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2章 気付けなかったフラグ
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しおりを挟む死体の表現部分があります。
苦手な方はどうかご注意ください。
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起床、軽く勉強、朝食、少しの休息の後再び勉強、昼食、昼寝、訓練場で魔法鍛錬、少しの休憩の後再々度勉強、夕食、その後は日によって異なるが、大体はこんな感じでエリューシアは過ごしている。
この世界の標準等は知らないが、少なくとも日本人感覚では、幼児に対して許容できる範囲を超えている気がする……いや、間違いなく超えている。
しかしエリューシア本人は清々しい程あっさりとこれらをこなしていた。
今日も今日とて訓練場では魔力の風が舞い踊っている。
初めて訓練場に立った日に披露したのは複合魔法だったが、複数の属性を合わせる魔法と言うのは『中級』ではなく『上級』にあたる。
2、3歳の幼児が扱える魔法では、本来なかったが、いとも容易くやってのけ、今はと言うと、その精度を上げようとしているようだ。
炎球を作り、そのまま風を纏わせる事は問題が無い。もう何度となく行った操作で、意識せずとも行使できる。しかしその風の操作に手を焼いていた。
広範囲ではなく狭い範囲に威力を高めて着弾させたいのだが、どうしても着弾時に若干拡散してしまい威力が落ちるのだ。
最も、元の威力が高い様なので、そんな繊細な操作は必要ないと思われるのだが、エリューシアは何かに憑かれたかのように、一心に魔法を振るっている。
桜色の可憐な唇をきゅっと真一文字に引き結び、新しく置き換わった的の人形を睨み据える。
そのまま左手に炎を呼び出して、今度は少し紡錘形に整形してから風を纏わせた。イメージはゲームの魔法ランスとか魔法スピアとか言うアレだ。
何ならそこに某国民的ロボットアニメの、何とかの槍のイメージも上乗せしてみても良いだろう。
ゴォォゥッと低く唸るような音を立て、風を纏った炎の槍が手の中に構築されると、それを的めがけて一気に押し出した。
イメージ的には『投げる』ものなのだろうが、そう言う行動をとる事で、反対に狙いがブレることを忌避した結果だ。
目にも止まらぬ速さで、真っすぐ進むエリューシアの槍が、的になった人形の真ん中にガンと大きな音を立てて突き刺さる。
バリバリと的になった人形を構成する物質が悲鳴を上げていたが、徐々に静まり、残った物は真ん中に黒く焼け焦げた跡を残す、粉砕されていない人形だった。
その様を確認して、エリューシアはホッとしたような表情を一瞬浮かべる。
しかし満足していないのか、直ぐにまた表情を引き締めた。
(出来た……炎と風は相性が良いし、複合魔法と言っても、このくらいは初歩と言って良いと思う。だけど………)
沈痛な表情のまま、自分の小さな手を見つめる。
(足りない……全然足りてる気がしない。
どんなに大きな魔法が使えても、私には決定的に足りないものがあるわ……だけど……)
アイシアの5歳のお披露目を無事に終え、次に来るエリューシア5歳のお披露目会もそろそろ気に掛けようかという頃、一つの噂を使用人が拾って来た。
拾って来たのは長く仕えてくれているノナリーと言う名のメイドで、人の懐に入るのが上手いのか、いろんな話を拾ってくるのだ。
まだこの世界には印刷技術はないのか、あっても割高なのかもしれないが、新聞などもない為、情報の鮮度は良くない……というか、はっきり言って悪い。しかしそれでも人の噂と言うのはなかなかな速さを持って広がる。
つい先日、とある平民の娘が1人行方不明になったと言う。
自領での話かと思いきや、隣領らしく詳細は不明なままだが、平民の娘となると金品を目的とした誘拐とはとても思えない。
とはいえ、嘆かわしい事ではあるが、ちょっと可愛らしい子供なら人攫いに狙われる等、日常茶飯事の事で、耳目を集めるような事件ではなかったのだが、その事件は少しばかり様相が異なった。
多くの場合、奴隷商なんかによって国外に連れ出され、その後は痕跡も残さない事が多いのだが、その娘は数日後死体となって発見されたのだそうだ。
しかもその死体と言うのが、少々常軌を逸していたらしい。
攫われて数日後の発見となれば、仮に真夏の暑い時期だったとしても、まだ原形をとどめていて、生前の容貌の判別も難しくはないだろうと思われるのだが、その死体は腐敗するどころか、完全に干からびており、最初人間の死体だと気付かなかったようだった。
実際、今の季節は夏ではないが、真冬でもない。
そんな数日でミイラ状態になる可能性など、誰も思いつくはずもなく、結局未だに事件は有耶無耶のままなのだそうだ。
恐らく『迷宮入り』とか言うやつになるだろう。
残された家族は子供が居なくなったことに頓着しないような者達ではなく、近所の自警団や騎士団なんかに相談していたらしく、最悪の形ではあったが、被害者は家族の元へ戻る事は出来たようが、痛ましい限りだ。
しかし、この話がエリューシアには引っかかって仕方がなかった。
誘拐
容貌の激変
たったそれだけだ。だけど、どうしても気になる。
ふぅと息を吐いて訓練場から出る。気になり出して集中ができそうになかったからだ。
自室に戻る途中、大きな窓越しに、アイシアが母セシリアから魔法の手ほどきを庭で受けているのが見えた。
前世から最推しで、現在進行形で大好きが募るばかりのアイシア、そして家族。
自分は本当にそれを守ることが出来るのか……。
エリューシアの思い過ごしならばいい。だけど、引っかかった事件から感じるのはとてつもない悪意。相手は人の命を奪う事に躊躇などしない。
そんな悪意の塊を相手に、エリューシアは自身が立ち向かえるのか、どうしても不安が拭えない。
どれほど魔法の腕を磨いても『相手を害する』事に躊躇っていては、自分の方がやられる。そうとわかっていても、前世日本人の常識と感覚が抜けないのだ。
(私に……敵を害する……命を奪う覚悟は……できるのかしら……)
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