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さいしゅうしょう!
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とまあ非常に乙女な展開になりかけたのだが、疲れていたのと泣きすぎたのでアリーは寝落ちしたらしい。朝になったらマクシミリアンはいなかった。「中央に行ってきます」という置手紙と、まぶたがパンパンに腫れあがった小汚い女だけが残された。大変悔しい。
『ほらほらアリー、腰が引けてますよ! ぼーっとしないで受け止めるっ!』
前方から怒声が飛んできて、アリーは慌てて我に返った。朝っぱらから黒点に『なんか出そう』と裏山に呼び出され、アリーは今スポーツ根性系絵物語も真っ青な特訓をしている。
「怖いよっ! ていうか早すぎるよ、もうちょっと手加減してよっ!!」
『そんな微調整まで期待しないでくださいよこっちだって必死なんだからっ! はいもう1回っ!!』
「いやあああああっ!」
アベルが投げてきた黒い球を、瀕死の形相でアリーは受け止めた。つもりになったが、受け止めきれずに手の中からすっぽ抜けた。
巻き込まれて球の直撃を受けた樹木がびりびりと震えて、なぜか木肌に目と口が浮かび上がる。人面樹から「フハハハハ」と謎の笑い声が上がり、しばらくののちしっとりと輝きだした。回復魔法ってこんなんだっけ、という疑問しか湧かない。
『もういっちょいきますよ、ほらアリーの魔力を投げて!』
「はいっ!」
『よーし出でよ闇治癒っ!』
アリーが魔力を放つ。アベルがそれを秒速で打ち返す。魔王もまだコントロールが上手くいかないらしく、わけのわからない方向に飛んでいく黒い球にアリーは三角飛び蹴りの要領で追いつき、みぞおちの激痛に耐えながら今度こそ受け止めきった。
とにかく顔色が悪いマディロールが『よしっ!』と力強くうなずく。
『いい感じだ、次はそれを聖女っぽく分け与えてみろっ!』
無茶言うなと怒鳴り返したかったが、アリーは黙って手の中でぎゅるぎゅる回転している黒い球に意識を集中した。
聖女ミアが心の疲労で回復魔法が使えない、と軽いジャブを入れてきて中央を翻弄している現状を打破するには、彼女よりも優れた存在がいることを示さなければ駄目なのだ。
微妙にハゲてきている国王、小皺が増えてきた王妃はミアのわがまま放題を許している。そして1日ごとに焦れてくるだろう。こちらも特殊な回復魔法が使えるとなれば、あからさまに媚びてくることは間違いない。
呆れるほど愚かな国王夫妻にどう接すればいいのか、もし自分がマクシミリアンの立場でも思い悩むだろう。それでも彼自身が、実の両親を排除する方向に動くだろうと推測される。実際帰りが遅くなったのはミアのご機嫌取りをしつつも、裏でいろいろ動き回ってたかららしいし。
王太子として正しい、あるべき姿を体現しようとするマクシミリアンからは、上に立つ者の力を強く感じる。ラドフェン公爵と協力してしっかり国を導いていけるに違いない。
<とりあえず目先の目標は、聖女ミアと国王夫妻の切り離し……っ! そして国王派をこっちに取り込む!!>
手の中の黒い球が回転を止め、アリーの体内にすうっと吸い込まれていく。
<めっちゃくちゃ痛いいいいぃぃっ! 回復魔法のはずなのに辛いし苦しいしいいいいっ!!>
アリーの全身が限界だと悲鳴を上げている。まったく洗練されていない粗削りな魔王の回復魔法は、使役者に相当な苦労を強いるものらしい。そういうところは闇っぽいな、などと思うが、もうちょっとふわっと出てさらっと使えるものであってほしかった。
指先が自分のものじゃないみたいにぷるぷる震える。光と闇が袂を分かってウン千年、裏街道を突っ走ってきた魔族の魔力はやっぱり攻撃的だった。
「に、鈍色に輝く闇の癒しよ、我が命令に従い、この世のすべてを癒したまええええっ!」
頭のてっぺんから脇の下から、それこそ全身から汗が噴き出すのを感じながら、アリーは手のひらをそこら辺の岩に向けた。ぽんっと黒い光が飛び出して、薄汚れた岩がツルツルピカピカの岩になった。ついでに目と口も出てきた。
『よーっし第一関門突破っ! でもまだ回復力が足りないし方向性もおかしい! アベルは引き続き筋肉トレーニング、アリーは見るに堪えないから水の精霊召喚っ!』
胸の前で腕を組んだマディロールが言い放つ。遠回しに汗臭いと言われて大変傷ついたが、アリーは言い返す気力がなくてへなへなと崩れ落ちた。
遠巻きに見ていたらしい見知らぬ精霊たちがわらわらと寄ってきて、勝手にアリーを綺麗にしてくれた。めちゃくちゃ優しいし癒される。
目の前では監督と選手、じゃないマディロールとアベルが腹筋しながら打ち合わせに入っていた。猛スピードで鍛えられているっぽいのに、見た目にあんまり変化がないっぽい。もしかして闇の使徒とか光の天使は、インナーマッスルだけが鍛えられるんだろうか。
『ご主人、あとひと頑張りだ。我は日増しに鍛えられるご主人の筋肉が、とても美しいと思うぞ』
「たっくんってば優しい……」
こんな特訓をあと何日か続けていたら、鍛えられすぎて体積が聖女ミアの2倍くらいになりそうな気がする。乙女としてはさすがに辛いが、この世界に降りかかった災難を打ち砕くためには、それくらいの覚悟は必要なのかもしれなかった。
『ほらほらアリー、腰が引けてますよ! ぼーっとしないで受け止めるっ!』
前方から怒声が飛んできて、アリーは慌てて我に返った。朝っぱらから黒点に『なんか出そう』と裏山に呼び出され、アリーは今スポーツ根性系絵物語も真っ青な特訓をしている。
「怖いよっ! ていうか早すぎるよ、もうちょっと手加減してよっ!!」
『そんな微調整まで期待しないでくださいよこっちだって必死なんだからっ! はいもう1回っ!!』
「いやあああああっ!」
アベルが投げてきた黒い球を、瀕死の形相でアリーは受け止めた。つもりになったが、受け止めきれずに手の中からすっぽ抜けた。
巻き込まれて球の直撃を受けた樹木がびりびりと震えて、なぜか木肌に目と口が浮かび上がる。人面樹から「フハハハハ」と謎の笑い声が上がり、しばらくののちしっとりと輝きだした。回復魔法ってこんなんだっけ、という疑問しか湧かない。
『もういっちょいきますよ、ほらアリーの魔力を投げて!』
「はいっ!」
『よーし出でよ闇治癒っ!』
アリーが魔力を放つ。アベルがそれを秒速で打ち返す。魔王もまだコントロールが上手くいかないらしく、わけのわからない方向に飛んでいく黒い球にアリーは三角飛び蹴りの要領で追いつき、みぞおちの激痛に耐えながら今度こそ受け止めきった。
とにかく顔色が悪いマディロールが『よしっ!』と力強くうなずく。
『いい感じだ、次はそれを聖女っぽく分け与えてみろっ!』
無茶言うなと怒鳴り返したかったが、アリーは黙って手の中でぎゅるぎゅる回転している黒い球に意識を集中した。
聖女ミアが心の疲労で回復魔法が使えない、と軽いジャブを入れてきて中央を翻弄している現状を打破するには、彼女よりも優れた存在がいることを示さなければ駄目なのだ。
微妙にハゲてきている国王、小皺が増えてきた王妃はミアのわがまま放題を許している。そして1日ごとに焦れてくるだろう。こちらも特殊な回復魔法が使えるとなれば、あからさまに媚びてくることは間違いない。
呆れるほど愚かな国王夫妻にどう接すればいいのか、もし自分がマクシミリアンの立場でも思い悩むだろう。それでも彼自身が、実の両親を排除する方向に動くだろうと推測される。実際帰りが遅くなったのはミアのご機嫌取りをしつつも、裏でいろいろ動き回ってたかららしいし。
王太子として正しい、あるべき姿を体現しようとするマクシミリアンからは、上に立つ者の力を強く感じる。ラドフェン公爵と協力してしっかり国を導いていけるに違いない。
<とりあえず目先の目標は、聖女ミアと国王夫妻の切り離し……っ! そして国王派をこっちに取り込む!!>
手の中の黒い球が回転を止め、アリーの体内にすうっと吸い込まれていく。
<めっちゃくちゃ痛いいいいぃぃっ! 回復魔法のはずなのに辛いし苦しいしいいいいっ!!>
アリーの全身が限界だと悲鳴を上げている。まったく洗練されていない粗削りな魔王の回復魔法は、使役者に相当な苦労を強いるものらしい。そういうところは闇っぽいな、などと思うが、もうちょっとふわっと出てさらっと使えるものであってほしかった。
指先が自分のものじゃないみたいにぷるぷる震える。光と闇が袂を分かってウン千年、裏街道を突っ走ってきた魔族の魔力はやっぱり攻撃的だった。
「に、鈍色に輝く闇の癒しよ、我が命令に従い、この世のすべてを癒したまええええっ!」
頭のてっぺんから脇の下から、それこそ全身から汗が噴き出すのを感じながら、アリーは手のひらをそこら辺の岩に向けた。ぽんっと黒い光が飛び出して、薄汚れた岩がツルツルピカピカの岩になった。ついでに目と口も出てきた。
『よーっし第一関門突破っ! でもまだ回復力が足りないし方向性もおかしい! アベルは引き続き筋肉トレーニング、アリーは見るに堪えないから水の精霊召喚っ!』
胸の前で腕を組んだマディロールが言い放つ。遠回しに汗臭いと言われて大変傷ついたが、アリーは言い返す気力がなくてへなへなと崩れ落ちた。
遠巻きに見ていたらしい見知らぬ精霊たちがわらわらと寄ってきて、勝手にアリーを綺麗にしてくれた。めちゃくちゃ優しいし癒される。
目の前では監督と選手、じゃないマディロールとアベルが腹筋しながら打ち合わせに入っていた。猛スピードで鍛えられているっぽいのに、見た目にあんまり変化がないっぽい。もしかして闇の使徒とか光の天使は、インナーマッスルだけが鍛えられるんだろうか。
『ご主人、あとひと頑張りだ。我は日増しに鍛えられるご主人の筋肉が、とても美しいと思うぞ』
「たっくんってば優しい……」
こんな特訓をあと何日か続けていたら、鍛えられすぎて体積が聖女ミアの2倍くらいになりそうな気がする。乙女としてはさすがに辛いが、この世界に降りかかった災難を打ち砕くためには、それくらいの覚悟は必要なのかもしれなかった。
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