76 / 81
さいしゅうしょう!
5
しおりを挟む
聖女ミアが欲望のままに、善悪の判断とか抜きで素直に行動しているのは、この世界が彼女のために用意された夢の箱庭だから。
逆に言えば、ミアだって帰りたくても帰れない、逃げたくても逃げられない状況なのではなかろうか。聖女というよりはむしろ腫れもののような扱いをされている現状は四面楚歌にもほどがあるし、ちょっとどころではなく不安になっていると思われる。
<だから、普通なら絶対到達できない高さまで願いを届けなきゃ。いや別に聖女ミアが可哀そうとかじゃなくて、心ある天使がいるならさっさと回収してもらいたい>
というわけで、アリーはついに闇治癒魔法を習得した。
絶対ひとりでは続かなさそうだった特訓だったが、一緒に鍛えてくれる仲間たちがいたから乗り越えられた。
アベルとマディロール、たっくん、途中からは4人の親友たちが裏山に応援に来てくれたし、西翼に帰ればスティラとジャンに癒され、夜になればマクシミリアンとちょこっとだけいちゃいちゃする。
体力面では問題なくても、精神的疲労が尋常ではないらしい彼を一刻も早く救いたい。回復魔法が日ごと夜ごとに進化するのに反比例して、アリーの視力は悪化の一途をたどっているらしく、心臓が破裂するんじゃないかと思うほど覇王がカッコよく見えるようになったから困る。
お互いに恋愛沙汰に不慣れなせいで、甘い雰囲気はほぼ毎回横道にそれるのでがっかりすることの方が多いけど。
それでも「アリーの手からは何かが出ているな」とマクシミリアンが気づいてくれた時は嬉しかった。
何をどうしたらそんな珍妙なことになるんだ、と当初は頭を抱えた闇治癒魔法は、キラキラと光をまき散らすようなものではなく、ねっとりしていてどす黒い。でも、ちゃんと誰かの希望となれるだけの力を得た。
《アリー、そろそろ話していいですよ。回復魔法は光のクソの専売特許じゃないって》
《数日前まで専売特許だったし、闇治癒はアリー以外には使えないから実質未だに専売特許だが》
《たっくん、それは言わないお約束です》
マクシミリアンとのイチャコラは、アベルとたっくんの脳内音声が大いに冷やかすせいで毎回ちょっとした地獄だ。なんというか、ひたすらこっ恥ずかしい。マクシミリアンはそれを「娘らしい恥じらい」に変換しているので、結果オーライではあるが。
「……あの、殿下。わたし、治癒魔法が使えるようになりました。といっても闇属性で、しかも力がほとばしっちゃって微調整が難しいんですけど」
普段は使わないような筋肉まで使って、白目をむきながら習得したということは秘密にすることにした。あの酷い有様を思い出すと、アリーの中の乙女的な部分が悶絶するから。
結婚前の男女だからとバッチリ同席している精霊たちが揃って目を見開く。
理解が追いついていない顔つきだったマクシミリアンは、しばらく沈黙した後やっと脳まで到達したらしく「そうか」と花のように笑った。「本当か?」と聞いてこないあたり、信頼されてるなあと思う。
「何の武器もなく聖女をしとめるにはどうしたらいいか、ずっと頭を悩ませていた。ありがとうアリー、君は救国の女神だ」
マクシミリアンは椅子から立ち上がってひざまずき、ガッとアリーの手を取った。「しとめる」という単語が不穏すぎるが、そこはツッコまないことにする。
ひたすら国を救うためだけに突っ走っている王太子には、援護射撃が必要だ。聖女ミアを取り込めと両親が勝手に色めき立っているなか、聖女排除後を見据えて粛々と淡々とやるべきことをこなしている。その理性には惚れざるを得ない。
「治癒魔法を人質にとるような聖女を、これ以上のさばらせておくわけにはいかない。王太子として、物理的にひねりつぶす方法を模索していたが、正直五里霧中だった。情けない限りだ」
王太子というには筋骨隆々過ぎる巨体のマクシミリアンが、物騒極まりないことを言う。いやひねりつぶすって、つぶすって、と思ったが、多分スプラッタな方向性で言ってるんじゃないだろう。見た目のわりに超絶理性的だし。
「闇の使徒が与えてくれた奇跡の力は、強すぎてそう何回も使えません。だから使いどころが重要で、できるだけ多くの人が集まった場が望ましいんですが」
「それに関しては問題ないだろう。聖女ミアから、大舞踏会の仕切り直しを求められている」
そうかあ、とアリーはちょっと遠い目になった。やっぱりあの大舞踏会、聖女ミア的には屈辱極まりなかったらしい。
《おい、闇の聖女。王太子にも光の天使が見えるようにしてやるから、聖女ミアにこきつかわれて血尿出してる仲間と上司に、俺からの伝言を伝えるように言ってくれ。天使は基本臆病だけど、こっちの現状を知れば飛び出す勇気が持てるはずだから》
天使にしてはかなりアバンギャルドなマディロールの声がする。決戦は二度目の大舞踏会、と腹の底で思いながら、アリーは耳打ちほどの距離間でマクシミリアンに言葉を伝えることにした。別に離れててもよかったが、単にイチャイチャしたいだけだった。
逆に言えば、ミアだって帰りたくても帰れない、逃げたくても逃げられない状況なのではなかろうか。聖女というよりはむしろ腫れもののような扱いをされている現状は四面楚歌にもほどがあるし、ちょっとどころではなく不安になっていると思われる。
<だから、普通なら絶対到達できない高さまで願いを届けなきゃ。いや別に聖女ミアが可哀そうとかじゃなくて、心ある天使がいるならさっさと回収してもらいたい>
というわけで、アリーはついに闇治癒魔法を習得した。
絶対ひとりでは続かなさそうだった特訓だったが、一緒に鍛えてくれる仲間たちがいたから乗り越えられた。
アベルとマディロール、たっくん、途中からは4人の親友たちが裏山に応援に来てくれたし、西翼に帰ればスティラとジャンに癒され、夜になればマクシミリアンとちょこっとだけいちゃいちゃする。
体力面では問題なくても、精神的疲労が尋常ではないらしい彼を一刻も早く救いたい。回復魔法が日ごと夜ごとに進化するのに反比例して、アリーの視力は悪化の一途をたどっているらしく、心臓が破裂するんじゃないかと思うほど覇王がカッコよく見えるようになったから困る。
お互いに恋愛沙汰に不慣れなせいで、甘い雰囲気はほぼ毎回横道にそれるのでがっかりすることの方が多いけど。
それでも「アリーの手からは何かが出ているな」とマクシミリアンが気づいてくれた時は嬉しかった。
何をどうしたらそんな珍妙なことになるんだ、と当初は頭を抱えた闇治癒魔法は、キラキラと光をまき散らすようなものではなく、ねっとりしていてどす黒い。でも、ちゃんと誰かの希望となれるだけの力を得た。
《アリー、そろそろ話していいですよ。回復魔法は光のクソの専売特許じゃないって》
《数日前まで専売特許だったし、闇治癒はアリー以外には使えないから実質未だに専売特許だが》
《たっくん、それは言わないお約束です》
マクシミリアンとのイチャコラは、アベルとたっくんの脳内音声が大いに冷やかすせいで毎回ちょっとした地獄だ。なんというか、ひたすらこっ恥ずかしい。マクシミリアンはそれを「娘らしい恥じらい」に変換しているので、結果オーライではあるが。
「……あの、殿下。わたし、治癒魔法が使えるようになりました。といっても闇属性で、しかも力がほとばしっちゃって微調整が難しいんですけど」
普段は使わないような筋肉まで使って、白目をむきながら習得したということは秘密にすることにした。あの酷い有様を思い出すと、アリーの中の乙女的な部分が悶絶するから。
結婚前の男女だからとバッチリ同席している精霊たちが揃って目を見開く。
理解が追いついていない顔つきだったマクシミリアンは、しばらく沈黙した後やっと脳まで到達したらしく「そうか」と花のように笑った。「本当か?」と聞いてこないあたり、信頼されてるなあと思う。
「何の武器もなく聖女をしとめるにはどうしたらいいか、ずっと頭を悩ませていた。ありがとうアリー、君は救国の女神だ」
マクシミリアンは椅子から立ち上がってひざまずき、ガッとアリーの手を取った。「しとめる」という単語が不穏すぎるが、そこはツッコまないことにする。
ひたすら国を救うためだけに突っ走っている王太子には、援護射撃が必要だ。聖女ミアを取り込めと両親が勝手に色めき立っているなか、聖女排除後を見据えて粛々と淡々とやるべきことをこなしている。その理性には惚れざるを得ない。
「治癒魔法を人質にとるような聖女を、これ以上のさばらせておくわけにはいかない。王太子として、物理的にひねりつぶす方法を模索していたが、正直五里霧中だった。情けない限りだ」
王太子というには筋骨隆々過ぎる巨体のマクシミリアンが、物騒極まりないことを言う。いやひねりつぶすって、つぶすって、と思ったが、多分スプラッタな方向性で言ってるんじゃないだろう。見た目のわりに超絶理性的だし。
「闇の使徒が与えてくれた奇跡の力は、強すぎてそう何回も使えません。だから使いどころが重要で、できるだけ多くの人が集まった場が望ましいんですが」
「それに関しては問題ないだろう。聖女ミアから、大舞踏会の仕切り直しを求められている」
そうかあ、とアリーはちょっと遠い目になった。やっぱりあの大舞踏会、聖女ミア的には屈辱極まりなかったらしい。
《おい、闇の聖女。王太子にも光の天使が見えるようにしてやるから、聖女ミアにこきつかわれて血尿出してる仲間と上司に、俺からの伝言を伝えるように言ってくれ。天使は基本臆病だけど、こっちの現状を知れば飛び出す勇気が持てるはずだから》
天使にしてはかなりアバンギャルドなマディロールの声がする。決戦は二度目の大舞踏会、と腹の底で思いながら、アリーは耳打ちほどの距離間でマクシミリアンに言葉を伝えることにした。別に離れててもよかったが、単にイチャイチャしたいだけだった。
227
あなたにおすすめの小説
【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます
なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。
過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。
魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。
そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。
これはシナリオなのかバグなのか?
その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。
【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!
えとう蜜夏
恋愛
ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。
ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。
その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。
十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。
そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。
「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」
テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。
21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。
※「小説家になろう」さまにも掲載しております。
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。
ぽんぽこ狸
恋愛
気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。
その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。
だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。
しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。
五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。
婚約破棄? めんどくさいのでちょうどよかった ――聖女もやめて、温泉でごくらくしてます
ふわふわ
恋愛
婚約破棄を告げられた聖女リヴォルタ・レーレ。
理由は、「彼女より優秀な“真の聖女”が見つかったから」。
……正直、めんどくさい。
政略、責任、義務、期待。
それらすべてから解放された彼女は、
聖女を辞めて、ただ温泉地でのんびり暮らすことを選ぶ。
毎日、湯に浸かって、ご飯を食べて、散歩して。
何もしない、何も背負わない、静かな日常。
ところが――
彼女が去った王都では、なぜか事故や災害が相次ぎ、
一方で、彼女の滞在する温泉地とその周辺だけが
異様なほど平和になっていく。
祈らない。
詠唱しない。
癒やさない。
それでも世界が守られてしまうのは、なぜなのか。
「何もしない」ことを選んだ元聖女と、
彼女に“何もさせない”ことを選び始めた世界。
これは、
誰かを働かせなくても平和が成り立ってしまった、
いちばん静かで、いちばん皮肉な“ざまぁ”の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる