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#25 対立
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「どうも、とうとう王宮と神殿の対立が本格的になって来たみたいよ。俺の失踪を巡って」
少し巻き戻るが、姉が双子を出産する前日のことだった。
朝食時に唐突にそんな話を振られた。
「あとね、俺に装着したアレが効いてないってやっと気づいたみたい」
俺の持っていたカップの中身が波立って音が鳴った。
鼻で笑ってしまうような悪い気持ちがこみ上げた。
あの忌まわしいアイテムをこの人に装着する際、陛下がどのような言い訳を紡いだのかは分からない。だが、恥を知る人間ならば出来ない。
いや。
あの陛下はずっとそうだったじゃ無いか。
恥を知っていたら出来ない。そんな事ばかりを積み上げてきた。
見目が麗しく、人当たりの良い笑顔で。
包み込むような優しい声音で。
「あの従属アイテムを装着するときの最初の命令が『どこへ行っても必ず陛下の所へ戻るように』だったんだよ。
そもそもホラ俺、ここ最近はやたら神殿だの治癒巡りに行きたがったりして、後宮を出たがっていたじゃん。神殿に行ったら、もう戻らないんじゃって思ったんだろうね。
まぁ、俺実質それ以外に知り合い居ないしね。
そのまんま司祭達の力を借りて、宗教的圧力で神殿にもってかれたらいやだなと思ったみたい。だから治癒行脚に出る前に、神殿に取られないようにあのアイテム装着したんだよ」
神子様は焼きたてのロールパンを契り、バターを塗っては口に運びながら、話の流れにあわせて首の、従属アイテムを嵌められていた場所を指先でつとなぞった。
今はもう外されている。
量産タイプの物だったために組み込まれていた術式は神子様の魔力の前には容易に解呪出来る代物だったらしい。
因みに、そのアイテムの使い方は、装着した人間が“主”となる。
そして“主”が触れながら命令を下すとそれには抗えなくなるのだ。
それが隷属アイテムともなるともっと強力で、触れなくても主の命令には全面的に服従になる。
但し、「死ね」とか「殺せ」とかは無効ワードとなっているらしい。
そして神子様の場合与えられた命令は『必ず陛下の元に戻るよう』だったらしい。
「・・・そう言えば、俺何度か神殿に通っているうちにだんだん筆頭司祭と結構話すようになっただろ?おかげで彼も“盗聴”できるようになったんだよ」
その結果、分かった事。
どうやらグレイモスは陛下側から放たれた“不貞要員”ではなく神殿からのそれだった。
最初神子様がそう思ったのは治癒行脚に出ている時にたまたま引率リーダーである彼の上司がグレイモスに「自分のすべきことは分かっているな。必ず神子様のお心を掴め」と命じているのを神子様は聞いてしまった。
つまり神殿は神殿で、実際に神子様が神殿に治癒業務のため通うようになって、初めて圧倒的な聖属性の魔力を目の当たりにし、手に入れたくなった。
あんな統治意識の無い国王に私物化させていても宝の持ち腐れ、むしろ自分たちの方が有効利用出来るし、何よりそうする事によって、弱まりかけていた神殿の権威を取り戻せる・・・と思ったのだ。
しかし、自分たちサイドに抱え込みたいなら「信頼感」とか「正義感」とか「義理人情」とか逆に「利害の一致」とかそういった精神面での繋がりを持つ・・・もっと言えば縛る方法もあるだろうに、なぜこうも短絡的に「肉体関係」をもって縛ろうとするのか・・・とウンザリしたように神子様はため息をついた。
それが一番手っ取り早いからでしょう、俺は応えた。
あと、口には出せなかったが、神子様自身がどことなく・・・唆るのだろう、とも思った。
秋の大規模な治癒行脚に出かける直前に、陛下は神子様にその従属アイテムを装着した。
それ以前から、後宮の籍を抜き神殿に仕えたいと申請していたのに、認めるのか認めないのか曖昧にしながら。
あの流れでは治癒行脚から戻った時には、もう神殿に属するでもいいと思わせるような空気も漂わせつつ。
それでいて従属アイテムに「必ず陛下の元に戻るよう」と命じ。
「実はさ、こないだの小規模な西方面の巡行も陛下がそれはそれはゴネて、なかなか許可が下りなくて大変だったんだよ」
俺が辞職した後の話で、現場に俺がいなかったから神子様は詳しく話してくれた。
もっとも、俺は気になってずっと“盗聴”していたからだいたいの流れは知っているのだが。
陛下がゴネたポイントは主に二つある。
一つは、ここ最近になって陛下の心に芽生え始めた例の疑念だ。
今まで一度も経験した事の無かった「相手の方が陛下から心が離れて去ろうとしているのかも知れない」という朧気な疑念。常に自分の方が捨てる立場にいた者からしたら容認出来ないのだろう。
なにより神子様にそんな自我を持たせたくなかった。この世界の事を良く知らない、陛下に頼るしか無い異世界人のままが望ましかった。ヘタに自分の知らないところで見聞を広げられても厄介だと思ったのだろう。
そして、もう一つは。
今回の神子様巡行パーティを率いるグレイモスの存在。
実はグレイモスは元々、先代の王の子だったのだ。
つまりは現国王の異母弟となる。
未亡人となり出戻った侯爵令嬢を後宮には入れず侯爵家で逢瀬を重ね出来た子供で、王子とは認められなかった。だが公然の秘密だ。
何よりも彼の限りなく白髪に近い銀髪や、青灰色の瞳もその怜悧な美貌も、賢王で名高かった先々代国王の若かりし頃の面影が色濃いらしい。
そして件の賢王の時、最も国内が安定し、神殿と王宮のバランスも取れていたときだったという。
それだけでも陛下としては心中穏やかでは無いだろう。
しかも。
今回の巡行に関しては彼が主導である事もあり、完全に神子様を神殿の要人扱いで「尊き存在である神子様のご意向に沿うのが当然。反対するなど愚かにして横暴!」という論調であり、陛下や宰相は不快感を隠さなかった。
そんなくらいだったから、王宮側は巡行の直後に失踪した事で神殿側が何か唆したのだろうと責めたて、神殿側は王宮の警備の甘さや後宮での扱いの低さを責め立てた。
お互いに相手が何らかの方法で神子様を匿って居るのだろうとも言い合って、対立は激化の一途らしい。
「かなり焦ってるらしく、連中、君の所にも捜査官よこすつもりらしいよ」
少し巻き戻るが、姉が双子を出産する前日のことだった。
朝食時に唐突にそんな話を振られた。
「あとね、俺に装着したアレが効いてないってやっと気づいたみたい」
俺の持っていたカップの中身が波立って音が鳴った。
鼻で笑ってしまうような悪い気持ちがこみ上げた。
あの忌まわしいアイテムをこの人に装着する際、陛下がどのような言い訳を紡いだのかは分からない。だが、恥を知る人間ならば出来ない。
いや。
あの陛下はずっとそうだったじゃ無いか。
恥を知っていたら出来ない。そんな事ばかりを積み上げてきた。
見目が麗しく、人当たりの良い笑顔で。
包み込むような優しい声音で。
「あの従属アイテムを装着するときの最初の命令が『どこへ行っても必ず陛下の所へ戻るように』だったんだよ。
そもそもホラ俺、ここ最近はやたら神殿だの治癒巡りに行きたがったりして、後宮を出たがっていたじゃん。神殿に行ったら、もう戻らないんじゃって思ったんだろうね。
まぁ、俺実質それ以外に知り合い居ないしね。
そのまんま司祭達の力を借りて、宗教的圧力で神殿にもってかれたらいやだなと思ったみたい。だから治癒行脚に出る前に、神殿に取られないようにあのアイテム装着したんだよ」
神子様は焼きたてのロールパンを契り、バターを塗っては口に運びながら、話の流れにあわせて首の、従属アイテムを嵌められていた場所を指先でつとなぞった。
今はもう外されている。
量産タイプの物だったために組み込まれていた術式は神子様の魔力の前には容易に解呪出来る代物だったらしい。
因みに、そのアイテムの使い方は、装着した人間が“主”となる。
そして“主”が触れながら命令を下すとそれには抗えなくなるのだ。
それが隷属アイテムともなるともっと強力で、触れなくても主の命令には全面的に服従になる。
但し、「死ね」とか「殺せ」とかは無効ワードとなっているらしい。
そして神子様の場合与えられた命令は『必ず陛下の元に戻るよう』だったらしい。
「・・・そう言えば、俺何度か神殿に通っているうちにだんだん筆頭司祭と結構話すようになっただろ?おかげで彼も“盗聴”できるようになったんだよ」
その結果、分かった事。
どうやらグレイモスは陛下側から放たれた“不貞要員”ではなく神殿からのそれだった。
最初神子様がそう思ったのは治癒行脚に出ている時にたまたま引率リーダーである彼の上司がグレイモスに「自分のすべきことは分かっているな。必ず神子様のお心を掴め」と命じているのを神子様は聞いてしまった。
つまり神殿は神殿で、実際に神子様が神殿に治癒業務のため通うようになって、初めて圧倒的な聖属性の魔力を目の当たりにし、手に入れたくなった。
あんな統治意識の無い国王に私物化させていても宝の持ち腐れ、むしろ自分たちの方が有効利用出来るし、何よりそうする事によって、弱まりかけていた神殿の権威を取り戻せる・・・と思ったのだ。
しかし、自分たちサイドに抱え込みたいなら「信頼感」とか「正義感」とか「義理人情」とか逆に「利害の一致」とかそういった精神面での繋がりを持つ・・・もっと言えば縛る方法もあるだろうに、なぜこうも短絡的に「肉体関係」をもって縛ろうとするのか・・・とウンザリしたように神子様はため息をついた。
それが一番手っ取り早いからでしょう、俺は応えた。
あと、口には出せなかったが、神子様自身がどことなく・・・唆るのだろう、とも思った。
秋の大規模な治癒行脚に出かける直前に、陛下は神子様にその従属アイテムを装着した。
それ以前から、後宮の籍を抜き神殿に仕えたいと申請していたのに、認めるのか認めないのか曖昧にしながら。
あの流れでは治癒行脚から戻った時には、もう神殿に属するでもいいと思わせるような空気も漂わせつつ。
それでいて従属アイテムに「必ず陛下の元に戻るよう」と命じ。
「実はさ、こないだの小規模な西方面の巡行も陛下がそれはそれはゴネて、なかなか許可が下りなくて大変だったんだよ」
俺が辞職した後の話で、現場に俺がいなかったから神子様は詳しく話してくれた。
もっとも、俺は気になってずっと“盗聴”していたからだいたいの流れは知っているのだが。
陛下がゴネたポイントは主に二つある。
一つは、ここ最近になって陛下の心に芽生え始めた例の疑念だ。
今まで一度も経験した事の無かった「相手の方が陛下から心が離れて去ろうとしているのかも知れない」という朧気な疑念。常に自分の方が捨てる立場にいた者からしたら容認出来ないのだろう。
なにより神子様にそんな自我を持たせたくなかった。この世界の事を良く知らない、陛下に頼るしか無い異世界人のままが望ましかった。ヘタに自分の知らないところで見聞を広げられても厄介だと思ったのだろう。
そして、もう一つは。
今回の神子様巡行パーティを率いるグレイモスの存在。
実はグレイモスは元々、先代の王の子だったのだ。
つまりは現国王の異母弟となる。
未亡人となり出戻った侯爵令嬢を後宮には入れず侯爵家で逢瀬を重ね出来た子供で、王子とは認められなかった。だが公然の秘密だ。
何よりも彼の限りなく白髪に近い銀髪や、青灰色の瞳もその怜悧な美貌も、賢王で名高かった先々代国王の若かりし頃の面影が色濃いらしい。
そして件の賢王の時、最も国内が安定し、神殿と王宮のバランスも取れていたときだったという。
それだけでも陛下としては心中穏やかでは無いだろう。
しかも。
今回の巡行に関しては彼が主導である事もあり、完全に神子様を神殿の要人扱いで「尊き存在である神子様のご意向に沿うのが当然。反対するなど愚かにして横暴!」という論調であり、陛下や宰相は不快感を隠さなかった。
そんなくらいだったから、王宮側は巡行の直後に失踪した事で神殿側が何か唆したのだろうと責めたて、神殿側は王宮の警備の甘さや後宮での扱いの低さを責め立てた。
お互いに相手が何らかの方法で神子様を匿って居るのだろうとも言い合って、対立は激化の一途らしい。
「かなり焦ってるらしく、連中、君の所にも捜査官よこすつもりらしいよ」
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