9回巻き戻った公爵令嬢ですが、10回目の人生はどうやらご褒美モードのようです

志野田みかん

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さいしゅうしょう!

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 過剰な気遣いを要求してくる聖女ミアのための大舞踏会は、彼女の望む筋書き通りに進んだ。それをアリーは別室の鏡(アベル謹製)で見ていた。
 マクシミリアンも四天王たちも、本当は強めの拒絶の意思を示したいのだろうが、もはや修行とわりきって対応している。
 国内のイケメンオールスター夢の大共演で、聖女ミアは儚げで美しく、守ってあげたいただひとりのお姫様状態。お前はそんなに偉いのか、他人の人生をぶっ潰すことができるくらい偉いのか、と腹が立つと同時に、ちょっとだけ彼女のことが哀れにも思えた。
 地位と権力、素晴らしい美貌、一生かかっても齧り尽くせないほど太い脛(つまり金)を持った、あらゆる種類の男性から愛されたい。ついでに一番上に立つ女になりたい。
 そんな野望を持つくらいだから、本来の聖女ミアは凡庸な顔と凡庸なスタイルの女の子で、めちゃくちゃ凡庸に生きてきた人だろう。
 素晴らしくキラキラした人生を送っていた人なら、己がイケメンと戯れるスパイスとしての「断罪される令嬢」なんてものは望まないはずで。

<いややっぱり可哀そうなんかじゃないな、尋常ならざる濃度の怒りを感じるな。夢を見るにも限度ってものがあるよ>

 それにしても聖女ミアの最終的な望みって何なんだろう、とアリーは首をひねった。
 過去9回も美男子を侍らせて遊びきって、ついに10回目。いいかげん落ち着くつもりだったのか、どっかに隠された謎のイケメンでも狙うつもりだったのか。
 アリーの思考を読んだかのようにアベルが口を開く。

『まあ、そのどっちかが真実だろうと思いますけど。ほらアリー、そろそろ盛大な茶番が始まりますよ』

 今日は彼自身も魔王として登場予定なので、装いの美しさと言ったら筆舌に尽くしがたい。
 王子さまや貴公子とのロマンスを楽しむ筋書きの中に、毛色の変わったイケメンを投入するならまさにアベルがふさわしい。などと思いながら、とアリーは鏡の中の光景に意識を集中させた。
 鏡の中では、こめかみに青筋を立てた脳筋マーティンが天才クリスに食ってかかったところだった。2人の男がミアとのダンスの順番を奪い合って燃え上がる。マーティンが怒鳴り、クリスが叫び返す。ありていに言えば演技なのだが、めちゃくちゃ真に迫っていた。
 周囲の人々の顔が目に見えて強張っていく。そんな中聖女ミアだけが見たこともないくらい活き活きとしていた。どうやらまたひとつ、彼女の妄想が具現化されたらしい。
 ミアは不安と戸惑いの混じった声で止めに入るのだが、表情が完全に裏切っていた。何かが「キターーーー!」みたいな歓喜の雄叫びをあげてもおかしくない顔つきだった。
 クリスが下あごを突き出して威嚇すると、マーティンが「オラァッ」という野太い叫び声と共にパンチを繰り出した。クリスが無様に転倒し、そこら辺にいた貴公子を巻き込む。即座に立ち上がったクリスが鋭い蹴りをマーティンの腹にお見舞いした。
 相当インパクトの強い大騒ぎだが、あくまでも演技……のはずだ。ちょっと自信なくなってきたな、と思いながらアリーは立ち上がった。
 鏡の中ではなおも暴れようとする男達の間に、苦虫を噛みつぶしたような顔つきのマクシミリアンが割って入るところだった。止めきれないていでマーティンとクリスが同時に拳を突き出したので、マクシミリアンはもろにその直撃を食らった。
 「ぎぃやああああーーーっ!」と王妃が失禁せんばかりの悲鳴を上げる。立ち上がったマクシミリアンの頭から血が流れ出ていた。銀髪を染めあげるほどの赤に、さすがのミアも「あ……あ……」と消え入りそうな声を漏らす。
 人体の急所を知り尽くしているらしい筋肉特戦隊だから、最小限のダメージでど派手に見える怪我をしたはず。そうわかってはいても、心配すぎてアリーの心拍数はマックスになった。

「せ、聖女様! 早く回復魔法をかけてくださいませっ! わたくしたちはもう十分あなた様を癒したはずです、だから早く回復魔法をっ!!」

 王妃が目をギラギラさせながら聖女ミアに迫る。絶句による無言状態が続いていたミアも「回復魔法」という言葉に我に返ったらしく、花が咲くように美しい笑みを浮かべた。

「ええ、もちろん。王太子様を癒すのはわたくしの役目ですわ」

 己を取り巻く黄金のオーラがかなり薄くなっていることにも気付かず、崇拝されている女神が民に無償の愛を捧げるかのごとき慈愛に満ちた表情で、聖女ミアはマクシミリアンに手をかざした。
 アリーの心臓が、きゅっと音を立てて縮まる。マディロールが『心配すんな』と軽い声を出した。

『俺の上司と仲間の怒りは深いよ。そりゃ一番は神に対してだけど、あの女の醜さや浅ましさも相当だ。恣意的に回復魔法を出させないっつーやり方を選んだのはあの女。それが己に返ってくるだけだ。光の天使が愛とか憐れみとか慈しみを奪われたら、どうしたって力は弱る』

 マディロールの怒りは深いらしく、乙女の耳には入れてほしくない言葉で聖女ミアを罵っている。

「光の天使たちよ、どうかわたくしの願いを聞き届けたまえ。あなた方の力を我が身に降ろし、王太子マクシミリアン・オランドリアを癒したまえ」

 真っ白な光が弧を描く彗星のように飛んできて、聖女ミアの体に吸い込まれてまばゆい光が溢れだす──といったことは、いつまでたっても起こらなかった。ミアの顔にだんだん焦りが浮かんでくる。目が泳ぎ始める。

『よーし今だ、いっけえええアベル!』

『そういう暑苦しいノリ、嫌いじゃないですよ』

 マディロールの言葉にアベルが微苦笑を浮かべた瞬間、それまで明るかった大広間が急に暗くなった。王宮内であるというのに雷鳴が轟き、また夜のように暗くなる。誰もが唖然として凍り付いているそのど真ん中に、アリーは己の体が運ばれていくのを感じた。
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