9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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さいしゅうしょう!

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 聖女ミアが欲望のままに、善悪の判断とか抜きで素直に行動しているのは、この世界が彼女のために用意された夢の箱庭だから。
 逆に言えば、ミアだって帰りたくても帰れない、逃げたくても逃げられない状況なのではなかろうか。聖女というよりはむしろ腫れもののような扱いをされている現状は四面楚歌にもほどがあるし、ちょっとどころではなく不安になっていると思われる。

<だから、普通なら絶対到達できない高さまで願いを届けなきゃ。いや別に聖女ミアが可哀そうとかじゃなくて、心ある天使がいるならさっさと回収してもらいたい>

 というわけで、アリーはついに闇治癒魔法を習得した。
 絶対ひとりでは続かなさそうだった特訓だったが、一緒に鍛えてくれる仲間たちがいたから乗り越えられた。
 アベルとマディロール、たっくん、途中からは4人の親友たちが裏山に応援に来てくれたし、西翼に帰ればスティラとジャンに癒され、夜になればマクシミリアンとちょこっとだけいちゃいちゃする。
 体力面では問題なくても、精神的疲労が尋常ではないらしい彼を一刻も早く救いたい。回復魔法が日ごと夜ごとに進化するのに反比例して、アリーの視力は悪化の一途をたどっているらしく、心臓が破裂するんじゃないかと思うほど覇王がカッコよく見えるようになったから困る。
 お互いに恋愛沙汰に不慣れなせいで、甘い雰囲気はほぼ毎回横道にそれるのでがっかりすることの方が多いけど。
 それでも「アリーの手からは何かが出ているな」とマクシミリアンが気づいてくれた時は嬉しかった。
 何をどうしたらそんな珍妙なことになるんだ、と当初は頭を抱えた闇治癒魔法は、キラキラと光をまき散らすようなものではなく、ねっとりしていてどす黒い。でも、ちゃんと誰かの希望となれるだけの力を得た。

《アリー、そろそろ話していいですよ。回復魔法は光のクソの専売特許じゃないって》

《数日前まで専売特許だったし、闇治癒はアリー以外には使えないから実質未だに専売特許だが》

《たっくん、それは言わないお約束です》

 マクシミリアンとのイチャコラは、アベルとたっくんの脳内音声が大いに冷やかすせいで毎回ちょっとした地獄だ。なんというか、ひたすらこっ恥ずかしい。マクシミリアンはそれを「娘らしい恥じらい」に変換しているので、結果オーライではあるが。

「……あの、殿下。わたし、治癒魔法が使えるようになりました。といっても闇属性で、しかも力がほとばしっちゃって微調整が難しいんですけど」

 普段は使わないような筋肉まで使って、白目をむきながら習得したということは秘密にすることにした。あの酷い有様を思い出すと、アリーの中の乙女的な部分が悶絶するから。
 結婚前の男女だからとバッチリ同席している精霊レジェンドたちが揃って目を見開く。
 理解が追いついていない顔つきだったマクシミリアンは、しばらく沈黙した後やっと脳まで到達したらしく「そうか」と花のように笑った。「本当か?」と聞いてこないあたり、信頼されてるなあと思う。

「何の武器もなく聖女をしとめるにはどうしたらいいか、ずっと頭を悩ませていた。ありがとうアリー、君は救国の女神だ」

 マクシミリアンは椅子から立ち上がってひざまずき、ガッとアリーの手を取った。「しとめる」という単語が不穏すぎるが、そこはツッコまないことにする。
 ひたすら国を救うためだけに突っ走っている王太子には、援護射撃が必要だ。聖女ミアを取り込めと両親が勝手に色めき立っているなか、聖女排除後を見据えて粛々と淡々とやるべきことをこなしている。その理性には惚れざるを得ない。

「治癒魔法を人質にとるような聖女を、これ以上のさばらせておくわけにはいかない。王太子として、物理的にひねりつぶす方法を模索していたが、正直五里霧中だった。情けない限りだ」

 王太子というには筋骨隆々過ぎる巨体のマクシミリアンが、物騒極まりないことを言う。いやひねりつぶすって、つぶすって、と思ったが、多分スプラッタな方向性で言ってるんじゃないだろう。見た目のわりに超絶理性的だし。

「闇の使徒が与えてくれた奇跡の力は、強すぎてそう何回も使えません。だから使いどころが重要で、できるだけ多くの人が集まった場が望ましいんですが」

「それに関しては問題ないだろう。聖女ミアから、大舞踏会の仕切り直しを求められている」

 そうかあ、とアリーはちょっと遠い目になった。やっぱりあの大舞踏会、聖女ミア的には屈辱極まりなかったらしい。

《おい、闇の聖女。王太子にも光の天使が見えるようにしてやるから、聖女ミアにこきつかわれて血尿出してる仲間と上司に、俺からの伝言を伝えるように言ってくれ。天使は基本臆病だけど、こっちの現状を知れば飛び出す勇気が持てるはずだから》

 天使にしてはかなりアバンギャルドなマディロールの声がする。決戦は二度目の大舞踏会、と腹の底で思いながら、アリーは耳打ちほどの距離間でマクシミリアンに言葉を伝えることにした。別に離れててもよかったが、単にイチャイチャしたいだけだった。
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