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#22 大切な人
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神子様の、冬場行ける地域の治癒巡行は、無事に恙なく進行しているようだ。
当初、許可をもらえるまでが又一悶着も二悶着も有ったようだが、グレイモス以下あの時の信奉者達の強い後押しが有って、実現出来る運びになったらしい。
それに関しては、どうやら神子様も彼らにだいぶ感謝しては居るようだけど、口調は微妙に歯切れが悪かった。
「陛下が不審を抱くほどグレイモスの神子様讃美が激しかったからですか?」
俺が訊ねると、神子様は一瞬ウッと詰まって「聞いてたの?」と狼狽した声を出した。
俺達が別行動を取るに当たって、神子様からはとある魔道具を渡されていた。
それは魔石の嵌まったイヤーカフで、神子様の持っている、やはり魔石の嵌まったペンダントと通話が出来る。
通話が出来るだけでは無く、一方的に俺が魔石に魔力を流し込んで繋げれば神子様の身近で起きている物音を聴く事も出来る。つまりは盗聴も出来る。
神子様が一人になったら連絡をしてくる約束になっているが、もし万が一連絡が途絶えたらと言うときのための機能だ。
ただ、心配ならいつでも起動して良いと言われている。
そして、俺が非番の時にいつも利用していた定宿の部屋は、向こう一ヶ月分前払いで俺が借り切っている。
俺の相棒タカが、いつでもこの部屋に出入り出来るように、宿の女将には伝えてある。
治癒巡行の間、夜になったら転移でこの宿の近くまで来てチェックインをし、その部屋から通話すると言っていた。
治癒巡行の一行と同じ宿泊所に居るときに通話する危険を回避するためだ。
さすがにいくら神官向けの粗末な宿泊所でも、神子様を他の誰かと相部屋させる事は無いはずだからと。
神子様が西方面への巡行に出発したのは、俺が辞職し、騎馬で故郷の領に向かってひた走っている頃だ。
姉の婚家が有る都市までの行程の、ほぼ4分の3くらい来た頃だったろうか。
そこからほぼ一日半ほどで姉の家に到着し、そこに5日程度滞在した。
ハズレの村の実家に戻り、義兄の商会が運営している店から買い込んできた二人分の雑貨や生活物資などを必要な場所にしまう。
村長家族やお隣に挨拶し、二人暮らしの準備をあれこれしているうちに、更に5日経っていた。
天気の良い日には、家の勝手口脇に付いている物置を片付け、肌を刺す寒さの中、雪を避けながら、排水だの保温だのあれこれ工夫して浴室を設置した。
六日目に、義兄の商会に注文しておいたバスタブが届く。
神子様は風呂がお好きだから、絶対に設置しようと思っていたのだ。
気がつくと更に5日が過ぎている。日照時間が短く、寒さで一日の作業時間が短い。
まだやりたい事はあったが、そろそろ待ち合わせ場所に向かう事にする。
その後姉の様子を見に行った。
行った途端にチビ達に囲まれ、有無を言わさずわんぱく小僧達に戦いを挑まれる。勝手に動き回るのにケガをさせないよう気配りしながらというのも難しいもので、騎士団の訓練とは全く違う疲れに襲われてヘトヘトになる。
子供達が眠りについた後、姉と義兄にお茶に誘われた。
「ウェイゼセル市に大切な人を迎えに行くの?」
姉の言葉に俺は目を上げた。ビックリしている俺を見て義兄が笑った。
「あの家で一緒に住む人が居るんだろ?あんなに二人分の雑貨類を買い込んで、しかもバスタブまで注文したら誰だって分かるよ。勿論紹介してくれるんだよね?」
俺は慌てて誤解しないでくれと二人の妄想を遮る。
「そう言うんじゃ無い。冒険者の・・・ずっと組んでる相棒だ。俺が王宮勤めをやめて帰郷するなら一緒に来るって言ってくれて・・・」
ああ、男性なのか・・・と二人は目を合わせたが。
「・・・でも好きなんでしょう?」
姉はふふっと笑う。
「だって、あなたずっとそわそわしているじゃない」
俺は顔の火照るのを感じつつ、観念して自分の気持ちを認めるしか無かった。
結局、神子様があの養生中にこっそりと転移を繰り返して『知っている都市』の距離を延ばしていたとき、雪で乗合馬車が運行しなかった事もあり、当初の目的だったヒュージハフド市までは到達出来なかった。それよりは4つほど王都寄りのウェイゼセル市での待ち合わせとなる。
その分俺の故郷からは、少し王都方面に向かう距離が長くなる。
翌朝、逸る気持ちを抑えながらウェイゼセル市に向かって発った。
神子様の巡行は秋の治癒行脚の時と違い、5日~1週間ほどで行っては戻りを繰り返す事3回という形を取る。
目的地が分散しているせいだ。
都度一旦後宮に戻り2~3日したら再び出かける。
戻る度に宰相からは嫌みをネチネチと言われている。
何故知っているかと言えば、俺は日中移動しながらほぼ常に盗聴モードにしてあるからだ。
それは神子様にも言ってある。
こっそり盗聴しているわけでは無い。
逆に神子様が俺の方を盗聴する事も可能だが、多分していないだろう。
因みに神子様の場合は魔道具に頼らなくても「盗聴」のスキルが有る。
俺が神子様の盗聴をするのは、俺の居ないところでまた理不尽に罵られたり責められたりしているのでは無いかと気になるからだ。
事実、数カ所の村で嫌がらせのような、存在を否定するような嘲りを受けたり、というのはあった。
さすがに聞くに堪えない罵倒をしたり、石を投げたりなどと言う事は無かったが。
それは民が以前行った所の者達よりましと言うよりは、今回の巡行で神子様に同行している神殿側の面子が、グレイモス率いるあの信奉者達だったからと言うのも大きいだろう。
神子様を蔑ろにする民の居る地区を俺は忘れたくない。
おそらく神子様自身は、時がすぎれば忘れてしまうだろうと思う。事実あの石を投げて来た村の名前を、後宮に戻ったとき神子様は忘れていた。
「何故あんな事をされたのに忘れてしまうんですか?」
俺が訊くと、神子様はポカンとして「えっ?逆にどうして憶えてなきゃいけないの?」と言っていた。「行きずりの人じゃん」とも。
そうなのかも知れない。
でも、俺は。
神子様が許しても俺は許せない。
時折イヤーカフから聴こえる神子様の声に胸が締め付けられる。
早く。
早く。
会いたい・・・。
当初、許可をもらえるまでが又一悶着も二悶着も有ったようだが、グレイモス以下あの時の信奉者達の強い後押しが有って、実現出来る運びになったらしい。
それに関しては、どうやら神子様も彼らにだいぶ感謝しては居るようだけど、口調は微妙に歯切れが悪かった。
「陛下が不審を抱くほどグレイモスの神子様讃美が激しかったからですか?」
俺が訊ねると、神子様は一瞬ウッと詰まって「聞いてたの?」と狼狽した声を出した。
俺達が別行動を取るに当たって、神子様からはとある魔道具を渡されていた。
それは魔石の嵌まったイヤーカフで、神子様の持っている、やはり魔石の嵌まったペンダントと通話が出来る。
通話が出来るだけでは無く、一方的に俺が魔石に魔力を流し込んで繋げれば神子様の身近で起きている物音を聴く事も出来る。つまりは盗聴も出来る。
神子様が一人になったら連絡をしてくる約束になっているが、もし万が一連絡が途絶えたらと言うときのための機能だ。
ただ、心配ならいつでも起動して良いと言われている。
そして、俺が非番の時にいつも利用していた定宿の部屋は、向こう一ヶ月分前払いで俺が借り切っている。
俺の相棒タカが、いつでもこの部屋に出入り出来るように、宿の女将には伝えてある。
治癒巡行の間、夜になったら転移でこの宿の近くまで来てチェックインをし、その部屋から通話すると言っていた。
治癒巡行の一行と同じ宿泊所に居るときに通話する危険を回避するためだ。
さすがにいくら神官向けの粗末な宿泊所でも、神子様を他の誰かと相部屋させる事は無いはずだからと。
神子様が西方面への巡行に出発したのは、俺が辞職し、騎馬で故郷の領に向かってひた走っている頃だ。
姉の婚家が有る都市までの行程の、ほぼ4分の3くらい来た頃だったろうか。
そこからほぼ一日半ほどで姉の家に到着し、そこに5日程度滞在した。
ハズレの村の実家に戻り、義兄の商会が運営している店から買い込んできた二人分の雑貨や生活物資などを必要な場所にしまう。
村長家族やお隣に挨拶し、二人暮らしの準備をあれこれしているうちに、更に5日経っていた。
天気の良い日には、家の勝手口脇に付いている物置を片付け、肌を刺す寒さの中、雪を避けながら、排水だの保温だのあれこれ工夫して浴室を設置した。
六日目に、義兄の商会に注文しておいたバスタブが届く。
神子様は風呂がお好きだから、絶対に設置しようと思っていたのだ。
気がつくと更に5日が過ぎている。日照時間が短く、寒さで一日の作業時間が短い。
まだやりたい事はあったが、そろそろ待ち合わせ場所に向かう事にする。
その後姉の様子を見に行った。
行った途端にチビ達に囲まれ、有無を言わさずわんぱく小僧達に戦いを挑まれる。勝手に動き回るのにケガをさせないよう気配りしながらというのも難しいもので、騎士団の訓練とは全く違う疲れに襲われてヘトヘトになる。
子供達が眠りについた後、姉と義兄にお茶に誘われた。
「ウェイゼセル市に大切な人を迎えに行くの?」
姉の言葉に俺は目を上げた。ビックリしている俺を見て義兄が笑った。
「あの家で一緒に住む人が居るんだろ?あんなに二人分の雑貨類を買い込んで、しかもバスタブまで注文したら誰だって分かるよ。勿論紹介してくれるんだよね?」
俺は慌てて誤解しないでくれと二人の妄想を遮る。
「そう言うんじゃ無い。冒険者の・・・ずっと組んでる相棒だ。俺が王宮勤めをやめて帰郷するなら一緒に来るって言ってくれて・・・」
ああ、男性なのか・・・と二人は目を合わせたが。
「・・・でも好きなんでしょう?」
姉はふふっと笑う。
「だって、あなたずっとそわそわしているじゃない」
俺は顔の火照るのを感じつつ、観念して自分の気持ちを認めるしか無かった。
結局、神子様があの養生中にこっそりと転移を繰り返して『知っている都市』の距離を延ばしていたとき、雪で乗合馬車が運行しなかった事もあり、当初の目的だったヒュージハフド市までは到達出来なかった。それよりは4つほど王都寄りのウェイゼセル市での待ち合わせとなる。
その分俺の故郷からは、少し王都方面に向かう距離が長くなる。
翌朝、逸る気持ちを抑えながらウェイゼセル市に向かって発った。
神子様の巡行は秋の治癒行脚の時と違い、5日~1週間ほどで行っては戻りを繰り返す事3回という形を取る。
目的地が分散しているせいだ。
都度一旦後宮に戻り2~3日したら再び出かける。
戻る度に宰相からは嫌みをネチネチと言われている。
何故知っているかと言えば、俺は日中移動しながらほぼ常に盗聴モードにしてあるからだ。
それは神子様にも言ってある。
こっそり盗聴しているわけでは無い。
逆に神子様が俺の方を盗聴する事も可能だが、多分していないだろう。
因みに神子様の場合は魔道具に頼らなくても「盗聴」のスキルが有る。
俺が神子様の盗聴をするのは、俺の居ないところでまた理不尽に罵られたり責められたりしているのでは無いかと気になるからだ。
事実、数カ所の村で嫌がらせのような、存在を否定するような嘲りを受けたり、というのはあった。
さすがに聞くに堪えない罵倒をしたり、石を投げたりなどと言う事は無かったが。
それは民が以前行った所の者達よりましと言うよりは、今回の巡行で神子様に同行している神殿側の面子が、グレイモス率いるあの信奉者達だったからと言うのも大きいだろう。
神子様を蔑ろにする民の居る地区を俺は忘れたくない。
おそらく神子様自身は、時がすぎれば忘れてしまうだろうと思う。事実あの石を投げて来た村の名前を、後宮に戻ったとき神子様は忘れていた。
「何故あんな事をされたのに忘れてしまうんですか?」
俺が訊くと、神子様はポカンとして「えっ?逆にどうして憶えてなきゃいけないの?」と言っていた。「行きずりの人じゃん」とも。
そうなのかも知れない。
でも、俺は。
神子様が許しても俺は許せない。
時折イヤーカフから聴こえる神子様の声に胸が締め付けられる。
早く。
早く。
会いたい・・・。
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