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#97 屋根の上の刺客
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侍女がガクガクしながら誘導する方に向かうと、もう一人の侍女が腰を抜かして居るのが見えた。
その奥の一角で、二人の騎士が倒れている姿が有った。
オースティンはかなり深い切り傷を無数に受け、血を流して俯せに倒れていた。その手には折れた剣が握られている。
彼の倒れている少し後ろに、おそらく壁にたたきつけられたらしきゼノが、メルヒオル大使の体を包むように抱きかかえ、大量の血反吐を吐いて倒れて居る。
ゼノに覆われて、遠目からはメルヒオル大使の姿が見えなかったほどだ。
メルヒオル大使に外傷はないが、どう見ても何らかの衝撃を受けて気を失っていた。
シモン様の姿だけが無い。
状況から判断するに、敵は風魔法を使う者だろう。
オースティンの傷は風刃によってつけられたものだ。
多分先に相手に立ち向かった。背後の二人を庇って。
オースティンが倒れた後、後ろの二人が同時に爆風で壁にたたきつけられたのだと思う。
その際にゼノは、とっさにメルヒオル大使を胸に抱え込み、自分がクッションになったのだ。
シモン様の姿が無いという事は、連れ去られたに違いない。
最初からシモン様が目的だったのか?
その場にかなり強力な魔法を使った痕跡があったから、その魔法の残滓をたどって神子様は指を指した。
「離宮の奥の林から外に出た!それほど遠くには行っていない!道なりの突き当たりは倉庫群だ。追って、ミラン。俺は彼らを治したら行くから」
その言葉が終わらないうちに俺は走り出す。
走り始めた直後に、背後から神子様の強化魔法を投げかけられたのを感じた。
メルヒオル大使は見たところ目立った外傷はなかったから失神しているだけのようだが、ゼノとオースティンは、どちらも状態はかなり厳しい。神子様の治癒でも即座に治るという訳には行かないだろう。
あまり得意では無いなりになんとか魔法の残滓を追う。
かなりの魔道士ではあるが、転移はできないらしい。それは幸いだった。
これで、転移ができる相手だったら追跡もできなかった。
だが、それは、突如途切れた。
肌にピリッと強い魔力を感じた。追跡されていることに気づいて、残してきた魔力痕を消したのだろう。
だが、ここまで来たら、居る場所にはほぼ目星が付いた。
ただ、その範囲が広大なだけだ。
ややなだらかな坂を上り、鬱蒼と生い茂る繁みのカーブを回りきると、目の前には港までの広大な敷地に、見渡す限りの倉庫群が建ち並んでいた。
その向こうには、巨大なレンガ造りの水産工場があり、聳えるような囲壁で囲まれている。
倉庫の間々には、カートや縄、無造作に纏めた網、コロ用の木材、空箱などが積み上がっている。
真昼の時間帯。倉庫群にはほぼ人気が無く、その静けさが、活気あるべきこの場所にそぐわなくて奇妙に感じた。
何のことは無い。
本日は我々の会談があり、二国の国王という国賓が対峙する重要なイベントがある故に、周辺の通行が完全に封鎖されており、その間の経済活動も規制されていたからだ。
だからか、工場の煙突からは煙が一切出ていない。
頭上を見ると、何頭もの飛竜が、竜騎士を乗せて旋回していた。
ガヌ公国は島嶼国家である故に、古くから飛竜の使役が当たり前だった国だ。
そうか。
魔力をたどれないなら、上空から目視で探せば良いのでは無いか。
俺は指笛を吹いて飛竜の意識をこちらに向かせ、騎乗している竜騎士に大げさに手を振った。
そして、同乗させてもらい、上空から建物の隙間を素早く捜索していく。
二人乗りさせてもらっている状態だが、通常の現場をよく知る地元の竜騎士の方が、僅かの変化にも気づいてくれるから心強かった。
一棟の倉庫に違和感を覚え、地元竜騎士が近づこうとしたときに、倉庫の一角がチカリと光った。
俺はほぼ本能的に懐の結界玉に魔力を込め割った。
蛇のような火炎が俺の乗る飛竜を襲った。
無論、それを浴びる直前に魔法陣に覆われて無傷ではあったが。
「よしよし、よく我慢してくれた。びっくりさせてごめんな」
俺は飛竜の首を何度もたたいた。竜騎士もほぼ同時に防御魔法を放ったようだった。
だが、これで相手の位置が特定できた。
俺は竜騎士に礼を言って、少し高度を下げてもらったところで、屋根に飛び降りた。
「三人の容態はどうですか?」
俺はイヤーカフから神子様に通信した。先程から、神子様の周辺の音を盗聴しようとしても、うまく拾えなかったから気になっていた。
返事は無かった。返事どころかほぼイヤーカフが機能していない状態だと感じた。
コレはある種の結界なのか?
先程光ったところに犯人がいるとして、そこを中心にして張られているもの?
だが、俺はこうしてその中に入れている?
だが、神子様の魔法サーチには触れない…?
そんなことを考えながら屋根伝いに現場に近づくと、ゴウと音を立てて風弾が襲いかかってきた。俺の体を魔法陣が覆って、風を割り流す。
先程、魔力を通して割った、結界玉の効果がまだ残っていたのだ。
一つで大体10分前後の効果が持続する。
見れば、屋根の上に3人、黒いローブを纏った怪しい連中がいた。
その存在に気づくと同時に、彼らは一斉に攻撃をしてきた。
まずは風刃。オースティンを襲ったもののようだ。瞬時に発動できて、しかも数も多い。
俺の方も風魔法を放つ。
竜巻を起こして風刃を巻き取り散らす。その対処が終わりきらないうちに、別の男から暗器が飛んでくる。
これは普通に物理ではじき返す。
ほぼ同時に、つい今さっきまで30メートルも向こうの屋根に居た、最後の一人が大剣を振りかざして目の前に現れた。
周囲の風を巻き込むほどのスピードで振り込まれた大剣を躱す。
二合ほど刃を交えた後、一瞬脳裏に神子様のお顔が浮かんだが、すぐに振り切って素早く心臓を一突きした。血しぶきが落下の軌跡を残しながら屋根から下へ滑り落ちていった。
身体強化のかかっている足に力を入れ一気に相手の至近距離まで跳び、次の暗器を投擲する体勢を整える前に腹に一撃を入れて、コレも屋根から落とした。
着地点には纏めて積み上げた網があった。
こっちはおそらく、死にはしないだろう。
さて、最後に残ったのは風魔法を使うヤツだ。
その奥の一角で、二人の騎士が倒れている姿が有った。
オースティンはかなり深い切り傷を無数に受け、血を流して俯せに倒れていた。その手には折れた剣が握られている。
彼の倒れている少し後ろに、おそらく壁にたたきつけられたらしきゼノが、メルヒオル大使の体を包むように抱きかかえ、大量の血反吐を吐いて倒れて居る。
ゼノに覆われて、遠目からはメルヒオル大使の姿が見えなかったほどだ。
メルヒオル大使に外傷はないが、どう見ても何らかの衝撃を受けて気を失っていた。
シモン様の姿だけが無い。
状況から判断するに、敵は風魔法を使う者だろう。
オースティンの傷は風刃によってつけられたものだ。
多分先に相手に立ち向かった。背後の二人を庇って。
オースティンが倒れた後、後ろの二人が同時に爆風で壁にたたきつけられたのだと思う。
その際にゼノは、とっさにメルヒオル大使を胸に抱え込み、自分がクッションになったのだ。
シモン様の姿が無いという事は、連れ去られたに違いない。
最初からシモン様が目的だったのか?
その場にかなり強力な魔法を使った痕跡があったから、その魔法の残滓をたどって神子様は指を指した。
「離宮の奥の林から外に出た!それほど遠くには行っていない!道なりの突き当たりは倉庫群だ。追って、ミラン。俺は彼らを治したら行くから」
その言葉が終わらないうちに俺は走り出す。
走り始めた直後に、背後から神子様の強化魔法を投げかけられたのを感じた。
メルヒオル大使は見たところ目立った外傷はなかったから失神しているだけのようだが、ゼノとオースティンは、どちらも状態はかなり厳しい。神子様の治癒でも即座に治るという訳には行かないだろう。
あまり得意では無いなりになんとか魔法の残滓を追う。
かなりの魔道士ではあるが、転移はできないらしい。それは幸いだった。
これで、転移ができる相手だったら追跡もできなかった。
だが、それは、突如途切れた。
肌にピリッと強い魔力を感じた。追跡されていることに気づいて、残してきた魔力痕を消したのだろう。
だが、ここまで来たら、居る場所にはほぼ目星が付いた。
ただ、その範囲が広大なだけだ。
ややなだらかな坂を上り、鬱蒼と生い茂る繁みのカーブを回りきると、目の前には港までの広大な敷地に、見渡す限りの倉庫群が建ち並んでいた。
その向こうには、巨大なレンガ造りの水産工場があり、聳えるような囲壁で囲まれている。
倉庫の間々には、カートや縄、無造作に纏めた網、コロ用の木材、空箱などが積み上がっている。
真昼の時間帯。倉庫群にはほぼ人気が無く、その静けさが、活気あるべきこの場所にそぐわなくて奇妙に感じた。
何のことは無い。
本日は我々の会談があり、二国の国王という国賓が対峙する重要なイベントがある故に、周辺の通行が完全に封鎖されており、その間の経済活動も規制されていたからだ。
だからか、工場の煙突からは煙が一切出ていない。
頭上を見ると、何頭もの飛竜が、竜騎士を乗せて旋回していた。
ガヌ公国は島嶼国家である故に、古くから飛竜の使役が当たり前だった国だ。
そうか。
魔力をたどれないなら、上空から目視で探せば良いのでは無いか。
俺は指笛を吹いて飛竜の意識をこちらに向かせ、騎乗している竜騎士に大げさに手を振った。
そして、同乗させてもらい、上空から建物の隙間を素早く捜索していく。
二人乗りさせてもらっている状態だが、通常の現場をよく知る地元の竜騎士の方が、僅かの変化にも気づいてくれるから心強かった。
一棟の倉庫に違和感を覚え、地元竜騎士が近づこうとしたときに、倉庫の一角がチカリと光った。
俺はほぼ本能的に懐の結界玉に魔力を込め割った。
蛇のような火炎が俺の乗る飛竜を襲った。
無論、それを浴びる直前に魔法陣に覆われて無傷ではあったが。
「よしよし、よく我慢してくれた。びっくりさせてごめんな」
俺は飛竜の首を何度もたたいた。竜騎士もほぼ同時に防御魔法を放ったようだった。
だが、これで相手の位置が特定できた。
俺は竜騎士に礼を言って、少し高度を下げてもらったところで、屋根に飛び降りた。
「三人の容態はどうですか?」
俺はイヤーカフから神子様に通信した。先程から、神子様の周辺の音を盗聴しようとしても、うまく拾えなかったから気になっていた。
返事は無かった。返事どころかほぼイヤーカフが機能していない状態だと感じた。
コレはある種の結界なのか?
先程光ったところに犯人がいるとして、そこを中心にして張られているもの?
だが、俺はこうしてその中に入れている?
だが、神子様の魔法サーチには触れない…?
そんなことを考えながら屋根伝いに現場に近づくと、ゴウと音を立てて風弾が襲いかかってきた。俺の体を魔法陣が覆って、風を割り流す。
先程、魔力を通して割った、結界玉の効果がまだ残っていたのだ。
一つで大体10分前後の効果が持続する。
見れば、屋根の上に3人、黒いローブを纏った怪しい連中がいた。
その存在に気づくと同時に、彼らは一斉に攻撃をしてきた。
まずは風刃。オースティンを襲ったもののようだ。瞬時に発動できて、しかも数も多い。
俺の方も風魔法を放つ。
竜巻を起こして風刃を巻き取り散らす。その対処が終わりきらないうちに、別の男から暗器が飛んでくる。
これは普通に物理ではじき返す。
ほぼ同時に、つい今さっきまで30メートルも向こうの屋根に居た、最後の一人が大剣を振りかざして目の前に現れた。
周囲の風を巻き込むほどのスピードで振り込まれた大剣を躱す。
二合ほど刃を交えた後、一瞬脳裏に神子様のお顔が浮かんだが、すぐに振り切って素早く心臓を一突きした。血しぶきが落下の軌跡を残しながら屋根から下へ滑り落ちていった。
身体強化のかかっている足に力を入れ一気に相手の至近距離まで跳び、次の暗器を投擲する体勢を整える前に腹に一撃を入れて、コレも屋根から落とした。
着地点には纏めて積み上げた網があった。
こっちはおそらく、死にはしないだろう。
さて、最後に残ったのは風魔法を使うヤツだ。
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