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#98 捕縛
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風魔法で攻撃してきたのは魔道士だ。
ゼノとオースティンだって、防御のための魔法も使える。
それを突破してあれほどの傷を負わせたのだから、こいつのパワーもかなりのもの。
だが、コイツは物理は無しで魔法攻撃のみの様子。
つまりは、自分の得意とする攻撃魔法が封じられてしまうと、為す術は無い。
俺が近づこうとすると、自分自身に風を纏わせて飛び去る体勢に入る。
だが、逃がす訳には行かない。思い切りジャンプして背後から飛びつき羽交い締めにした。空中で。
焦った敵は、そのまま落下したら自分の命も危ないから、俺ごと風を纏って安全な着地を図った。
容赦なく締め上げて意識を刈り取る。
敵を抱えて着地すると、飛竜騎士が数騎近くに降りたって、どうやら主犯が別の棟に移動したようだと伝えに来てくれた。
倒した刺客たちを竜騎士隊に託して、俺は教えられた棟に向かう。
どうやらあと二人居るらしい。そいつらが、シモン様を担いで移動していったのだと。
その二人のうちのどちらかが、おそらく魔力干渉を途絶し得る魔法を使えるのだろう。
一種の結界魔法の類いなのだろうけれど、神子様のサーチを無効化できるという高度な技だ。
だが、物理の侵入は巧く防げていない。
俺自身が風魔法を使ったり、神子様からの身体強化の効果を使ったりして、その結界の枠内に入ろうとしたら弾かれたのかも知れない。
飛竜によって近づいた時点で魔法を発動してはいなかった。だから入れたのでは無いか。
一度、枠の中に侵入してしまえば、その内部での魔法は使える。
要は本当に外部からの魔法を撥ね除けるためだけの結界という事か。
そして、一つの魔法を使っているときには別の魔法は使えないらしい。
早い話が、あまり制御技術自体は多彩でも巧くもないと見るべきか。強くはあるが。
神子様の身体強化で、通常より鋭くなっている感覚器官が、ある倉庫の近くに寄ったとき人の気配を察知した。
そっと裏手に回り込み、隙間を探す。
関係者では無い彼らが入り込めたのであれば、どこかに隙間があるはずだ。
耳を澄ませる。
ドサリと人が倒れるような音がした。
「おい、何をしてる、魔石に魔力を通しきるまでは倒れるな!おまえにはそれしか能が無いんだから!ちゃんとやれ!」
罵る男の声がする。コモ王国人の話す西クーツ語だ。
ガヌ公国で使われるガネイ語では無い。
倒れた音の主がシモン様では無いかと焦った俺は、とっさに彼らの前に飛び出した。
しかし、見れば倒れたのはシモン様では無く、平民の男で、這いつくばりながらポーションを口に運んでいた。
いや、ある意味ではシモン様も倒れているといえる。
ただ、正確には、シモン様は床に寝かされていた。気を失っているらしく、顔に殴られた痕があり、鼻からも口からも血が流れていた。
携帯用転移魔法陣を床に敷いて四隅に魔石を設置している貴族の男が、俺を見てとっさに慌てて攻撃魔法を繰り出してきた。
風弾だ。
俺が躱すとそのまま背後の壁を粉砕した。
それによって、外に居た竜騎士および警邏にも「ここに居ます」とアピールしてしまい、あっという間に包囲されてしまった。
いち早く平民の男の方は観念してしまったらしく脱力する。
それを見た貴族の男は舌打ちして、とっさにシモン様を引っ張り上げて抱え込もうとした。
おそらく、シモン様を盾にして窮地を脱しようと言う魂胆だろう。
だが、次の瞬間彼はぎゃあっと声を上げてもんどり打った。自分の肩を押さえて。
俺が放った風礫が肩の腱を抉ったからだ。
お貴族様ってのは、ちょっとした痛みにも大騒ぎする。
ぎゃあぎゃあと五月蠅いから、つかつかと寄っていって、物理で蹴りを入れて黙らせた。
ちょうどそいつが気を失ったと同時に、包囲していたガヌ公国の警邏隊や騎士たちが駆け寄ってきた。
現場には、これから転移で逃亡しようとしていた痕跡が明らかだ。
おそらく、神子様の魔力サーチを妨害していたのは、平民の男の仕業。
彼はもうMPが枯渇状態だったのだろう。ほとんど意識も無くぐったりしていた。警邏に身体検査されたときに、懐に伝説級の魔道具を潜ませているのが見つかった。
それは強力だが使用者の魔力を半端なく吸う代物らしい。元々の魔力量が膨大な者で無ければ使いこなせない。
また、それほど希少なアイテム、とても彼自身の所有物とは思えない。
俺が聞いた会話からも、あのお貴族様に命じられてやっていたのは明らかだ。
そして。
おそらく、この転移魔法陣で逃亡しようとしていた先に、彼らのボスがいるのだろう。
ボスが誰なのかは、まあ、予想はつく。
市井担当騎士団の保安部隊がゾロゾロとやってきて現場検証を始めた頃に、神子様が現れた。
平民の男が倒れた後は、妨害が無くなって、直ぐにこちらの居場所も特定できたようだ。
ただ、後から駆けつけた騎士たちに、状況説明をする時間がとられて、直ぐには飛んでこられなかったらしい。
神子様は直ぐにシモン様に駆け寄り、治癒魔法を施した。
暴行の痕が消え、意識の戻ったシモン様が、白目をむいている貴族の男を見て言った。
「彼の名はエトヴィン・アレストヴィスタ子爵。我が君を廃嫡に追い込んだディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵の腹心ですよ」
予想通り、彼らのボスはヴァテオ侯爵だ。
今回の凶行に及んだ理由は、単純だ。
自分たちの名前をさらして過去の悪行をばらされたのを見て、激高したからだ。
元々、アーノルド様には並々ならぬ憎悪を抱いていた。
廃嫡までさせたにもかかわらず、自分たちに屈する事無く生意気だったあげく、退学した後も在学中に樹立した剣術大会の快挙や、常に優秀な成績だった事や、校内行事の際の牽引力など、語り草になっていて、人望が衰える事は無かった。
どれ程貶めようとしても、うまくいかなかった。
そのアーノルド様が独立国の王座に就くなど、彼らにとっては到底容認できなかったのだろう。
だから、執拗に邪魔をした。
建国式典の際には幾重にも張られた結界と、そもそもコモ王国側から入国できない状態だったから、外部からの遠隔攻撃しかできなかったが、今回の会談では、自分たちも入国を制限されない第三国であったために、隙を見て妨害をしよう、あわよくばアーノルド様の立場なりお命なりを脅かそうと画策して、前乗りでガヌ公国入りしていたのだ。
だから、最初の狙いはアーノルド様だった。
だが、広場や劇場などで配信されている映像を見て、もみ消してきたはずの過去の自分たちの愚行を暴露する文官を見て、頭に血が上り今回の暴挙となったという流れだ。
引っ立てられていくときに、気がついたアレストヴィスタ子爵はシモン様に向かって「貴様ごときがッ、貴様のような取るに足らない文官風情がッ!誰を敵に回したかわかってるのかっ!地獄に落としてやるッ」とわめき散らしていた。
この場にリオネス様がいなくて本当に良かったと、ラグンフリズ王国の騎士達は震え上がった。
すでに屋外で戦った三人の刺客のうち、息のある二人も拘束されている。
自白アイテムを用いるまでもなく、既にヴァテオ侯爵の命令だと喚いていた。
親玉のヴァテオ侯爵は、激高した勢いでシモン様を害するよう言い捨てて、自分はとっとと逃亡したらしい。
何しろ名指しで糾弾されている筆頭だ。なまじ身分が高いからガヌ公国側にもそれなりの人脈があり、その伝手で入国し滞在していた。
だが、こうなるとその人達からどういう目を向けられるかわからない。そのリアクションに直面する前に逃げ出したという寸法だ。
無論、帰国したとしてももう後は無い。お縄になるまでは息を潜めるしかなさそうだ。
もっとも、バスティアン陛下は彼を再調査すると仰っていたから、もう詰んでいると言えるだろうが。
怪我が治ったシモン様が、我が国のだけで無く、ガヌ公国側の騎士達にも厳重に護られながら、倉庫を後にする後ろ姿を見送りながら、神子様が俺に寄り添ってきた。
「あんなわずかの間でも、全く君の声も居場所も検知できなくなったときには、本当に不安でしょうが無かったよ」
神子様は俺の頬に両手で触れてのぞき込みながら言った。
俺にけがが無いことに安堵の息をつきながら。
「あの平民の男の魔法はちょっと特殊でしたね。結界魔法の一種なんでしょうけど…。魔力も、あの国宝級の魔道具を使っていたとは言え、魔道庁に引き抜かれても良いレベルでした。訓練すれば相当に貢献できそうな資質なのに」
コモ王国のほとんどの領地で、田舎の貧しい平民は、魔力鑑定を受けられずにいて放置されている。
だが、今回の平民の男の場合は、少し違う。
彼に能力があることは知られていたのだ。そのうえで、まともな魔力操作を指導してもらえぬまま、ただ悪事に利用された。
知らずに放置するよりも、よほど悪質だ。
実は彼以外にも似たような事例があるのかもしれない。
貴族に劣らぬ魔力量を持つ者が居ることを承知で、彼のように保護も指導もせず、…つまり責任は果たさず…ただ都合良く使役しているだけの事例が。
そんな奴らが、政権が変わった今ものうのうと貴族院に籍を置いていられるのか。
「助けてくださってありがとうございました」
王宮のサロンに戻った直後。
体が治ったシモン様が駆け寄ってきて頭を下げた。
怪我はきれいに治っているが、服や皮膚に付いた汚れはそのままで、痛々しい。
さすがに顔に付いた血の痕は治癒の際に消してはあったが。
昼食休憩の二時間は、とっくに過ぎて、このまま午後の会談に向かうことになった。
――――――――――――――――――――――――
#100にて完結します。
その為に、今回の#98と#99と#100は、文字数が多くなってしまっています。
ご了承ください
ゼノとオースティンだって、防御のための魔法も使える。
それを突破してあれほどの傷を負わせたのだから、こいつのパワーもかなりのもの。
だが、コイツは物理は無しで魔法攻撃のみの様子。
つまりは、自分の得意とする攻撃魔法が封じられてしまうと、為す術は無い。
俺が近づこうとすると、自分自身に風を纏わせて飛び去る体勢に入る。
だが、逃がす訳には行かない。思い切りジャンプして背後から飛びつき羽交い締めにした。空中で。
焦った敵は、そのまま落下したら自分の命も危ないから、俺ごと風を纏って安全な着地を図った。
容赦なく締め上げて意識を刈り取る。
敵を抱えて着地すると、飛竜騎士が数騎近くに降りたって、どうやら主犯が別の棟に移動したようだと伝えに来てくれた。
倒した刺客たちを竜騎士隊に託して、俺は教えられた棟に向かう。
どうやらあと二人居るらしい。そいつらが、シモン様を担いで移動していったのだと。
その二人のうちのどちらかが、おそらく魔力干渉を途絶し得る魔法を使えるのだろう。
一種の結界魔法の類いなのだろうけれど、神子様のサーチを無効化できるという高度な技だ。
だが、物理の侵入は巧く防げていない。
俺自身が風魔法を使ったり、神子様からの身体強化の効果を使ったりして、その結界の枠内に入ろうとしたら弾かれたのかも知れない。
飛竜によって近づいた時点で魔法を発動してはいなかった。だから入れたのでは無いか。
一度、枠の中に侵入してしまえば、その内部での魔法は使える。
要は本当に外部からの魔法を撥ね除けるためだけの結界という事か。
そして、一つの魔法を使っているときには別の魔法は使えないらしい。
早い話が、あまり制御技術自体は多彩でも巧くもないと見るべきか。強くはあるが。
神子様の身体強化で、通常より鋭くなっている感覚器官が、ある倉庫の近くに寄ったとき人の気配を察知した。
そっと裏手に回り込み、隙間を探す。
関係者では無い彼らが入り込めたのであれば、どこかに隙間があるはずだ。
耳を澄ませる。
ドサリと人が倒れるような音がした。
「おい、何をしてる、魔石に魔力を通しきるまでは倒れるな!おまえにはそれしか能が無いんだから!ちゃんとやれ!」
罵る男の声がする。コモ王国人の話す西クーツ語だ。
ガヌ公国で使われるガネイ語では無い。
倒れた音の主がシモン様では無いかと焦った俺は、とっさに彼らの前に飛び出した。
しかし、見れば倒れたのはシモン様では無く、平民の男で、這いつくばりながらポーションを口に運んでいた。
いや、ある意味ではシモン様も倒れているといえる。
ただ、正確には、シモン様は床に寝かされていた。気を失っているらしく、顔に殴られた痕があり、鼻からも口からも血が流れていた。
携帯用転移魔法陣を床に敷いて四隅に魔石を設置している貴族の男が、俺を見てとっさに慌てて攻撃魔法を繰り出してきた。
風弾だ。
俺が躱すとそのまま背後の壁を粉砕した。
それによって、外に居た竜騎士および警邏にも「ここに居ます」とアピールしてしまい、あっという間に包囲されてしまった。
いち早く平民の男の方は観念してしまったらしく脱力する。
それを見た貴族の男は舌打ちして、とっさにシモン様を引っ張り上げて抱え込もうとした。
おそらく、シモン様を盾にして窮地を脱しようと言う魂胆だろう。
だが、次の瞬間彼はぎゃあっと声を上げてもんどり打った。自分の肩を押さえて。
俺が放った風礫が肩の腱を抉ったからだ。
お貴族様ってのは、ちょっとした痛みにも大騒ぎする。
ぎゃあぎゃあと五月蠅いから、つかつかと寄っていって、物理で蹴りを入れて黙らせた。
ちょうどそいつが気を失ったと同時に、包囲していたガヌ公国の警邏隊や騎士たちが駆け寄ってきた。
現場には、これから転移で逃亡しようとしていた痕跡が明らかだ。
おそらく、神子様の魔力サーチを妨害していたのは、平民の男の仕業。
彼はもうMPが枯渇状態だったのだろう。ほとんど意識も無くぐったりしていた。警邏に身体検査されたときに、懐に伝説級の魔道具を潜ませているのが見つかった。
それは強力だが使用者の魔力を半端なく吸う代物らしい。元々の魔力量が膨大な者で無ければ使いこなせない。
また、それほど希少なアイテム、とても彼自身の所有物とは思えない。
俺が聞いた会話からも、あのお貴族様に命じられてやっていたのは明らかだ。
そして。
おそらく、この転移魔法陣で逃亡しようとしていた先に、彼らのボスがいるのだろう。
ボスが誰なのかは、まあ、予想はつく。
市井担当騎士団の保安部隊がゾロゾロとやってきて現場検証を始めた頃に、神子様が現れた。
平民の男が倒れた後は、妨害が無くなって、直ぐにこちらの居場所も特定できたようだ。
ただ、後から駆けつけた騎士たちに、状況説明をする時間がとられて、直ぐには飛んでこられなかったらしい。
神子様は直ぐにシモン様に駆け寄り、治癒魔法を施した。
暴行の痕が消え、意識の戻ったシモン様が、白目をむいている貴族の男を見て言った。
「彼の名はエトヴィン・アレストヴィスタ子爵。我が君を廃嫡に追い込んだディーデリク・ハフト・ヴァテオ侯爵の腹心ですよ」
予想通り、彼らのボスはヴァテオ侯爵だ。
今回の凶行に及んだ理由は、単純だ。
自分たちの名前をさらして過去の悪行をばらされたのを見て、激高したからだ。
元々、アーノルド様には並々ならぬ憎悪を抱いていた。
廃嫡までさせたにもかかわらず、自分たちに屈する事無く生意気だったあげく、退学した後も在学中に樹立した剣術大会の快挙や、常に優秀な成績だった事や、校内行事の際の牽引力など、語り草になっていて、人望が衰える事は無かった。
どれ程貶めようとしても、うまくいかなかった。
そのアーノルド様が独立国の王座に就くなど、彼らにとっては到底容認できなかったのだろう。
だから、執拗に邪魔をした。
建国式典の際には幾重にも張られた結界と、そもそもコモ王国側から入国できない状態だったから、外部からの遠隔攻撃しかできなかったが、今回の会談では、自分たちも入国を制限されない第三国であったために、隙を見て妨害をしよう、あわよくばアーノルド様の立場なりお命なりを脅かそうと画策して、前乗りでガヌ公国入りしていたのだ。
だから、最初の狙いはアーノルド様だった。
だが、広場や劇場などで配信されている映像を見て、もみ消してきたはずの過去の自分たちの愚行を暴露する文官を見て、頭に血が上り今回の暴挙となったという流れだ。
引っ立てられていくときに、気がついたアレストヴィスタ子爵はシモン様に向かって「貴様ごときがッ、貴様のような取るに足らない文官風情がッ!誰を敵に回したかわかってるのかっ!地獄に落としてやるッ」とわめき散らしていた。
この場にリオネス様がいなくて本当に良かったと、ラグンフリズ王国の騎士達は震え上がった。
すでに屋外で戦った三人の刺客のうち、息のある二人も拘束されている。
自白アイテムを用いるまでもなく、既にヴァテオ侯爵の命令だと喚いていた。
親玉のヴァテオ侯爵は、激高した勢いでシモン様を害するよう言い捨てて、自分はとっとと逃亡したらしい。
何しろ名指しで糾弾されている筆頭だ。なまじ身分が高いからガヌ公国側にもそれなりの人脈があり、その伝手で入国し滞在していた。
だが、こうなるとその人達からどういう目を向けられるかわからない。そのリアクションに直面する前に逃げ出したという寸法だ。
無論、帰国したとしてももう後は無い。お縄になるまでは息を潜めるしかなさそうだ。
もっとも、バスティアン陛下は彼を再調査すると仰っていたから、もう詰んでいると言えるだろうが。
怪我が治ったシモン様が、我が国のだけで無く、ガヌ公国側の騎士達にも厳重に護られながら、倉庫を後にする後ろ姿を見送りながら、神子様が俺に寄り添ってきた。
「あんなわずかの間でも、全く君の声も居場所も検知できなくなったときには、本当に不安でしょうが無かったよ」
神子様は俺の頬に両手で触れてのぞき込みながら言った。
俺にけがが無いことに安堵の息をつきながら。
「あの平民の男の魔法はちょっと特殊でしたね。結界魔法の一種なんでしょうけど…。魔力も、あの国宝級の魔道具を使っていたとは言え、魔道庁に引き抜かれても良いレベルでした。訓練すれば相当に貢献できそうな資質なのに」
コモ王国のほとんどの領地で、田舎の貧しい平民は、魔力鑑定を受けられずにいて放置されている。
だが、今回の平民の男の場合は、少し違う。
彼に能力があることは知られていたのだ。そのうえで、まともな魔力操作を指導してもらえぬまま、ただ悪事に利用された。
知らずに放置するよりも、よほど悪質だ。
実は彼以外にも似たような事例があるのかもしれない。
貴族に劣らぬ魔力量を持つ者が居ることを承知で、彼のように保護も指導もせず、…つまり責任は果たさず…ただ都合良く使役しているだけの事例が。
そんな奴らが、政権が変わった今ものうのうと貴族院に籍を置いていられるのか。
「助けてくださってありがとうございました」
王宮のサロンに戻った直後。
体が治ったシモン様が駆け寄ってきて頭を下げた。
怪我はきれいに治っているが、服や皮膚に付いた汚れはそのままで、痛々しい。
さすがに顔に付いた血の痕は治癒の際に消してはあったが。
昼食休憩の二時間は、とっくに過ぎて、このまま午後の会談に向かうことになった。
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#100にて完結します。
その為に、今回の#98と#99と#100は、文字数が多くなってしまっています。
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