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さいしゅうしょう!
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暗闇の中で何かが揺れて、しゃらんと音を立てる。明らかに普通ではない超常の闇に、人々は唖然として凍り付いていた。
空気が揺らめき、頭上で妖しく蠢くものがある。しゃらん、しゃらんとまた音が響き、闇の一角がぽっかりと抜けたように明るくなった。
闇が薄れただけなのに、そこは夜空に輝く月のよう。混乱して恐怖にとらわれている人々の頭上に、猛々しさと美しさを併せ持つ一羽の鷹が現れた。
猛禽は闇の中をすいすいと縫うように飛ぶ。王者のごとき威厳を湛えた鷹に道を譲るように、闇が薄れていく。
やがて鷹はくるりと弧を描いて、急降下を始めた。人々がはっと息を呑む。薄れゆく闇の中に、腕を高く掲げたひとりの乙女が立っていた。すうっと舞い降りてきた鷹は、従順に彼女の右腕に止まった。
「光は闇に屈しました。聖女ミアに、救いを求める人々を助ける力はありません」
鷹を従えた乙女の体が神々しく輝く。アリーの周辺だけ闇が晴れただけなのだが、漆黒に目が慣れた人々には冴えた月の光のように見えているはずだ。
「偶然手に入れた光の力に驕り、自由に使えて当たり前と思い上がり、与えられた力への謙虚さも感謝も忘れたその娘は、すでにただの人と変わらない。この世界を哀れに思った漆黒の王が、わたくしに闇の聖女の力を与えてくださいました。闇から生まれた治癒魔法を使い、今から王太子様を癒してごらんに入れましょう」
「な、なんですってっ!?」
聖女ミアの顔が、目に見えて強張っていく。しゃらん、しゃらんという音は止まず、どんな超常の不思議があってもおかしくないような雰囲気を高めてくれる。
ミアや国王夫妻をはじめとする闇属性がない人々の目には見えないだろうが、アリーの周囲ではイからカまでの5人のベル君たちが鈴を片手に踊り狂っていた。
さすが漆黒舞踏、ものすごく前衛的なダンスだ。アツアツの鉄板の上で動き回る人を想像してもらえたら大体あってる。
脇役というか、ここでは有象無象でしかない貴族たちが、不思議な踊りによって軽い催眠状態に陥っていくのがわかる。
「う、嘘よ、ここはわたしの為に用意された世界なのよ、闇の聖女なんて存在するわけがないわっ!?」
顔を真っ赤にして足を踏み鳴らすミアには、もはや聖女としての清廉さも神々しさも何もない。どこからどう見たって、ただのヒステリーな小娘だ。
鷹を片手にそびえたつアリーは、聖女ミアが投げつけてくる悪意の塊のような視線をものともせず、すいっと床を滑るようにマクシミリアンの前へと移動した。
おろおろと狼狽えるばかりの国王、そして王妃が、今にも泣き出しそうな顔で聖女ミアに縋り付く。
「お、お前はアリー・クルネアではないか! 田舎の貧乏男爵の娘が、聖女ミアよりも特別な力を授かるわけがないっ!」
「そうよ、下賤の身で聖女を騙るとは、いくらなんでも罪深すぎるわ! ああミア様、早く我が息子マクシミリアンを癒してくださいませっ!」
「お黙りなさいっ! あなた方にはこの神秘的な闇のオーラが見えないのですか? わたくしの守護たる闇の使徒様は、魔界の王であらせられる。魔王様は神と同等、いえ、すでに神をも凌駕した、この世界の守り神ともいえる存在なのですよ」
アリーの強気な態度に意表を突かれたのか、国王夫妻は驚いた顔をしてぽかんとアリーを見つめた。目の中にあった魅了の色がいよいよ薄くなり、このままアリーが威厳を保って強気の姿勢を貫けば、彼らを落とすのは簡単そうだ。
「ま、まさか本当に……?」
「そんな、そんな魔王が神だなんて、そんな……」
愕然としてつぶやく国王夫妻は、聖女ミアとアリーの顔を見比べながらオロオロと狼狽えるばかり。
「論より証拠をご覧に入れます。さあ、マクシミリアン様。わたくしの闇治癒魔法を受け取ってくださいませ」
「嘘よーーーーーっ! そんなことできるわけないわ、いいえ、絶対にやらせないっ!!」
金切り声を上げたミアが突進してくる。ここ数日の特訓で鍛えられてしまった、アリー的にはちょっと悲しい筋肉を使った真っ向勝負(物理)でねじ伏せてもいいのだが、それでは神秘性が演出できない。
アリーは「行け」とばかりに、右手をすうっと前に差し出した。鷹が矢のごとく飛び出し、鋭い鉤爪がミアのドレスの一部を切り裂く。
「きゃああああああっ!」
鼓膜が破けんばかりの悲鳴を上げて、聖女ミアが尻もちをついた。しかし彼女を助ける貴公子は誰一人としていない。息を切らし、すっかり血の気の失せたミアの顔が、さらに恐怖にひきつる。
勇壮な翼を広げる鷹の凛々しい姿が揺らめく闇に包み込まれ、数度の瞬きの間に、底知れぬほど暗い瞳を持つ美男子へと変化したのだ。闇属性の魔力の激流が、ろくな魔力を持たない人々の目にも彼の姿を映し出す。
「あ、あなたは、誰……?」
ふるふると身を震わせながら、掠れた声でミアが尋ねる。ただならぬ気配を漂わせる黒衣の美青年が、口元にニイッと残忍な笑みを浮かべた。
『招かれざる者よ、お前はすでにその身を守ってくれる光の天使を失った。俗世の垢がこびりついた偽聖女に、語って聞かせる名など無い──と言いたいところだが。この魔王アベルが唯一忠誠を誓う闇の聖女、アリー・クルネアの放つ奇跡の治癒魔法を、そこで震えて眺めているがいい』
神秘的な響きを帯びた声でアベルが言い放つ。星をちりばめた夜空のように艶やかな黒衣、肩へと流れる漆黒の髪──どこもかしこも禍々しいほどに黒い魔王には、他を圧倒するほどの存在感があった。
<よっしゃ決まったーっ! アベル、たっくん、最っ高の共同作業だったよっ!! でもちょっとマクシミリアンの血が止まらないから、早く、早く治癒してあげようっ!>
まるで魔王自身がアリーの意のままに操られているがごとき演出だったが、実際はたっくんがブローチに変化すると同時に黒点からアベルが飛び出してきただけだ。
『うっわ、あの娘ってば頬を紅潮させてこっち見てるんですけど、気持ち悪い』
『とりあえず無視しよう。さあご主人、ここで闇治癒魔法だっ!』
<そうだねっ!>
アリーは力強くうなずき、マクシミリアンへと向き直った。大丈夫だ、筋肉を自信に変えて特訓に耐えてきたのだから、きっと上手くいく。
「光を打ち砕く力を持ちえた闇の王に、我の魔力を捧げる。信頼と絆により、闇の癒しと休息、静けさと落ち着きを与えたまえ!」
アリーは高らかに叫び、両手を前へと突き出した。
空気が揺らめき、頭上で妖しく蠢くものがある。しゃらん、しゃらんとまた音が響き、闇の一角がぽっかりと抜けたように明るくなった。
闇が薄れただけなのに、そこは夜空に輝く月のよう。混乱して恐怖にとらわれている人々の頭上に、猛々しさと美しさを併せ持つ一羽の鷹が現れた。
猛禽は闇の中をすいすいと縫うように飛ぶ。王者のごとき威厳を湛えた鷹に道を譲るように、闇が薄れていく。
やがて鷹はくるりと弧を描いて、急降下を始めた。人々がはっと息を呑む。薄れゆく闇の中に、腕を高く掲げたひとりの乙女が立っていた。すうっと舞い降りてきた鷹は、従順に彼女の右腕に止まった。
「光は闇に屈しました。聖女ミアに、救いを求める人々を助ける力はありません」
鷹を従えた乙女の体が神々しく輝く。アリーの周辺だけ闇が晴れただけなのだが、漆黒に目が慣れた人々には冴えた月の光のように見えているはずだ。
「偶然手に入れた光の力に驕り、自由に使えて当たり前と思い上がり、与えられた力への謙虚さも感謝も忘れたその娘は、すでにただの人と変わらない。この世界を哀れに思った漆黒の王が、わたくしに闇の聖女の力を与えてくださいました。闇から生まれた治癒魔法を使い、今から王太子様を癒してごらんに入れましょう」
「な、なんですってっ!?」
聖女ミアの顔が、目に見えて強張っていく。しゃらん、しゃらんという音は止まず、どんな超常の不思議があってもおかしくないような雰囲気を高めてくれる。
ミアや国王夫妻をはじめとする闇属性がない人々の目には見えないだろうが、アリーの周囲ではイからカまでの5人のベル君たちが鈴を片手に踊り狂っていた。
さすが漆黒舞踏、ものすごく前衛的なダンスだ。アツアツの鉄板の上で動き回る人を想像してもらえたら大体あってる。
脇役というか、ここでは有象無象でしかない貴族たちが、不思議な踊りによって軽い催眠状態に陥っていくのがわかる。
「う、嘘よ、ここはわたしの為に用意された世界なのよ、闇の聖女なんて存在するわけがないわっ!?」
顔を真っ赤にして足を踏み鳴らすミアには、もはや聖女としての清廉さも神々しさも何もない。どこからどう見たって、ただのヒステリーな小娘だ。
鷹を片手にそびえたつアリーは、聖女ミアが投げつけてくる悪意の塊のような視線をものともせず、すいっと床を滑るようにマクシミリアンの前へと移動した。
おろおろと狼狽えるばかりの国王、そして王妃が、今にも泣き出しそうな顔で聖女ミアに縋り付く。
「お、お前はアリー・クルネアではないか! 田舎の貧乏男爵の娘が、聖女ミアよりも特別な力を授かるわけがないっ!」
「そうよ、下賤の身で聖女を騙るとは、いくらなんでも罪深すぎるわ! ああミア様、早く我が息子マクシミリアンを癒してくださいませっ!」
「お黙りなさいっ! あなた方にはこの神秘的な闇のオーラが見えないのですか? わたくしの守護たる闇の使徒様は、魔界の王であらせられる。魔王様は神と同等、いえ、すでに神をも凌駕した、この世界の守り神ともいえる存在なのですよ」
アリーの強気な態度に意表を突かれたのか、国王夫妻は驚いた顔をしてぽかんとアリーを見つめた。目の中にあった魅了の色がいよいよ薄くなり、このままアリーが威厳を保って強気の姿勢を貫けば、彼らを落とすのは簡単そうだ。
「ま、まさか本当に……?」
「そんな、そんな魔王が神だなんて、そんな……」
愕然としてつぶやく国王夫妻は、聖女ミアとアリーの顔を見比べながらオロオロと狼狽えるばかり。
「論より証拠をご覧に入れます。さあ、マクシミリアン様。わたくしの闇治癒魔法を受け取ってくださいませ」
「嘘よーーーーーっ! そんなことできるわけないわ、いいえ、絶対にやらせないっ!!」
金切り声を上げたミアが突進してくる。ここ数日の特訓で鍛えられてしまった、アリー的にはちょっと悲しい筋肉を使った真っ向勝負(物理)でねじ伏せてもいいのだが、それでは神秘性が演出できない。
アリーは「行け」とばかりに、右手をすうっと前に差し出した。鷹が矢のごとく飛び出し、鋭い鉤爪がミアのドレスの一部を切り裂く。
「きゃああああああっ!」
鼓膜が破けんばかりの悲鳴を上げて、聖女ミアが尻もちをついた。しかし彼女を助ける貴公子は誰一人としていない。息を切らし、すっかり血の気の失せたミアの顔が、さらに恐怖にひきつる。
勇壮な翼を広げる鷹の凛々しい姿が揺らめく闇に包み込まれ、数度の瞬きの間に、底知れぬほど暗い瞳を持つ美男子へと変化したのだ。闇属性の魔力の激流が、ろくな魔力を持たない人々の目にも彼の姿を映し出す。
「あ、あなたは、誰……?」
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