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#51 作戦実行
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「王妃の実家である、オシドヴァ公爵家が動いたよ。今夜、夜襲をかけるみたいだ」
冒険者や村人の治癒のために、タカは最近ではもう、村に居る間は中央集会所の一角に診療スペースを設置して対応している。
少年達の指南を終え、迎えに行った帰り道、人気が無くなった辺りで切り出された。
「思ったよりも…早い…ですか?」
「うん。…どうも、王兄殿下、あの時俺に言われた事、気にはしていたみたい。
暴動を何とかしなきゃとは思ってくれたみたいね。
取りあえず、増税宣言より早くという予定ではあった様子。
いや、これで増税宣言発布されたら、又凄い勢いで暴動が膨れ上がりそうだったからね。
神殿や地方貴族に関しては、ほぼほぼ掌握済みだったんだけど、王宮騎士団やら貴族院の国王派の取り込み度合いが、殿下の納得いく水準じゃなかったとかで、もう少し時間をかけたかった様子なんだよ。
彼の理想としては、血を流さずに乗っ取りたかったみたい。でも結局、血を流さず済ますのが無理な感じだね。
暴動を激化させないためにも、増税宣言前というタイムリミットがあり、オシドヴァ公爵にしてみると娘の廃妃の前に、というタイムリミットが有りで、どうしても急ぎたい連中にガマンさせるよりは、予定を早めて身内の分断を避けたって感じかな」
俺が辞職して王都を去るときに、送別会をセッティングしてくれた仲間達の中には、オシドヴァ公爵家に帰属している騎士が数名居た。
勿論殆どは王都配属騎士だ。中に何人か王宮騎士が居る。
王都配属はその殆どが平民か下位貴族であり、王宮騎士は貴族出身だ。
以前の仲間が、敵同士になって斬り合う事になるのは、それが職務だと思ってもやるせない気持ちになる。
魔獣や他国との紛争で、民の為に命をかけるのならばともかく、ろくでなしの王侯貴族達のためにあいつらの命が犠牲になるのか。
帰路の道を踏みしめる足元を見ながら、黙って足を運んでいると、横合いから神子様がそっと手を握ってきた。
「間に合えば良いけど。急ごう」
急ぎ、装備を調え、神子様の手を取り、王都へと転移した。転移先は王城の西北側。
「じゃあ、頼んだよミラン。星見の塔で待ってるから」
その言葉を残して神子様は再び転移で姿を消した。
俺はここから義兄の商会で貸しだしてくれた魔道具、隠蔽のマントを羽織って特別訓練区域に走る。一応、身体強化をかけてもらったから坂道を駆け上るのも早い。
背後の王城の方からは、地鳴りのような鬨の声が聞こえた。何かがぶつかるような音もしている。
逆に、向かっている坂の上からは武装した兵達が慌ただしく駆け下りて来て、俺の横を素通りしていく。
兵役中の訓練兵達も、有事という事で出動命令が発動されたのだろう。
隠蔽のマントで、俺の姿は彼らには見えなくなっている。
特別訓練区域から走り出てくる一団が出尽くすまで物陰で待つ。
イヤーカフからは「神子様ッ?」というナタリー妃の声が聞こえた。
「大丈夫だよ。彼らには少しの間気を失ってもらっているだけ。これを羽織って」
神子様の声。
おそらくナタリーに付いていた侍女や護衛騎士を気絶させたのだと思う。
そしてナタリー妃には、神子様が持っていた隠蔽のマントを羽織らせたのだろう。神子様自身は自分で認識阻害魔法を使って身を隠す事が出来るから。
遠い喧噪を聞きながら、二人が足早に廊下を歩く気配が伝わる。扉を開ける音。
「しっかり掴まって」と言う神子様の声の後にナタリー妃の、きゃあと言う悲鳴が聞こえる。
「み、神子様!見かけによらず力持ちなんだ!」
「風魔法を使って浮かせているからね。転移は細胞レベルで一瞬状態異常になるから妊婦には無理だけど、浮かせる分には大丈夫。でも具合悪くなったらすぐ言ってね」
「うわ、うわ、うわ‥‥‥」
「高いところ怖い?大丈夫だよ。落っこちたりしない。絶対。怖かったら目をつぶっておいで」
「ううん。星が近くて、王都の灯りが見えて綺麗。でも、正殿の方が何か大騒ぎになってる。あの沢山動いている灯りは松明?」
「うん。それは後でね。さあ、星見の塔だ。悪いんだけどここでちょっと待っててくれる?大丈夫。君に異変を感じたらすぐに飛んでくるから。寒くない?…今日はここに昇ってくる人は居ないから安全だよ。ちょっとの間一人になっちゃうけど、ゴメンね。お腹の調子大丈夫?」
「全然!このあと脱出して弟妹たちに会いに行けるんでしょ?大丈夫!おとなしく待ってる。あ、ほら、ちゃんと普通に椅子も有るし。いってらっしゃーい!」
そんなナタリー妃の声が遠くなって一旦音声が途切れた。
この後、神子様がどこに行くつもりだったのかは聞いていない。だが、きっと神子様自身の“盗聴”で、何か対処の必要を感じた事が有ったのだろう。
そうこうしているうちにゾロゾロと走り出していた兵士達の波が途切れた。
俺は隠蔽のマントを物陰で外し、ゲートを閉めようとしている門番の前に小走りで近づき「討伐褒章」と「特別兵具取扱許可証」を提示しながら「ご苦労様です」と声をかけた。
「えっ!デスタスガス騎士殿?王都にお戻りだったのですか?辞職されたと聞きましたが」
「ああ、ちょうど用事があって王都に来ていたらこの騒ぎで、招集をかけられてしまったんだ。装備が足りていないから調達させてくれ」
もちろんです、どうぞ!と、問題なく入れてもらえた。
尤も、黄金の「討伐褒章」は討伐の際に活躍した騎士に下賜される記章で、謂わば英雄の証だから、これを見て訓練施設への入場を拒める門番はまずいない。
「ありがとう」と言う言葉を残して俺は敷地内に走り込み、更に奥を目指した。
途中途中のゲートはこの手で次々と通過して、いよいよ最奥の「飛竜騎乗訓練区域」の門にたどり着く。
そこで提示するのは「竜騎士免許」と先ほどの記章だ。
ここの門番にも俺は既に引退している事は知られている。だが、「竜騎士免許」保持者はあまりにも希少な為、引退した者とて有事の際は、特別な物資、あるいはやんごとなきお方を搬送する必要が生じた場合、緊急で招集されたりもする。
暴徒が王城に押し寄せたのはもう知っているから、門番はむしろ急かすくらいの勢いでゲートを通してくれた。
冒険者や村人の治癒のために、タカは最近ではもう、村に居る間は中央集会所の一角に診療スペースを設置して対応している。
少年達の指南を終え、迎えに行った帰り道、人気が無くなった辺りで切り出された。
「思ったよりも…早い…ですか?」
「うん。…どうも、王兄殿下、あの時俺に言われた事、気にはしていたみたい。
暴動を何とかしなきゃとは思ってくれたみたいね。
取りあえず、増税宣言より早くという予定ではあった様子。
いや、これで増税宣言発布されたら、又凄い勢いで暴動が膨れ上がりそうだったからね。
神殿や地方貴族に関しては、ほぼほぼ掌握済みだったんだけど、王宮騎士団やら貴族院の国王派の取り込み度合いが、殿下の納得いく水準じゃなかったとかで、もう少し時間をかけたかった様子なんだよ。
彼の理想としては、血を流さずに乗っ取りたかったみたい。でも結局、血を流さず済ますのが無理な感じだね。
暴動を激化させないためにも、増税宣言前というタイムリミットがあり、オシドヴァ公爵にしてみると娘の廃妃の前に、というタイムリミットが有りで、どうしても急ぎたい連中にガマンさせるよりは、予定を早めて身内の分断を避けたって感じかな」
俺が辞職して王都を去るときに、送別会をセッティングしてくれた仲間達の中には、オシドヴァ公爵家に帰属している騎士が数名居た。
勿論殆どは王都配属騎士だ。中に何人か王宮騎士が居る。
王都配属はその殆どが平民か下位貴族であり、王宮騎士は貴族出身だ。
以前の仲間が、敵同士になって斬り合う事になるのは、それが職務だと思ってもやるせない気持ちになる。
魔獣や他国との紛争で、民の為に命をかけるのならばともかく、ろくでなしの王侯貴族達のためにあいつらの命が犠牲になるのか。
帰路の道を踏みしめる足元を見ながら、黙って足を運んでいると、横合いから神子様がそっと手を握ってきた。
「間に合えば良いけど。急ごう」
急ぎ、装備を調え、神子様の手を取り、王都へと転移した。転移先は王城の西北側。
「じゃあ、頼んだよミラン。星見の塔で待ってるから」
その言葉を残して神子様は再び転移で姿を消した。
俺はここから義兄の商会で貸しだしてくれた魔道具、隠蔽のマントを羽織って特別訓練区域に走る。一応、身体強化をかけてもらったから坂道を駆け上るのも早い。
背後の王城の方からは、地鳴りのような鬨の声が聞こえた。何かがぶつかるような音もしている。
逆に、向かっている坂の上からは武装した兵達が慌ただしく駆け下りて来て、俺の横を素通りしていく。
兵役中の訓練兵達も、有事という事で出動命令が発動されたのだろう。
隠蔽のマントで、俺の姿は彼らには見えなくなっている。
特別訓練区域から走り出てくる一団が出尽くすまで物陰で待つ。
イヤーカフからは「神子様ッ?」というナタリー妃の声が聞こえた。
「大丈夫だよ。彼らには少しの間気を失ってもらっているだけ。これを羽織って」
神子様の声。
おそらくナタリーに付いていた侍女や護衛騎士を気絶させたのだと思う。
そしてナタリー妃には、神子様が持っていた隠蔽のマントを羽織らせたのだろう。神子様自身は自分で認識阻害魔法を使って身を隠す事が出来るから。
遠い喧噪を聞きながら、二人が足早に廊下を歩く気配が伝わる。扉を開ける音。
「しっかり掴まって」と言う神子様の声の後にナタリー妃の、きゃあと言う悲鳴が聞こえる。
「み、神子様!見かけによらず力持ちなんだ!」
「風魔法を使って浮かせているからね。転移は細胞レベルで一瞬状態異常になるから妊婦には無理だけど、浮かせる分には大丈夫。でも具合悪くなったらすぐ言ってね」
「うわ、うわ、うわ‥‥‥」
「高いところ怖い?大丈夫だよ。落っこちたりしない。絶対。怖かったら目をつぶっておいで」
「ううん。星が近くて、王都の灯りが見えて綺麗。でも、正殿の方が何か大騒ぎになってる。あの沢山動いている灯りは松明?」
「うん。それは後でね。さあ、星見の塔だ。悪いんだけどここでちょっと待っててくれる?大丈夫。君に異変を感じたらすぐに飛んでくるから。寒くない?…今日はここに昇ってくる人は居ないから安全だよ。ちょっとの間一人になっちゃうけど、ゴメンね。お腹の調子大丈夫?」
「全然!このあと脱出して弟妹たちに会いに行けるんでしょ?大丈夫!おとなしく待ってる。あ、ほら、ちゃんと普通に椅子も有るし。いってらっしゃーい!」
そんなナタリー妃の声が遠くなって一旦音声が途切れた。
この後、神子様がどこに行くつもりだったのかは聞いていない。だが、きっと神子様自身の“盗聴”で、何か対処の必要を感じた事が有ったのだろう。
そうこうしているうちにゾロゾロと走り出していた兵士達の波が途切れた。
俺は隠蔽のマントを物陰で外し、ゲートを閉めようとしている門番の前に小走りで近づき「討伐褒章」と「特別兵具取扱許可証」を提示しながら「ご苦労様です」と声をかけた。
「えっ!デスタスガス騎士殿?王都にお戻りだったのですか?辞職されたと聞きましたが」
「ああ、ちょうど用事があって王都に来ていたらこの騒ぎで、招集をかけられてしまったんだ。装備が足りていないから調達させてくれ」
もちろんです、どうぞ!と、問題なく入れてもらえた。
尤も、黄金の「討伐褒章」は討伐の際に活躍した騎士に下賜される記章で、謂わば英雄の証だから、これを見て訓練施設への入場を拒める門番はまずいない。
「ありがとう」と言う言葉を残して俺は敷地内に走り込み、更に奥を目指した。
途中途中のゲートはこの手で次々と通過して、いよいよ最奥の「飛竜騎乗訓練区域」の門にたどり着く。
そこで提示するのは「竜騎士免許」と先ほどの記章だ。
ここの門番にも俺は既に引退している事は知られている。だが、「竜騎士免許」保持者はあまりにも希少な為、引退した者とて有事の際は、特別な物資、あるいはやんごとなきお方を搬送する必要が生じた場合、緊急で招集されたりもする。
暴徒が王城に押し寄せたのはもう知っているから、門番はむしろ急かすくらいの勢いでゲートを通してくれた。
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