釣った魚、逃した魚

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#26 出産祝い

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姉の出産は夜から朝方にかけてだった。

知らせはまだ無かったが神子様は時折気にかけて義兄や義家族の会話を“盗聴”し、いよいよという時に「今夜あたり産まれそうだよ」と伝えてくれた。

翌朝早朝に義兄から渡されていた通信アイテムから連絡が届いた。

早朝の、凍てつく寒さの中。息が視界を遮るほど白い。
馬の準備に行こうとしたら「今日は特別。お祝いだから」とタカに呼び止められて両手を差し出された。

その手の意味が分からず戸惑っていたら俺の両手を取って魔力を流し込まれた。

少しだけくらりと目眩に似た感覚に襲われる。
見ると、足元と頭上に同じ魔法陣が光って上下に挟まれていた。
目も開けてられないほど強い光に包まれたと思った途端ふわっと重力を失った感覚があった。
次の瞬間足底にズシッと重力が戻る。

気がつくとストグミク市郊外の義兄宅の庭だった。

「えっ!こんなに早く?」
迎え入れてくれた義兄の姉が仰天した。

「タカの魔法で転移してきたんだ」
そんなひどく雑駁な説明でも家中が双子誕生祭りでバタバタしているから「タカ君の魔法って凄いんだねえ」程度で流された。

どうやら義母と義兄以外はまだ姉の戦場跡には入れてもらえてなかったみたいだけど特別に俺は入れてもらえた。
姉は疲労は漂わせていたけど満たされた顔をしていた。

本宅の方からも出産の手伝いに来ていたメイドやあれこれ指示を出している産婆さんや助手が嬰児のケアや事後処理でバタバタしていた。一応祝福の言葉だけ告げて俺はサロンの方に出て行った。

そこで義家族の男達と一服していると子供達が寝着のままバタバタと階段を駆け下り廊下を走って現れた。

「あっマクミラン叔父さんとタカお兄ちゃんだ」

「赤ちゃん産まれたの?」

「どっちだった?妹だった?」

急に賑やかになった。
彼らの背後からはメイドが「お着替えしてからですよッ」と追いかけてきた。
「やだやだ赤ちゃん見に行くー」ともがく子供達を両脇に抱え込み連れ戻そうとするメイドの額には汗が流れていた。

「赤ちゃんは生まれたばかりでとっても弱いから顔も洗ってない子とは会わせられないんだよ。顔も手も綺麗にしっかり洗って清潔になってからじゃないと会えないよ?」

タカにそう言われたら急に「そうなのっ?」と真剣に驚き「じゃあ急いで洗ってくる!」と、今度はメイドに「急いで急いで」と今来た階段の方を指さし走って行く。

暫くすると義母と義兄がサロンにやって来た。
あまりずっと張り付いていると疲れちゃうからね、と言いながらも義母は待望の女児誕生、しかも双子!に、わくわくが止まらない様子だった。

俺が立ち上がって義母と義兄、そして義父に「おめでとうございます」と言葉を述べるとすかさずタカがマジックバッグから何やら包みを出して「おめでとうございます。コレ、お祝いです」と義兄に渡していた。

ピンクの可愛いリボンが付いている。いつの間に用意したのか俺は知らない。

「こちらの商会にももっと良い品は沢山有るとは思ったのですが、俺達からの気持ちですから」
中にはクリームイエローとベビーピンクの肌触りの良いタオルやリネンセットが全て二組ずつ入っていた。

やや落ち着いた頃に、二人くらいずつ姉の部屋に通されて赤ちゃんとのご対面をさせてもらった。
お兄ちゃんになる姉のところのチビどもは勿論だが、義家族のところの子供達も「ちっちゃかったー」「まっかっか」「まだおめめ見えてないんだってー」などなど大興奮で。

おくるみに包まれて居る状態で俺もタカも少しだけ抱かせて貰った。
タカの笑顔は今まで見たどの笑顔よりも自然で嬉しそうで、連れてきて良かったと本当にそう思った。

義家族の勧めもあってその日はお祝いを兼ね宿泊する事になった。

部屋は二人部屋だった。・・・まあ、前回もそうだったのだが。
多分気を利かせてくれたのだろうとは思うが。
前回泊まったときにはツインだったのに、今回はダブルだった。

あまりの事に俺はソファで寝ようとしたがタカが「ダメだよ。気にしないから一緒に寝な」と片側に寄って空いたスペースをポンポンと手で叩いた。
「い、いえ・・・俺は気にしますから・・・」
「襲ったりしねえよ」

・・・そっちではなく・・・。

「とっとと来いよ。寒いだろ!」
なかなかベッドに行く勇気が出ずもじもじしている俺に呆れたように言い捨てて自分だけ布団をかぶって眠る体勢に入ってしまった。

そのうちスースーと寝息が聞こえてきたから決意を固めておずおずと布団に入り込んだ。
落ちそうなほど端っこに寄って。

そのうちに背後から聞こえる寝息が乱れて、時折小さなうめき声が聞こえてきた。
少し、体も時折強ばっているようにも感じる。

うなされている。

確か、再開して最初にこの義兄宅に泊まったときも神子様は少しうなされていた。
その時は比較的すぐに収まったし、後宮での記憶に苛まれてしまっているのだろうと思って、俺の知る後宮暮らしの日々を回想し始めてやり過ごしてしまったのだけど。

今度はなかなか収まらずに苦しそうだった。
思わず宥めようと伸ばした手が、神子様に触れそうになった瞬間、急激に同じベッドに居る現実を意識してしまった。

触れてしまったらお終いな気がした。自分の自制心に自信が持てなかった。
結局、神子様の状態が平常に戻るまで一定の距離を保って見つめているしか出来なかった。

・・・殆ど眠れなかった。

朝、朝食をご馳走して貰った後、すぐに戻ろうとしたら又チビ達にまとわりつかれた。
勘弁してくれ。寝不足なんだ。討伐の時とは全く別物の疲労感なんだ。

それでもチビ達は俺を許してはくれなかった。
タカはメイド達に捕まって生活魔法の先生をさせられていた。魔法好きのチビもそのうち加わる。
地味なタカの姿になっているにもかかわらず、メイド達の中には明らかにタカに秋波を送っている者も居た。

帰るタイミングを逃していたら、執事が飛び込んできて「公安局の方々が!」と家長である義父と俺に視線を巡らせて告げた。
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