釣った魚、逃した魚

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#50 ナタリーファミリー救出作戦

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 まだ後宮に居たときのこと。

神子様が秋の治癒行脚から帰還し、再び冬場に、今度は西側方面の巡行に出かけようという前、ナタリー妃は手作りのお守りをくれたのだという。

秋の治癒行脚で立ち寄った、これと言った特徴の無いありふれた山間の村、ムサヴ村。
ナタリー妃の両親の出身地だという。
その地方では、一家の大黒柱である父親が、冬場都市部に出稼ぎに行く事が多く、春が来るまで家族とは離ればなれになる。

妻や娘などは、あまり布や古着を解した布を撚って紐状にし、それを編んで腕に巻けるお守りを作って渡すのだという。
地域に伝わる、家族の安全を祈ったお守りだ。

「風邪なんか引かないように気を付けて、頑張ってね」と言って渡されたそうだ。

神子様は「ミサンガみたい。ミサンガそっくりなんだよ」と嬉しそうに見せてきた。
元の世界にも似たようなお守りがあるらしい。

ナタリー妃の家族を迎えに行くのは、王都で働いて居たグリエンテ商会の商人だ。
ただ、その見知らぬ身ぎれいな商人が、いきなり『お姉さんの使いで迎えに来ました。一緒に、遠いコンセデス領まで行きましょう』と言ったところで胡散臭いだけだ。

神子様は最初の頃、まだ町娘だったナタリーに、変装して接触した。
ほんの少し魅了の力を付与したアクセサリーを渡して「あの店に良くお忍びで身分の高い貴族が来る。上手く気に入られれば、玉の輿に乗れるよ」と教えてあげた。そのあと、陛下がお忍びで出かける時には、都度その情報を同じ変装で届けに行った。
その際、神子様は「クラミ」と名乗っていた。

ナタリー妃の家族を迎えに行く際、神子様が貰ったミサンガ(?)を持たせて「クラミという人から、お姉さんの伝言を頼まれた」と伝えるように指示した。

――――――いつか玉の輿に乗って、あんた達に美味しい物、お腹いっぱい食べさせてあげる

――――――何だか凄いお金持ちが釣れそうよ。クラミさんの言うとおりだったわ!

――――――本当に、上玉のお貴族様のお妾さんになれそう!みーんなクラミさんのおかげね

姉のそんな言葉を何度も聞いていた弟妹達は、使いを託された商人の見せた、姉の手作りのお守りと『クラミ』という名前を聞いて、信用してくれたのだ。
一応、クラミがナタリーに親切にするのは、昔、旅の占い師であるクラミが路頭に迷っていたときに彼女の母親に助けてもらった、という設定にしてある。

因みにナタリー妃の両親はもう居ない。母親は他界しており、父親はナタリーが後宮入りするほぼ一年前に蒸発している。




一方、ナタリー妃の方には、神子様が接触を試みている。
ただ、目下、最も陛下の寵愛が著しいのは彼女だ。ましてや身重である事も手伝い、常に身の回りには誰かがいる。
接触は難航していたが、とうとう神子様はランドリールームに忍び込み、お仕着せの衣装をこっそり着て、侍女のフリをして接触に成功したらしい。

ナタリー妃宛に弟妹からの手紙を預かり、それを渡しながら「近い将来王城に、反乱軍によるクーデターが押し寄せます。おそらく、後宮も占拠され、どのような扱いを受けるか分かりません。必ず助けに来ます。そして、ご弟妹のもとにお連れします。信じて待っていて下さい」と伝えて、魔石の嵌まったブレスレットを渡した。

物理・魔法、いずれの攻撃も弾き、その魔石の帯びる魔力で、どこに居ても神子様には探知出来る仕様になっているらしい。

ただ、身重のナタリー妃を転移させる事が出来ないということで、最も良いのは飛竜で運べればと言うことだったのだが。

飛竜を確保する方法は慎重にやらなければならない。
我が国で使役が可能な調教済みの飛竜は、非常に数が少ない上、飛竜そのものも、飛竜を使役操作できる者も、その管理を統括しているのは王兄殿下なのだ。

無理だった場合、馬車で運ぶ事になる。馬車の振動が妊婦の体にどれくらいの負担をかけるかは、分からない。姉に訊いても「良くないのは確かだけど、度合いは本当に人それぞれだから。テレサなんかは結構、あのガタついた荷馬車で買い物に出て来ていたけど、元気な子を産んでいるしね」と曖昧な答え。
そう言えば俺が子供の頃、騎士崩れのおじさんの奥さんは、魔獣が出た時、妊婦なのに投石器で火炎魔法乗せた岩をガンガン投げてたっけ。

いや、そもそもハズレの村の住人を基準にしてはいけないのかも知れない。

取りあえず、馬車で運ぶときには、風魔法のクッションを使って衝撃を消す様にするとタカは言っていた。
ただ、馬車移動だと、万が一途中で検問に遭ったり、暴動に巻き込まれたりしたら足止めを喰らう事が予想される。
ナタリーの正体がばれたら、荒事に発展する可能性も有る。

飛竜を用いれば、そこら辺は全て突破出来るし、馬車で10日ほどもかかる行程も、おそらく一両日中には到着出来る。まあ、出発の時間帯にもよるが。

タカは第一候補を飛竜にしている。俺もそれが一番良いとは思って居るが、もし確保するために王兄殿下と接触しなければならないならば、選択肢から外した方が良い。
そう伝えた。

「そもそも、飛竜ってどこに居るの?訓練機関が有るって事は王都の中に竜舎が有るって事?」

「王城から西北に大規模訓練区域があります。兵役の際に、実践さながらの戦闘訓練を行えるようにかなり広い敷地や設備を国営で管理しています。その奥に竜舎が有ります。かなり高い塀で囲まれている上に、警備も厳重で、その中でも竜騎士免許か、特別飼育員免許を持っていないと入れない区域になっています」

「でも、君、免許持っているんだよね?騎士爵を返上してもその免許は有効なの?」

「勿論です。兵役の際に取った全ての免許は、騎士職を退いた後も、本人がわざわざ返上するか、刑罰による抹消をされない限りは生きています。現役から事実上離れても、冒険者登録が抹消されないのと同じです」

「え…じゃあ、イケるんじゃ無い?」
神子様は、かなり悪い笑顔で艶然と微笑んだ。

ナタリー妃の弟妹達は、商会の帰還組と共に、とっくにコンセデス領に向け旅立ち、行程もほぼ順調に進めているという報告を受けた。
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