入れてきて中央を翻弄している現状を打破するには、彼女よりも優れた存在がいることを示さなければ駄目なのだ。
 微妙にハゲてきている国王、小皺が増えてきた王妃はミアのわがまま放題を許している。そして1日ごとに焦れてくるだろう。こちらも特殊な回復魔法が使えるとなれば、あからさまに媚びてくることは間違いない。
 呆れるほど愚かな国王夫妻にどう接すればいいのか、もし自分がマクシミリアンの立場でも思い悩むだろう。それでも彼自身が、実の両親を排除する方向に動くだろうと推測される。実際帰りが遅くなったのはミアのご機嫌取りをしつつも、裏でいろいろ動き回ってたかららしいし。
 王太子として正しい、あるべき姿を体現しようとするマクシミリアンからは、上に立つ者の力を強く感じる。ラドフェン公爵と協力してしっかり国を導いていけるに違いない。

<とりあえず目先の目標は、聖女ミアと国王夫妻の切り離し……っ! そして国王派をこっちに取り込む!!>

 手の中の黒い球が回転を止め、アリーの体内にすうっと吸い込まれていく。

<めっちゃくちゃ痛いいいいぃぃっ! 回復魔法のはずなのに辛いし苦しいしいいいいっ!!>

 アリーの全身が限界だと悲鳴を上げている。まったく洗練されていない粗削りな魔王の回復魔法は、使役者に相当な苦労を強いるものらしい。そういうところは闇っぽいな、などと思うが、もうちょっとふわっと出てさらっと使えるものであってほしかった。
 指先が自分のものじゃないみたいにぷるぷる震える。光と闇が袂を分かってウン千年、裏街道を突っ走ってきた魔族の魔力はやっぱり攻撃的だった。

「に、鈍色に輝く闇の癒しよ、我が命令に従い、この世のすべてを癒したまええええっ!」

 頭のてっぺんから脇の下から、それこそ全身から汗が噴き出すのを感じながら、アリーは手のひらをそこら辺の岩に向けた。ぽんっと黒い光が飛び出して、薄汚れた岩がツルツルピカピカの岩になった。ついでに目と口も出てきた。

『よーっし第一関門突破っ! でもまだ回復力が足りないし方向性もおかしい! アベルは引き続き筋肉トレーニング、アリーは見るに堪えないから水の精霊召喚っ!』

 胸の前で腕を組んだマディロールが言い放つ。遠回しに汗臭いと言われて大変傷ついたが、アリーは言い返す気力がなくてへなへなと崩れ落ちた。
 遠巻きに見ていたらしい見知らぬ精霊たちがわらわらと寄ってきて、勝手にアリーを綺麗にしてくれた。めちゃくちゃ優しいし癒される。
 目の前では監督と選手、じゃないマディロールとアベルが腹筋しながら打ち合わせに入っていた。猛スピードで鍛えられているっぽいのに、見た目にあんまり変化がないっぽい。もしかして闇の使徒とか光の天使は、インナーマッスルだけが鍛えられるんだろうか。

『ご主人、あとひと頑張りだ。我は日増しに鍛えられるご主人の筋肉が、とても美しいと思うぞ』

「たっくんってば優しい……」

 こんな特訓をあと何日か続けていたら、鍛えられすぎて体積が聖女ミアの2倍くらいになりそうな気がする。乙女としてはさすがに辛いが、この世界に降りかかった災難を打ち砕くためには、それくらいの覚悟は必要なのかもしれなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...