【完結済】悪役令嬢の妹様

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3章 フラグはへし折るもの、いえ、粉砕するもの

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 そのまま無言でヘンドルが腕組をする。

「エリューシアお嬢様は、それ等の書物からそこまで読み解いたのですな。では前王の代の事は、この爺めがお話ししましょう。当代については旦那様や奥様にお声がけしてからの方が良いでしょうが」

 何も聞けず、五里霧中、暗中模索になるよりずっと良いと、エリューシアはこくりと頷いた。

「先王ヴィークリス陛下は、概ね良王と言って良い御方でした。
 抜きんでた所はなくとも、堅実に政を行われておいでだったのですが、先王様がまだ王太子だった頃、この国は大きな厄災に見舞われました」
「厄災……ぁ、流行病?」
「ホッホ、そこも押さえておられましたか。左様、流行病のせいで平民は勿論、王侯貴族にも大きな被害が出ました。
 当時王太子だったヴィークリス様の妃候補となる御令嬢が立て続けにお亡くなりになられ、高位貴族にいなくなってしまったのです。
 辛うじて伯爵家に未婚の御令嬢が一人生き残られましたが、その方に決まるまで、かなり揉めましてな……正直、あまり優秀とは言えない御令嬢だったのです」
「そうなのね」

 先王妃モージェン様については、確かに伯爵家長女と言う記録は残っているが、流石に成績他は残されていない。残っているのかもしれないが普通に開示されない情報だろう。とはいえ、それ以外の記録も残されていなさすぎるとも言える。読んだ限りではあまり公務にも携わっていなかったように思えるのだ。

「確かに殆ど記録が残ってなくて……もしかして、あまり表に出ない方だったの?」
「ホッホ、これは爺がお話しする必要はないかもしれませんな」
「そんな! ヘンドルの話をもっと教えて欲しいわ」

 エリューシアが懇願するように、両手を組み合わせてヘンドルを見つめる。

「多分お嬢様の予測とかけ離れていないとは思いますが、わかりました。
 学院の成績も下から数えたほうが早く、またそれ以外の部分についても、王家に嫁ぐには足りないところが多い有様でした。

 しかしモージェン様も望んで王家に嫁ぐことになった訳ではございません。高位貴族の御令嬢方が流行病でお亡くなりになり、図らずも順位が繰り上がっただけの事。勿論他国へも打診されたようでございますが、すげなく断られたようでございました。
 それ故、ヴィークリス様はモージェン様がお辛い思いをしないで済むようにと、あまり公務を回されなかったようです。
 散財などもされない、大人しいごく普通の御令嬢でいらっしゃったようで、他の貴族家からは軽んじられる結果に繋がってしまいました。
 ヴィークリス様の目の届かない所では、かなりお辛い目にも合われたようです」

 そこまで聞いて、エリューシアはすんと表情を落とし、視線も下げて思考に沈む。

(なるほどね。公文書にほぼ何も記録が残っていなかったわけだ。
 だけど先王時代の話が、どうして現在進行形の我が家の王家嫌いに繋がるのかしら……確かに王妃がそれでは、王が頑張った所で求心力の低下は招いたかもしれないけど、少なくとも今の所、我が公爵家に実害はなかったのよね?)

 視線をヘンドルに戻して口を開く。

「今までの話で、王家に求心力低下の兆しがあったことはわかったわ。だけど、先王陛下は普通に良王といわれているのよね? だったら王妃陛下が多少残念でも……さっきの話だと財政破綻を招いたとか、何かやらかしたわけじゃないのでしょう? それがどうしてあそこまでの毛嫌いに繋がるの? 何か我が家が巻き込まれた?」
「まぁ、巻き込まれたとも言えますかな……とはいえ旦那様達の一番の心配は、アイシアお嬢様とエリューシアお嬢様のお二人だと思います」
「ぇ…お姉様!? お姉様に何かあると言うの!?」

 ヘンドルの穏やかな笑みが掻き消え、眉間の皺を深くした。

「この国で精霊がどう扱われているのかはご存じですかな?」

 なるほど、精霊に繋がるのかと、エリューシアは頷く。

「建国の話やら、色々な所に出てきて、ある意味信仰対象にもなっているようね。だから私も、お披露目までは隠れていないといけないのでしょう?」
「左様でございます。精霊がこの地に人が住まう事を許してくれたおかげで、この国があると言われております。
 それだけでなく数々の恩恵をくださり、そして精霊の姫が輿入れされ、その血が今も続いているとも言われております」
「それなら問題になりそうなのは私だけじゃないの?」
「問題だなどと……ですが、精霊の姫が輿入れされたのは王家ではなく、その時代の王弟殿下であったと言う話がございます」
「まさか…」
「はい、その王弟殿下の興されたのが、ラステリノーア公爵家でございます。最もこれも公に認められた話ではございません。どちらかと言えば隠された話でございます。
 あくまで『王家』に輿入れされたと伝えられているだけで、王弟殿下であっても『王家』には違いございませんからな」

 そんな話は聞いた事がなかった。当然前世のゲームにもそんな話は出てこない。
 ヘンドルも言ってたが、本当に秘された話なのだろう。まぁ秘話として伝えられている話等、嘘大げさ紛らわしいなんて普通の事だ。眉唾物として聞くくらいで丁度良いだろう。
 しかし、そういう事ならエリューシアの精霊の愛し子の証は、出るべくして出たと思われているという事か…。なるほど、アイシアが王家に望まれるのも納得できる。
 という事は……。

「先代王陛下の時代よりも、今の王家は求心力が無くなっているという事? だからアイシアお姉様が危ない?」
「エリューシアお嬢様……お嬢様御自身もですぞ」
「え? あぁ、私はほら、精霊防御も精霊カウンターもあるから、平気平気」

 ひらひらと手を振れば、ヘンドルから呆れたような視線を向けられる。

「そんな残念な子を見る目をしないでくれると嬉しいのだけど……」
「エリューシアお嬢様は確かに魔法も、精霊の加護もあるでしょうが、何の危険もない訳ではないのですぞ。
 どうか御身を大切になさってください」
「むぅ…わかったわ」

 渋々と言った体ではあったが、ヘンドルの苦言に頷けば、いつもの穏やかな笑みが戻ってきた。
 そして椅子を引いて立ち上がり、両手を後ろ手に組んでから、エリューシアの方を振り返る。

「この続きは旦那様、奥様に伺ってからに致しましょう」

 促されてエリューシアも椅子から滑り降りるが、その表情はさえない。

「お父様お母様はお話しして下さるかしら……先だって訊ねた時には沈黙しか返ってこなかったの…」
「お嬢様がここまで理解していらっしゃると知って頂ければ、きっとお話しくださいますよ。この爺めも微力ながらお口添えいたしましょう。
 きっと知らぬままより、知ったほうがお嬢様には良い様な気がいたします」

 ヘンドルのその言葉に、エリューシアは少し小走りになって、彼の背中を追いかけた。



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