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さいしゅうしょう!
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闇が生み出す治癒魔法は、とにかく痛い。こんなの耐えられるわけがないと思うほどの、とんでもない苦痛を代償として怪我や病を癒すのだ。
それでも、この一回を無事にこなすことができたら。上位世界の天使か、神自身が直々にこの世界に干渉してくるはず。
闇の使徒が回復魔法を出すなんて、天界がひっくり返るレベルの大ごとだ。可能性の話だとしても、全力を挙げて取り組む価値は十分ある。
マクシミリアンがアリーの目を真っすぐに見つめて、どんとこいとばかりにうなずいた。言葉は必要なかった。彼の瞳にはアリーへの思いの丈が溢れている。
アリーの顔にも、言葉では足りないほどの信頼と愛情が浮かんでいると思う。いつまでも岩や樹木を相手に練習するわけにもいかず、闇治癒魔法の実験台として名乗りを上げてくれたのがマクシミリアンだった。
まだ生まれたてと言ってもいい魔法を受け止め、勢い余り過ぎてゴロゴロと地面を転がってから立ち上がった覇王は、土埃にまみれながら「痛くない」と言って笑ったものだ。実際はめっちゃ痛そうだった。
「神秘の闇をまといし聖女よ。どうか我が身に祝福を」
マクシミリアンが両手を広げて待ち構える。アリーはすうっと息を吸い込んだ。そして膝を曲げ、お尻を後ろへ突き出す。
《行きますよアリー、はいっ!》
<よしきたっ!>
アリーの体から飛び出した魔力を、アベルがなんかカッコいい感じで打ち返す。
闇の五天王たちの不思議な踊りで目がくらんでいる人々には、物凄くスマートに魔法が出ているように見えているらしい。催眠万歳だ。
実際は、スポーツ根性系絵物語も真っ青の泥臭さ。どういうからくりかは知らないが、こうじゃないと闇治癒は出せないらしい。
アベルの魔力の重みがアリーの腕に乗っかる。ものすごくキツかった。徐々に体内に取り込むと、今度は腹筋に痛みがのしかかってきた。アリーはぜえぜえと息を吐きながらも、己の腹筋に意識を集中する。
「な、なにをやっているの……?」
尻もちをついたままのミアの口から、ごもっともな疑問が漏れた。黙ってろ、と思いながらアリーは額に汗を滲ませ言葉を紡ぐ。
「人が魔法を発動できるのは、闇の使徒や光の天使、そして精霊たちのおかげ。でも、限界を決めるのは人間のほう。頑張りに限界なんてない、もう無理だと思ったところからの踏ん張りが、救いの力を生み出すのよ……っ!」
「いや本当になに言ってるのっ!?」
「だから! 神の力の前にただひれ伏して、この世界がいいように操られる何てこと、断じて見過ごせるはずがないの! いつまでもアナタの望む通りの世界が用意されるわけじゃないって思い知らせてあげるから、そこで阿呆面さげて眺めてなさあああああああいっ!!」
アリーの咆哮が大広間内の空気をびりびりと震わせた。
<やればできるやればできるやればできるっ!! 自分の努力で得た力でもないくせに、いい気になって暴れ回ってたミアを、絶対にこの世界から追い出してやるうううううっ!!>
アベルの魔法を余すところなく取り込むと、アリーの太ももがぷるぷると震え出した。
「アリー頑張れ、アリー頑張れっ!」『なんかわかんねえけどアリー姉ちゃん頑張れっ!』スティラの声が、ジャンの声が聞こえる。耳元に届けてくれたのは風のおばあちゃんだろう。
「アリー、来いっ! 俺が全部受け止めるっ!!」
筋肉を鍛えることで、なすすべもないループから脱却する糸口を作ってくれた覇王様。国を救いたいという彼の決意は、揺るぎなく本物だった。
願いの力が筋肉になった。いや、筋肉の力が新たな扉を押し開いた。筋が通っているのか通っていないのかまったくわからないけれど、彼が一生懸命やったことで公爵令嬢アリーシアが救われた。次は、この世界全体が救われる番だ。
「はい、マクシミリアン様っ!!」
アリーは床を蹴った。覇王と命運を共にする覚悟で、その広く分厚い胸に飛び込む。アリーの体からは闇が渦を巻いて立ち上っていた。
リハーサルでは闇の治癒を彼に向かって放出するはずだったのに、勢い余って自分から抱きしめられに行ってしまった。我に返った瞬間にマクシミリアンの太い腕がアリーの体に巻き付いて、衆目の中でがっつり抱擁を交わしてしまう。
「マクシミリアン様、変身が……っ!」
「好きな女を全力で抱きしめる時くらい、本当の自分でいたいからな」
マクシミリアンの全身の筋肉が、みるみるうちに膨らんでいく。彼が自らの意思で、レジェンドの飴による変身を解除したのだ。
突如現れたゴリゴリに仕上がりまくったマッチョの姿に、聖女ミアが白目をむいて叫び声を上げた。
「な、なによこれ、まるで呪いじゃないの! ちょっとアンタ、闇の聖女なんて言って本当は魔女なんじゃないのっ!?」
「違う。聖女ミア、いや、只人のミア。これが俺の真実の姿だ。もう己を偽るのはやめた。この姿が王太子らしくないとあざ笑うものがいるのなら、俺は喜んで笑われよう」
漢気に溢れまくった濃い笑みを、アリーはうっとりと見上げた。闇の治癒魔法がどんどんマクシミリアンの体に吸い込まれていく。ものすごく痛いはずなのに、彼は泣き言ひとつ言わない。
たしかに彼は「素敵!」と思われるタイプじゃない。この人のよさを理解できる女はアリーしかいないかもしれない。でも、万人に受け入れられる王子様じゃなくてもいいのだ。
「わたしにとって、マクシミリアン様は世界一カッコいい男性です!」
アリーの胸に、噴火のような勢いで愛しさが溢れかえった。
闇の治癒魔法は、マクシミリアンの筋肉に蓄えられた魔力すらも巻き込んで、ふつふつと湧き続けている。アリーの体から痛みが引いていく。マクシミリアンも同様らしく、混じりけのない純然たる回復魔法が2人の体を駆け巡るのを感じた。
癒しの力が、アリーとマクシミリアンの周囲で次々に開花する。聖女だったミアが施した治癒魔法が、新たに生まれた闇治癒によって上書きされていく。魅了魔法が完全に消滅し、そこかしこで正気に戻る人たちの声がした。
『やった……。闇から生まれた治癒魔法が、光のそれと同等、いやそれ以上の力を得た……』
呆然とつぶやいたアベルの肩に手を置いて、マディロールがずいっと身を乗り出す。そして、大広間の天井よりももっと上、遥か天空を見上げるような顔つきで『この時を待っていた!』と歓喜の雄叫びを上げた。
『見ろ、上位世界へと続く扉が開いたぞ! 天界は今、上を下への大騒ぎだ! 俺の仲間も、上司も、耄碌した神に苦しめられた他の天使も、怒涛の勢いでたまりにたまった鬱憤をぶちまけてるっ! ありがとう魔王、ありがとうアリー、こっから先は光の天使の仕事だ。その元聖女は、ふんじばってその辺に転がしておいてくれっ!』
『そっちにだけ美味しいところを持っていかれちゃ困るんですよ、光の天使が世界を好きに操れるなんて、不遜にすぎる考えですからね。二度とこういうことが起きないよう、闇の使徒も暴れさせていただきます』
まるで宗教画の天界大戦争のように、光の天使と闇の使徒が勇ましく天へと昇っていく。はっきり言ってカオスだった。でも、ものすごく感動的な光景だった。
「なによなによ、もうわけがわからないわ! こんなことなら異世界じゃなくて、石油王とのロマンス辺りにしとけばよかったっ! ねえ神様、さっさとわたしを救い出してよ、約束が違うわよ! こんなクソみたいな世界にわたしは不釣り合いよーーーーーーっ!!」
ぎゃーぎゃー騒いでいるミアを、もう誰も気にかけない。アリーを真実の聖女だと思って、みんなすっかり感激している。現金なもので、国王夫妻まで媚を売りに来るのが滑稽だった。
この大騒ぎが収まらないと、アリーの気持ちをマクシミリアンに伝えられない。まだ言っていない「好き」という二文字と、公爵令嬢アリーシアとしての過去の記憶。アリーができることは全部終わった。だから多分、もう心臓に激痛が走ることもないはず。
この先もずっと一緒に生きていくために、絶対に伝えなければならないこと。マクシミリアンがどんな辛い感情にさいなまれようと、絶対に支えようと思いながら、アリーは愛しい人の手をぎゅっと握った。
それでも、この一回を無事にこなすことができたら。上位世界の天使か、神自身が直々にこの世界に干渉してくるはず。
闇の使徒が回復魔法を出すなんて、天界がひっくり返るレベルの大ごとだ。可能性の話だとしても、全力を挙げて取り組む価値は十分ある。
マクシミリアンがアリーの目を真っすぐに見つめて、どんとこいとばかりにうなずいた。言葉は必要なかった。彼の瞳にはアリーへの思いの丈が溢れている。
アリーの顔にも、言葉では足りないほどの信頼と愛情が浮かんでいると思う。いつまでも岩や樹木を相手に練習するわけにもいかず、闇治癒魔法の実験台として名乗りを上げてくれたのがマクシミリアンだった。
まだ生まれたてと言ってもいい魔法を受け止め、勢い余り過ぎてゴロゴロと地面を転がってから立ち上がった覇王は、土埃にまみれながら「痛くない」と言って笑ったものだ。実際はめっちゃ痛そうだった。
「神秘の闇をまといし聖女よ。どうか我が身に祝福を」
マクシミリアンが両手を広げて待ち構える。アリーはすうっと息を吸い込んだ。そして膝を曲げ、お尻を後ろへ突き出す。
《行きますよアリー、はいっ!》
<よしきたっ!>
アリーの体から飛び出した魔力を、アベルがなんかカッコいい感じで打ち返す。
闇の五天王たちの不思議な踊りで目がくらんでいる人々には、物凄くスマートに魔法が出ているように見えているらしい。催眠万歳だ。
実際は、スポーツ根性系絵物語も真っ青の泥臭さ。どういうからくりかは知らないが、こうじゃないと闇治癒は出せないらしい。
アベルの魔力の重みがアリーの腕に乗っかる。ものすごくキツかった。徐々に体内に取り込むと、今度は腹筋に痛みがのしかかってきた。アリーはぜえぜえと息を吐きながらも、己の腹筋に意識を集中する。
「な、なにをやっているの……?」
尻もちをついたままのミアの口から、ごもっともな疑問が漏れた。黙ってろ、と思いながらアリーは額に汗を滲ませ言葉を紡ぐ。
「人が魔法を発動できるのは、闇の使徒や光の天使、そして精霊たちのおかげ。でも、限界を決めるのは人間のほう。頑張りに限界なんてない、もう無理だと思ったところからの踏ん張りが、救いの力を生み出すのよ……っ!」
「いや本当になに言ってるのっ!?」
「だから! 神の力の前にただひれ伏して、この世界がいいように操られる何てこと、断じて見過ごせるはずがないの! いつまでもアナタの望む通りの世界が用意されるわけじゃないって思い知らせてあげるから、そこで阿呆面さげて眺めてなさあああああああいっ!!」
アリーの咆哮が大広間内の空気をびりびりと震わせた。
<やればできるやればできるやればできるっ!! 自分の努力で得た力でもないくせに、いい気になって暴れ回ってたミアを、絶対にこの世界から追い出してやるうううううっ!!>
アベルの魔法を余すところなく取り込むと、アリーの太ももがぷるぷると震え出した。
「アリー頑張れ、アリー頑張れっ!」『なんかわかんねえけどアリー姉ちゃん頑張れっ!』スティラの声が、ジャンの声が聞こえる。耳元に届けてくれたのは風のおばあちゃんだろう。
「アリー、来いっ! 俺が全部受け止めるっ!!」
筋肉を鍛えることで、なすすべもないループから脱却する糸口を作ってくれた覇王様。国を救いたいという彼の決意は、揺るぎなく本物だった。
願いの力が筋肉になった。いや、筋肉の力が新たな扉を押し開いた。筋が通っているのか通っていないのかまったくわからないけれど、彼が一生懸命やったことで公爵令嬢アリーシアが救われた。次は、この世界全体が救われる番だ。
「はい、マクシミリアン様っ!!」
アリーは床を蹴った。覇王と命運を共にする覚悟で、その広く分厚い胸に飛び込む。アリーの体からは闇が渦を巻いて立ち上っていた。
リハーサルでは闇の治癒を彼に向かって放出するはずだったのに、勢い余って自分から抱きしめられに行ってしまった。我に返った瞬間にマクシミリアンの太い腕がアリーの体に巻き付いて、衆目の中でがっつり抱擁を交わしてしまう。
「マクシミリアン様、変身が……っ!」
「好きな女を全力で抱きしめる時くらい、本当の自分でいたいからな」
マクシミリアンの全身の筋肉が、みるみるうちに膨らんでいく。彼が自らの意思で、レジェンドの飴による変身を解除したのだ。
突如現れたゴリゴリに仕上がりまくったマッチョの姿に、聖女ミアが白目をむいて叫び声を上げた。
「な、なによこれ、まるで呪いじゃないの! ちょっとアンタ、闇の聖女なんて言って本当は魔女なんじゃないのっ!?」
「違う。聖女ミア、いや、只人のミア。これが俺の真実の姿だ。もう己を偽るのはやめた。この姿が王太子らしくないとあざ笑うものがいるのなら、俺は喜んで笑われよう」
漢気に溢れまくった濃い笑みを、アリーはうっとりと見上げた。闇の治癒魔法がどんどんマクシミリアンの体に吸い込まれていく。ものすごく痛いはずなのに、彼は泣き言ひとつ言わない。
たしかに彼は「素敵!」と思われるタイプじゃない。この人のよさを理解できる女はアリーしかいないかもしれない。でも、万人に受け入れられる王子様じゃなくてもいいのだ。
「わたしにとって、マクシミリアン様は世界一カッコいい男性です!」
アリーの胸に、噴火のような勢いで愛しさが溢れかえった。
闇の治癒魔法は、マクシミリアンの筋肉に蓄えられた魔力すらも巻き込んで、ふつふつと湧き続けている。アリーの体から痛みが引いていく。マクシミリアンも同様らしく、混じりけのない純然たる回復魔法が2人の体を駆け巡るのを感じた。
癒しの力が、アリーとマクシミリアンの周囲で次々に開花する。聖女だったミアが施した治癒魔法が、新たに生まれた闇治癒によって上書きされていく。魅了魔法が完全に消滅し、そこかしこで正気に戻る人たちの声がした。
『やった……。闇から生まれた治癒魔法が、光のそれと同等、いやそれ以上の力を得た……』
呆然とつぶやいたアベルの肩に手を置いて、マディロールがずいっと身を乗り出す。そして、大広間の天井よりももっと上、遥か天空を見上げるような顔つきで『この時を待っていた!』と歓喜の雄叫びを上げた。
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『そっちにだけ美味しいところを持っていかれちゃ困るんですよ、光の天使が世界を好きに操れるなんて、不遜にすぎる考えですからね。二度とこういうことが起きないよう、闇の使徒も暴れさせていただきます』
まるで宗教画の天界大戦争のように、光の天使と闇の使徒が勇ましく天へと昇っていく。はっきり言ってカオスだった。でも、ものすごく感動的な光景だった。
「なによなによ、もうわけがわからないわ! こんなことなら異世界じゃなくて、石油王とのロマンス辺りにしとけばよかったっ! ねえ神様、さっさとわたしを救い出してよ、約束が違うわよ! こんなクソみたいな世界にわたしは不釣り合いよーーーーーーっ!!」
ぎゃーぎゃー騒いでいるミアを、もう誰も気にかけない。アリーを真実の聖女だと思って、みんなすっかり感激している。現金なもので、国王夫妻まで媚を売りに来るのが滑稽だった。
この大騒ぎが収まらないと、アリーの気持ちをマクシミリアンに伝えられない。まだ言っていない「好き」という二文字と、公爵令嬢アリーシアとしての過去の記憶。アリーができることは全部終わった。だから多分、もう心臓に激痛が走ることもないはず。
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