釣った魚、逃した魚

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#48 ヘリ…?

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 冬場は雪に埋もれるハズレの村でも、緑が眩しい季節になって来た。

家々のポーチを飾る花壇や垣の花の彩りも目に鮮やかだ。

俺とタカは騎馬で義兄宅に向かった。
双子はだいぶお猿を脱してきていた。小さな小さな手が、何かを掴もうとして握られてバタつく。
当たり前なんだが、ひとつひとつに小さい粒みたいな爪が付いていたり、指紋が有るのが何とも不可思議で面白い。
タカは顔を近づけてわざとはたかせては、涎まみれにされて笑っていた。

ひとしきり双子を冷やかした後は、少しの間チビ達のお相手をした。
ややハード目に相手をしたせいでか、結構早めにお昼寝に入った。
その隙に俺達は、義兄に会う。

義兄に対して頼みが有ったからだ。
それはナタリー妃の家族の事。

ちょうど、王都に展開していた店舗を、予め決めていた帳簿上の締め日に併せて『一時休業』として閉め、買掛金や従業員達の賃金など精算してから、派遣していた部下達を残り全員引き上げさせる段取りになっていた。

さすがに王都の店舗だけあって、義兄の父親である現会頭肝いりで展開していた事業なだけに、派遣人数も多かった。
中には家族共々王都に移住していた者も居り、大部分は既に順次帰郷させているとは言え、商品の残りや家財道具なども含むと、長い馬車列で戻って来る事になる。
そこに護衛のために傭兵を雇ったりするのだから大所帯の移動となる。

その一団に、ナタリー妃の家族も同行させて欲しいという話だ。
とはいえ、それが神子様の頼みで有る以上、否やは無い。

因みに、そんな動きを見せているのはグリエンテ商会だけではない。
本拠地が地方にあり、事業拡大で王都に店舗を展開していた商会は次々と撤退を始めている。
他国資本の商会はもっと素早かった。そして、そういう所は多くの場合、諸々未精算の上でのトンズラだった。
街のあちこちには日に日に失業者が溢れた。しかも彼らはそれまでの労働の報酬を手にする事が出来ず、明日のパンすら買えない状態だった。

義兄は、王都の店舗を後にする部下達に、そこに保存の利くパンや穀物、乾物類を山積みにして出てくるように指示していた。

グリエンテ商会は、姉が嫁に行ってからグングンと成長を遂げ、王都以外にも国内の主立った都市には店舗を展開していたが、いずこも同じように少しずつ撤退をさせ始めている。

「それだけの人間がこぞってコンセデス領になだれ込んだら、急激な人口増加ですね。グリエンテ商会関連の人に限らず、危なげな他領の都市部を逃れて来る人は多いでしょうから」
神子様が宙を見て、群衆をイメージしながら呟く。
「もともと領土が広い割に手つかずの地域も多かったし、それは領主と相談済みです。隣国や更にその隣の国にも、既に移住エリアを申請の上確保してありますしね」
義兄は笑って親指を立てた。

コンセデス領が常に安定しているのは、領内最大手の商会であるグリエンテ商会が、早々に自国の王都を中心とした流通よりも、隣国との取引を優先して、物資の供給を安定化させたからである。供給が安定すれば物価も安定し、領内経済の循環が安定していれば雇用も安定する。
地勢的に、辺境すなわち隣国との境界に有り、しかもこのコンセデス領の隣接国は二カ国有る。

長い境界を接している方は小国で、4カ国と接しているために、流通の結節点としての役割を果たす事で経済発展してきた国だ。
そもそもコンセデス領は、そちらの王都の方が自国の王都より、ずっと近い。

しかもこの小国、どこかの国が併呑しようとすると、他の隣接国とにらみ合わなければいけないという地勢にある事で守られている。故にどの国とも交易はしやすく、この小国から更にもう一つ先の国まで容易くいける。

その隣国の利点を生かし、グリエンテ商会は王都への進出も図りながら、隣国へも、そして隣国経由で、更に先の国へも版図を広げている。

もう一方の国は、境界線が非常に短い上、地形的に魔の森や断崖に接し、魔の森や魔獣の扱いに一日の長があるウチの方が有利である事は、過去紛争を起こした経験則から分かっている。当然そちらへも版図を広げ済みだ。

義兄と神子様の相談で、ナタリー妃の家族は、出産後安定したら隣国へ向かわせる手はずになっている。
近々断罪される国王の、寵妃だったのだ。後宮を無事脱出出来ても国内で過ごすのはリスクが高い。
本人も家族も元々が平民だ。働き口さえサポートしてあげればいい。隣国はこの国の言葉が通じるし。

そこまで話は出来ていて、万全は期しているはずだが、タカはどこか緊張している。
訊いてみたら、最も懸念している事は、ナタリー妃が身重な事だった。
妊婦を転移はさせられない、という。

王都からコンセデス領まで、一般人が馬車でゴトゴトやって来るには急ぎ足でも一週間はかかる。妊婦への体の負担を考えたら10日を下る事はないだろう。

「ああ、ヘリがあったら良いのに…」
「ヘリ?」
「ヘリコプター。ドクター・ヘリみたいな病人を運べるヤツ」
「へりこぷ…?」

「こう、空を飛べる乗り物だよ。くるくるプロペラを回して宙に浮いて…」
地面に絵を描きながら説明をし始めた。
乗り物?妙な形だが。オタマジャクシの頭から傘が出ているかのような‥‥‥。

転移はダメだけど、空を飛ぶのは良いのか。
…確かに、転移魔法は屈強な騎士でも、なれないウチは内臓にかかる負担が半端なく、気持ちが悪くなったり目眩がしたりするから良くなさそうだが。

「空を飛ぶのはあり、と言うのでしたら、物資運搬用の飛竜とかが使えれば良いのですが」
我が国でも最近は緊急時の物資運搬に試験的に使われるようになって来た飛竜。

ただ、調教済みの使役出来る個体も少なく、扱うのには竜騎士免許が要る。俺は持っているが。

ちょうど、兵役の後半戦、あの最低な遊びをしなくなった頃に、希望者は竜騎士講習を受けられることになった。かなり狭き門の試験で、あの後も2~3年に一人か二人しか合格しないようだが…。

ちょっとその事を話したらタカに抱きつかれた。
「さすがは俺のミラン!愛してる!!」

義兄や、周りで作業をしていた従業員達には生暖かい眼差しで見られた。
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